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怒鳴らない子育て 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

怒鳴らない子育て お母さんと子どもの快適なコミュニケーションを目指して

日時:平成26年11月8日(土)午後2時30分〜午後4時30分

場所:三鷹ネットワーク大学

講演者: 佐伯裕子(三鷹市役所子ども政策部子育て支援課)
     青木幸子・安永裕子(子どもの虐待防止防止センター)
     加藤雅江(杏林大学病院患者支援センター)

 平成26年11月8日(土)、三鷹ネットワーク大学にて、杏林大学COC事業地域活動助成費による公開講演会「怒鳴らない子育て—お母さんと子どもの快適なコミュニケーションを目指して」が開催され地域住民を中心に約50人が来場した。会場では、子ども連れの参加者も多数見られた。講演に先立ち、杏林大学で虐待防止委員会委員長を務める楊國昌教授が開会の挨拶を行い、全国的な虐待発生状況や虐待予防の重要性について説明した。
 はじめに、三鷹市子ども政策部子育て支援課の佐伯裕子氏が、「気づくこと・つながることの大切さ〜待つ支援から届ける支援へ〜」と題して、三鷹市における子育て支援のネットワークについて紹介した。佐伯氏によれば、児童虐待には、身体的暴力だけでなく、無視や非難、差別、子どもの前でのDVなどの心理的虐待や、世話をしないというネグレクト、性的行為を行ったり見せたりする性的虐待なども含まれる。子育て支援において大切なことは、親の悩みを理解し、子育て家庭(特に母親)の孤立を防ぎ、子どもの健全な育成環境を作ることである。そのためには、子育て家庭を地域社会とつなげていく必要がある。三鷹市には、要保護児童対策地域協議会(三鷹市子ども家庭支援ネットワーク)を中心として、杏林大学も含めて多数の組織や機関が子育て家庭の支援に当たっている。子どもや保護者が出すSOSの「気づき」を大切にし、地域のネットワークで支援を行うことで虐待を防止することが重要であるとした。
 次に、杏林大学付属病院の加藤雅江氏から、「怒鳴らない子育て—虐待防止に必要なこと」と題して、杏林大学における児童虐待防止の取組みが紹介された。杏林大学では、虐待症候群を専門の一つとする法医学の佐藤喜宣教授を中心として、平成10年から勉強会が開始され、翌年には児童虐待防止委員会が設立された。病院には、虐待が原因の疑いや、事前の注意喚起があれば防げたような怪我を負った子供が多数訪れる。そこから見えてくるのは、情報が多すぎることによる親の混乱や、「家族」を支える社会の力の低下である。今後の大学と病院の責務は、虐待症例から学んだことを活かし、児童虐待や事故を未然に防ぐ支援の輪を広げていくことであるとした。

加藤雅江氏

加藤雅江氏

会場風景

会場風景

ロールプレイング

ロールプレイング

 続いて、子どもの虐待防止センターの青木幸子氏と安永裕子氏が、怒鳴らない子育てのための「コモンセンス・ペアレンティング(CSP)」について講演を行った。CSPとは、米国で開発された児童虐待防止プログラムで、親がしつけのスキルを身につけ、子どもの問題行動を減らし、好ましい行動を増やすことを目指すものである。本講演では、それを日本向けに修正した「神戸少年の町版CSP」が紹介された。対象は3歳から12歳までで、実際のプログラムでは、2時間のセッションを7回、二週間おきに行うという。
 子どものしつけの過程では、子どもが簡単に言うことを聞かないために親はストレスを溜めがちであり、子どもの行動を変えるために怒鳴ったり叩いたりしてしまうことがある。しかし、力での支配は一時的に効果があるように見えても、恐怖心によるものに過ぎず、「何が悪かったか」という理解にはつながらない。そのため、子どもが怒鳴られ叩かれることに慣れてしまうと、より強制的なしつけが必要になる。親の側も、怒鳴り叩くことで自己嫌悪だけが残る。親子関係は悪化し、子どもがさらに言うことを聞かなくなるという悪循環に陥ってしまう。CSPでは、親が子どもへ「伝えること」をできるようにすることで、親子関係を改善し、結果として負担の少ない「怒鳴らない子育て」が可能になるという。
 具体的には、単純明快で具体的な表現や肯定的表現による分かりやすいコミュニケーションを心掛け、やってほしい行動を子供がした時には誉めることで、良い行動を増やす。逆に悪い行動をしたときには、して欲しいことを肯定的に伝え、「しまった体験」をさせることで悪い行動を減らす。ポイントは子どもの興味を引くものを使い、結果(見返り)の大きさが適切かつ与えられる条件が明確で、条件を満たせばすぐに結果を与えるということである。見返りは過大であっても過小であってもいけない。子どもを効果的に誉め、行ってほしいことや、良かった行動の理由を明確に伝えることで、子ども自身に自覚が芽生え、行動の理由付けを行うことができるようになる。子育てのイライラの原因は、過大な期待と現状のギャップにあり、大きな目標の手前の小さな行動から積み上げていくことが、結果的に目標への近道になるのだという。青木氏と安永氏の講演では、スライドによる説明に加えて、様々なシチュエーションを想定した実践的なロール・プレイングも行われ、コモンセンス・ペアレンティングの実際の活用方法が非常にわかりやすく解説された。
 以上の講演終了後、子どもの虐待防止センター理事長の松田博雄氏が挨拶を行った。松田氏によれば、児童虐待(child abuse)は、英語では薬物乱用(drug abuse)と同じ単語を用いる。すなわち、直接的な暴力だけではなく、子育てにおける子どもの「不適切な取り扱い(abuse)」を幅広く含むものであり、「怒鳴らない子育て」は児童虐待の予防という意味でも非常に重要であると指摘された。
杏林大学病院は地域の児童虐待防止において大きな役割を果たしており、杏林大学による重要な地域貢献の一つである。本講演は、三鷹市、杏林大学、市民団体、地域住民のさらなるネットワーク作りの場ともなり、非常に有益であったと思われる。最後に、杏林CCRC研究所長の蒲生から杏林大学COC事業の概要が説明され、児童虐待問題への取組みを継続していくことが述べられた。

杏林CCRC研究所
松井孝太