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東京大学政策ビジョン研究センター「日愛交流社会科学シンポジウム—日本・欧州の福祉社会の将来を探る」参加報告


 平成26年6月21日(土)、東京大学政策ビジョン研究センター主催(東京大学高齢社会総合研究機構、University College Dublin他共催)の公開フォーラム「日愛交流社会科学シンポジウム—日本・欧州の福祉社会の将来を探る」が東京大学法科大学院で開催され、研究所の蒲生と松井が参加した。主な参加者は日本及びアイルランドの研究者、学生、政府関係者であった。本シンポジウムの趣旨は、日本社会が抱える少子高齢化問題の要因と政策的課題に関して、アイルランドにおける取組みとの比較検討を行うことで、両国の将来に向けた示唆を得るというものであった。開会にあたり、東京大学公共政策大学院長の城山英明氏による挨拶と、駐日アイルランド大使の挨拶(代読)が行われた。

1.セッション1「日本・アイルランド・ヨーロッパの住宅・都市計画比較」
 はじめに、アイルランドの住宅政策に関して、ミシェル・ノリスUCD応用社会科学学科上級講師が報告を行った。アイルランドの持ち家率は、2000年代に低下し始めるまで、20世紀初頭から1990年代まで長期に渡り上昇を続け、高い水準を維持していた。アイルランドの事例は、自由主義的政策が高い持ち家率につながるとする一般的説明では理解できず、むしろ再分配という社会政策的性格を持つものであった。同様の事例はアイルランド以外の国々でも観察されており、持ち家政策の性格をより詳しく検討していく必要があるとした。次に、大月敏雄東京大学大学院工学系研究科教授が、日本の住宅政策史に関して報告を行った。江戸時代から現代に至る住宅像の変化を概観した後、現在の住宅政策の課題として、人口減少と高齢化、それに伴う空き家の増加、災害への対応などがあるとした。

2.セッション2「日本・アイルランドの家族と家族支援政策比較」
 はじめに、一橋大学大学院経済学研究科准教授の山重慎二氏が、日本の少子化の要因に関して家族政策の観点から説明を行った。高度経済成長前の日本では、若年夫婦が高齢の親を介護し、高齢の親が若年夫婦の子育てを支援するという関係が成立していた。しかし、市場経済の発展に伴う若年層の人口移動によりそのような構造は崩れ、貧困化する高齢者を支えるための福祉政策が1970年代以降発展した。しかし、高齢者に代替して子育てを支援する政策は発展しなかったために、少子化が急速に進んだ。そこで、持続可能な社会にするためには、子育て支援の大幅な拡大ないし移民の拡大が必要であるとした。次に、トニー・ファヒーUCD応用社会科学学科教授がアイルランドの家族のあり方に関して報告を行った。アイルランドの家族主義(familism)は日本と異なるだけでなく、時代によっても変化してきた。例えば結婚外の子育て支援が拡大し、出生率低下を食い止めた背景には、カトリック教会が中絶の抑制をより重視したというような要因がある。また、大家族が多い一方で子供なし世帯も多いなど、子育てのコストだけでは説明できない現象などもあり、アイルランド特有の文化的要因を考慮する必要性が示唆されるとした。

3.セッション3「日本・アイルランド・ヨーロッパの周産期医療サービス比較」
 日本とアイルランドの周産期医療サービスに関して、UCD応用社会科学学科専任講師の小舘尚文氏と東京大学大学院医学系研究科助教の福澤利江子氏が共同で報告を行った。日本では正常分娩は疾病ではないとして保険適用外とされているのに対し、アイルランドでは周産期ケアへのアクセス確保が重視されているなど両国の周産期サービスには様々な相違が見られる他、産休・育休などの諸制度に関しても両国の対比によって興味深い知見が得られるとした。

4.セッション4「福祉国家から規制国家へ—第三者機関・メタレギュレーションの役割」
 シンポジウムのまとめとなる本セッションでは、はじめにコリン・スコットUCD法学部長が、福祉国家から規制国家への変化に関して、メタレギュレーションという観点から報告を行った。規制資本主義社会では、国家機関と他の規制機関が共存し、国家と非国家主体・下位政府・国際的主体との間の相互依存関係が重要となるとした。次に、東京大学大学院法学政治学研究科の樋口範雄教授が、高齢化との関連で日本の規制国家の問題点について報告した。医師以外による医療行為を厳しく制限する医師法をはじめ、急速に社会が変化する中で旧来の過度の規制が様々な弊害をもたらしており、規制のための規制になっている。規制が本当に重要な目的の実現に資するような規制改革が必要であるとした。

 セッション終了後は、各報告に関して会場参加者を含め活発な質疑応答と意見交換がなされた。また蒲生はシンポジウム後の講演者との会食に参加し、家族のあり方や育児に関するより現実的な問題についての会話を行うことでき、日本との差異やアイルランドの抱える課題の理解を深めることができた。都市型で少子化と超高齢化が急速に進む我々の社会と様相は異なるものの示唆に富む会合であった。

杏林CCRC研究所
松井孝太
2014.6.30