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広島市及び尾道市への出張報告

尾道地域医療連携推進特区の情報収集を目的とした広島市及び尾道市への出張

杏林CCRC研究所
松井孝太


平成26年3月14日(金)から15日(土)の二日間、広島県の尾道地域医療連携推進特区の情報収集のため、研究所のメンバー4名(蒲生、相見、松井、多田)が広島県庁と尾道市を訪問した。14日午前9時に東京駅を出発し、午後2時前に広島県庁に到着。午後2時から約2時間、広島県庁舎内にて広島県総務局経営企画チーム政策監(施策提案・特区担当)の金光義雅氏より特区に関する資料の提供と説明を受けた。

広島県庁にて

広島県庁にて

 ICTを活用した地域医療・介護連携による在宅医療等の充実を目指す尾道医療連携推進特区は、平成23年12月に地域活性化総合特区に指定された。地理的範囲としては、尾道市の中核病院を中心とする二次医療圏をベースに、尾道市に加えて隣接する三原市の全域と福山市の一部地域(松永沼隈地区)をカバーしている。事業の中心的な担い手となっているのはNPO法人「天かける」で、同法人の理事長であり元広島大学医学部教授の伊藤勝陽氏がJA尾道総合病院院長を務めた際に尾道地域における医療介護連携を発案した。これを受けて広島県が国に対して特区申請を行い、平成23年から2年間、総務省の「健康情報活用基盤構築事業」に採択され助成を受けた。システムを開発・提供しているのはNECグループの日本電気で、これはJA尾道総合病院の電子カルテ化の際に同社がシステムを提供したことの延長線上にある。

 同特区では大きく分けて二つの事業が進められている。

 第一は、医療・介護情報基盤(ネットワーク)の構築である。これは、医療・介護における円滑な情報共有を可能とすることにより、患者が病院、在宅治療、リハビリ、介護の間を移動する中で、シームレスで最適な医療・介護サービスの提供を実現するという構想である。具体的には、尾道地域の中核病院であるJA尾道総合病院と尾道市立市民病院を中心に、地域の病院、診療所、薬局、介護施設に対して診療情報の共有を可能とするネットワークを構築している。平成26年1月1日時点で122施設(整備率約3割)が参加しており、最終的には約250施設の参加を目指しているという。病院・診療所では参加70施設のうち27%に当たる19の施設が情報を開示しており、その他は共有情報閲覧のみの参加である。同じく、調剤薬局では参加37のうち開示6(16%)、介護在宅支援施設では参加15のうち開示8(53%)となっている。閲覧された情報の種類は多岐に渡るが、特に画像、検査結果、処方のニーズが高い。情報共有の結果として、重複検査や重複投与の減少といった効果が認められた。

 成果が見られる反面、課題もある。その一つが、中核病院と診療所の中間に位置する一般病院の情報開示の遅れである。これは、小中規模の一般病院において、初期コストの大きい電子カルテの導入が進んでいないことに起因している。在宅から急性期のシームレスな医療・介護連携を実現していく上で、これらの病院のネットワーク化は重要な課題である。

 第二の事業は、ICTを活用した在宅医療等支援モデルである。尾道地域は離島や僻地を含んでおり、通院や薬剤の配送・受け取りのための時間的・距離的負担が大きかった。そこで、ICTを活用した在宅診療、服薬指導等や見守りのモデル事業を実施している。平成25年度に新たに4機関が参加し、現在11機関、約100名超の患者が参加している。ただし、遠隔医療に関する規制の特例については国との協議中のため、現行法令で認められる範囲内で実施されている。特に遠隔での服薬指導に関しては最近の薬事法改正の煽りを受けている。

 特区に認定される一つの意義は様々な規制の特例が認められることであるが、このように、尾道における医療・介護連携事業においては、基本的には現行法令の範囲内で行われている。診療情報の共有に伴う個人情報の保護に関しても、特区申請の段階においては黙示的・事前説明による包括同意が想定されていたようであるが、実際には明示的な署名同意を取得している。
特区認定のより実質的な意義は、財源面での国からの助成にある。事業発足の最初の2年間は、全額を国が負担した。しかし今年度からは国の支援が行われないこととなったため、地域の主体的運営となっており、システム維持経費は地方医師会などが負担している。ただし、情報閲覧のみの参加の場合はそれほどコストを要しないようである。

 金光氏から得た情報の中で特筆に値する点の一つは、ICTネットワーク構築に先立つ地域の既存の人的ネットワークの重要性である。尾道地域は従来から医師会やかかりつけ医を中心として「尾道方式」と呼ばれる地域の医療ケアシステムを構築しており、退院時のケアカンファレンス等に見られるように、地域医療の先進地域であった。ICTを利用した情報共有ネットワークはあくまでも既に存在する基盤の有効性をさらに高めるものであって、基盤が存在しない所でICTネットワークを機能させることは困難であろうという指摘がなされた。この点は、杏林大学及び三鷹市周辺地域において医療ネットワークを構築する際にも重要な指摘であるように思われる。

JA尾道総合病院

JA尾道総合病院

JA尾道総合病院 外来入口

JA尾道総合病院 外来入口

 蒲生所長は15日に東京大学が主催するシンポジウムに出席するため、15日午前9時に広島駅を出発し東京へ向かった。蒲生所長を除く3名は同時刻に広島駅を出発して尾道市に向かい、JA尾道総合病院と「天かける」事務所所在地を見学した。JA尾道総合病院は2011年に現在の所在地へ新築移転されて間もなく、地域の中核病院として極めて充実した施設であることが見て取れた。一階外来受付には、NPO法人の名前の由来となった尾道市出身の平山郁夫画伯の作品「天かける白い橋」が飾られていた。素朴な趣の「天かける」事務所が所在する尾道市域は坂道が多く山の斜面に住宅が並んでおり、地域医療のネットワークの重要性を伺わせるものであった。

平山郁夫画伯の作品「天かける白い橋」

平山郁夫画伯の作品「天かける白い橋」