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多様な社会に対応し、実社会で活躍してほしい

本年度の卒業式にあたり、学長として一言ご挨拶を申し上げます。
卒業生の皆様、修士、博士の学位を授与された皆様、心よりお祝いを申しあげます。また、今まで皆様を支えてくださったご父兄をはじめとするご家族、関係者の方々のお喜びは大変なものと推察いたします。本当におめでとうございます。

卒業生の皆様が手にした卒業証書はそんなに大きなものではありません。しかしその証書の中には、個々人の様々な思い出が詰まっていることでしょう。杏林大学の3研究科、4学部、医学部付属看護専門学校でともに学んだ1,142名の皆様は、学んだ場所は三鷹キャンパス、八王子キャンパス、井の頭キャンパスと異なり、また学んだ年限の違いはありますが、卒業に至るまでの間にはいろいろな出来事があったはずです。特に中国をはじめとする留学生の方々の苦労は、まさに筆舌につくしがたいものがあったのではと思います。それらを克服し、その結果が本日の素晴らしい日となりました。私は、皆様の努力に心から敬意を払いたいのです。

この喜びの日を迎えるに当たり、何よりあなた方を支え、応援してくださったご父母、ご家族、友人に感謝の気持ちを新たにしてください。また、皆様の勉学を積極的に支援してきた杏林学園の教員、職員の働きも決して忘れないでいただきたいと思います。

ご承知のように、松田進勇先生により1966年に創立された杏林学園は昨年50周年を迎えました。その大きな事業として井の頭キャンパスが開設され、八王子キャンパスにあった保健学部、総合政策学部、外国語学部、保健学研究科、国際協力研究科が移転してきました。今回の卒業生の皆様の多くは在学中に八王子から移転をせねばならず、大変なご迷惑をおかけしました。
しかしどうでしょうか、井の頭キャンパスは本当に素晴らしく、学外からも高い評判をいただいております。皆さんの母校として誇りを持てるキャンパスであることから、移転に伴う大変さをお許しください。

さて、皆様の多くは社会人として活躍することになります。そこはどのような社会なのでしょうか。
そこは、まさに多様化した社会であります。多様化とは幅広く性質の異なるものが存在することを意味しています。これから経験する実社会はまさにグローバルな意味での多様化した社会です。人種、性差、言語、信教の違い、障害の有無など、私達は多様性の強い社会で生活しているのだと実感するはずです。

このような社会で生活する、活躍するために何をすればよいでしょうか?もちろん答えは一つではありません。多様化した社会では多様化した対応が必要となります。
その中で、私は皆さんにお願いしたいことが一つあります。それはコミュニケーション能力を磨いてほしいということです。
コミュニケーションの定義は多様ですが、難しくいえば意思の疎通ということでしょうか、一般的には他人との情報交換と、それによりともに理解を深めることであります。
ただ単に会話をするだけではありません。相手の思いを理解し、それを共有し、さらにそれに対する自分の考えをしっかりと優しく相手に伝えることが重要です。これがコミュニケーションができたということです。
今日、人工知能(artificial intelligence、AI)が話題を集めています。AIによりなくなる職業は何か?とかAIにより人類は征服されてしまうのではないか、などはSFの世界ではなく将来起きうることとしてメディアを賑わしています。言語についても、自動翻訳機から自動会話機が進めば誰とでもコミュニケーションができるとされ、そんなに遠い未来の話ではないとのことです。本当にそうなのでしょうか?我が国におけるAI研究の第一人者 西垣通東大名誉教授は、AIによるコミュニケーションは将来的にも不可能であろうと断言しています。なぜなら人のコミュニケーションは詩的で柔軟な共感作用だからだ、というのです。

皆さんが猫というとき英語翻訳ではa catとなります。猫とa catは微妙に違います。日本人が猫をイメージするときは夏目漱石の『我が輩は猫である』を思い浮かべるかもしれません。米国人だとエドガー・アラン・ポーの『黒猫』(The Black Cat)かも知れません。猫に関する情報は一人一人異なります。皆さんの中での猫はどんな形でイメージされるのでしょうか。幼い頃に見たふわふわとした毛並みの鋭い眼の猫でしょうか。A catと猫という簡単な単語一つとっても共通の理解はそんなに簡単なことではないようです。

これらのことからもわかるように、お互いが本当の意味でコミュニケーションできるためには、個々が努力をしなければなりません。相手のいっている言葉,その背景にある相手の立場、考え方、今相手のおかれている状況などをしっかりと理解すること、そして正しく自分の考えを伝える言語能力を高めること、これらを含めてコミュニケーション能力を磨くということであり、これが重要だと考えます。
卒業生の皆さんは本学で学んだことを基礎とし、しっかりとしたコミュニケーションをとることで、多様な社会に対応し、実社会で活躍することを願っています。

杏林学園の卒業生は3万名を超えており、これに新しく皆様が同窓生として加わります。杏林大学でともに学んだ皆様も、新しい杏林学園の同窓生としてとして、しっかり絆を深めていただきたいと思います。

創立半世紀を超えた杏林学園は、さらに発展する大きな一歩を踏み出そうとしています。ぜひ、皆様のお力をお貸しくださるよう、お願いいたします。
卒業生の皆様、健康に気をつけてご活躍ください。


2017年3月12日 平成29年3月卒業式 学長式辞