米国出張報告
6.用務の概要
米国の老人施設の概要を把握するため下記の日程により、研究所蒲生と松井の二名が米国シアトル市、フェニックス市、サンフランシスコ市の三市に出張した。
シアトル市とフェニックス市では、以前より交流のあるワシントン大学医学部のThomas McCormick博士の好意あふれる案内で、Independent Livingのみの施設(Senior Housing Assistance Group-Victoria Park)からAssisted Living、Skilled Nurse Care Unit (Aljoya Thornton Place)、さらに認知症に対応するMemory Unitを持つ施設(Ida Culver House Broadview)、また入居時に費用について相当の一時金を預託する施設から一時金は小額の施設まで幅広い選択肢を見学できた。入居条件の多様性のみならず、提供する介護や医療にも多くの創意と工夫が見られた。特に“規制緩和”により柔軟に介護や医療の利用が可能な施設が印象的であった。フェニックス市は温暖で乾燥した気候で数十年前から高齢者の居住地として好まれている。特にSun Cityを中心とする地域は居住者の年齢を50歳以上に制限するという特異な地域であり、現在も膨張し続け、多様な居住形態が可能である。その中で多数の施設が高齢者に最適化した居住・介護サービスへの提供に努力しているのが印象的であった。
サンフランシスコ市ではCalifornia Pacific Medical CenterのJulie HANADA氏の案内で特に日系人が居住する地域の施設を見学した。HANADA氏とも数年来の交流があり、今回は特にBuddhist Church of SFの住職Kobata氏をご紹介いただいき、非常に丁寧なご対応をいただき、近隣の高齢者施設にご案内いただいた。今回は一日のみの短い訪問であったが、米国の日系社会が歴史的な背景からきわめて特殊な社会であることが理解できた。この訪問で得た情報と人脈等を活用し、今後、その高齢者介護と将来像の見通しについて、さらに接触を維持し検討したい。なお、この訪問でのキーとなる概念は次の幾つかに集約できると考える。それぞれについて別にまとめて研究所紀要等で公開する予定である。
また訪問した施設の概要等については以下に記す。
① Aljoya Thornton Place (Seattle、2月3日訪問)
Ms. Mariah Reagan(Community Relations Counselor)に説明を受けた。“Aging in place”(住み慣れた場所で可能な限り長く生活する)という観点を追求し2009年にオープンした、新しいコンセプトのCCRC。入居者はentrance feeに加えて、毎月の費用を払う。Independent Living(IL)の部屋を基本としつつ、入居者の医療介護ニーズの変化に応じて必要な人員・設備を導入することにより、同じ部屋に居住したままAssisted Living(AL)やSkilled Nursing(SN)のケアを受けることができる点に特徴がある。
② Ida Culver House Broadview (Seattle、2月3日訪問)
Mr. Greg Byrge(Executive Director)に説明を受けた。1990年設立のオーソドックスなCCRC。IL、AL、SNのエリアに分かれており、Aljoyaと異なり、入居者は医療介護の必要性の変化に応じて移動する。医療介護の必要性がまだ低く、自律した生活を特に重視する入居者のためのコテージ型のILや、物忘れ・認知症が進んだ入居者のケアに特化したフロアも設置されている。
③ Foundation House at Bothell (Seattle、2月3日訪問)
Mr. & Mrs. Loren Arnett(Resident)に説明を受けた。 Seattle Education Foundationによって設立された、ILのみの高齢者住宅。食事等のサービスは提供されるが、生活補助や医療介護ケアの必要性が生じた場合は、外部のサービス・施設を利用する必要がある。Entrance feeは無く、月々の居住費を支払う。費用はAljoyaやIda Culverと比較すると低く設定されている。
④ Victoria Park (Seattle、2月3日訪問)
Mr. Victor Chin(Community Manager)に説明を受けた。 Foundation House同様、ILのみの高齢者専用住宅であるが、周辺の通常の住宅と比較しても居住費が低く設定されている点に特徴がある。食事や医療介護などのサービスは存在せず、基本的には住居や交流の場を提供するだけである。運営母体が持つ他の高齢者住宅の中には、入居者を低所得者に限定することで税制上の優遇を受けるものもあるが、本施設は所得制限が無いタイプであり、居住者の中には比較的高所得者もいる。
⑤ Royal Oaks (Phoenix、2月5日訪問)
Ms. Kendra Eberhart(CEO)及びMr. & Mrs. Fred MacFarlane(Resident)に説明を受けた。630人の居住者に対して350人の職員を抱える高サービスのCCRC。医療介護ケアのニーズに対応したIL、AL、SNの全ての設備人員に加えて、物忘れ・認知症の入居者ケアのためのエリアも設置されている。コテージ型など入居者の多様な希望に対応して様々なタイプや広さの住居が用意されている。
⑥ Kokoro Assisted Living & Kimochi Home (San Francisco、2月8日訪問)
Rev. Ronald Kobata(Resident Minister, Buddhist Churches of San Francisco)、Rev. Julie Hanada(Director of Hospital Chaplaincy and Clinical Pastoral Education, California Pacific Medical Center)、Ms. Naoko Jones(Director of Activities)の説明を受けた。KokoroはILとALによって構成される、日系の高齢者を主な対象とした高齢者住宅。ケアスタッフが常駐し健康チェックや投薬管理が行われる他、食事や各種催し物などのサービスが提供されている。Kimochiでは、長期の入居ケアに加えて、短期ケア(Respite care)やデイケア・プログラムが提供されている。Buddhist Churches がこれらのCommunityを繋ぐ核となっている点が特筆される。