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これだけは知っておきたい感染症の基礎知識:インフルエンザと肺炎について 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会

これだけは知っておきたい感染症の基礎知識:インフルエンザと肺炎について

日時:平成27年12月5日(土)午後1時30分〜午後3時

場所:杏林大学三鷹キャンパス 大学院講堂(第2病棟4階)

講演者:滝澤始(杏林大学医学部教授)

 平成27年12月5日(土)杏林大学公開講演会「健康寿命延伸」講座「これだけは知っておきたい感染症の基礎知識:インフルエンザと肺炎について」が本学三鷹キャンパスにて行われた。講演者の本学医学部第一内科学教室呼吸器内科滝澤始教授は、東京大学医学部卒、東京大学医学部付属病院、小平記念東京日立病院、公立学校共済組合関東中央病院、米国ネブラスカ州立医科大学留学、2011年より本学医学部第一内科学教室教授に着任、本学医学部付属病院臨床試験管理室長を兼務している。


・「これだけは知っておきたい感染症の基礎知識:インフルエンザと肺炎について」

 『インフルエンザは冬に流行するウイルス性疾患として代表的なもので、感染力も強く、激しい症状を伴い、致命的になることもある重要な感染症です。また、様々な病原微生物によって起こる肺炎はわが国の死因の第3位を占め、とくに高齢者の肺炎は誤嚥性肺炎が多く普段からの予防が大切です。呼吸器の領域で重要な二つの感染症について、わかりやすく解説します。』

 インフルエンザとは、インフルエンザウイルスにより引き起こされる急性の気道感染症である。一般的な風邪はライノウイルスやコロナウイルスなどに起因する普通感冒と呼ばれる。インフルエンザは流行性感冒と言われ、11月下旬から12月上旬に発生して1月から3月頃をピークに流行する。インフルエンザウイルスは、球体でタンパク質の殻の内部にRNAを持ち、表面にヘマグルチニン(HA)やノイラミニダーゼ(NA)の糖タンパクがある。ウイルス粒子内核タンパク複合体の抗原性の違いからA型、B型、C型の3つに分けられている。3つの型のうち、ヒトに感染するのはA型とB型である。A型はHAが16種、NAが9種の亜型があり、この組み合わせによりH1N1やH3N3などの細分化されている。A型インフルエンザは毎年わずかな変異(連続抗原変異)により抗原性を変える。数年から数十年に大きな変異(不連続抗原変異)によってパンデミック(世界的流行)を引き起こす。20世紀に起きたパンデミックには、1918年スペインかぜ(H1N1)で約4000万人死亡、1957年アジアかぜ(H2N2)で約200万人死亡、1968年香港かぜ(H3N2)で100万人死亡、2009年新型インフルエンザ(H1N1)で推定28万人死亡がある。インフルエンザは、飛沫中のウイルスが気道内に入り、気道粘膜に付着して細胞内で増殖する。1日から3日の潜伏期間ののち発熱、頭痛、全身倦怠感、筋関節痛などが急激に現れる。診断には約20分以内で判定できる迅速検査がある。治療薬にはインフルエンザウイルスのノイラミニダーゼを抑える抗ウイルス剤が4種ある。いずれも症状が出て48時間以内に治療することが重要である。インフルエンザによる死亡は10万人あたり10人でほぼ65歳以上の高齢者である。予防には咳エチケット、マスク、手洗いなどに加えてワクチン接種が大切である。2015年のインフルエンザワクチンは従来から1種増えた4種混合となった。ワクチンはインフルエンザを確実に阻止することは出来ないが症状を軽くして合併症による入院、死亡を減らすことが期待できる。効果はおよそ3ヶ月程度で毎年摂取が必要である。
 肺炎は細菌やウイルスなどの微生物によって引き起こされる肺の炎症である。わが国では、がん、心疾患に次ぐ死因第3位である。日常生活で罹患する市中肺炎、病院で罹患する院内肺炎に分けることで治療の上で大切である。肺炎球菌性肺炎などの定型肺炎やマイコプラズマなどによる非定型肺炎と分類されることもある。急性の呼吸器症状、炎症症状(咳、痰、発熱)とともに胸部レントゲンで異常な陰影を認めることで診断される。喀痰などで原因菌を決定することが抗微生物薬の選択などで重要である。高齢者の肺炎は、①死亡率が高い、②肺炎で死亡する人の94%は75歳以上、③高齢者肺炎の70%以上が誤嚥と関係するなどの特徴がある。特に高齢者の肺炎は重症化しやすく、症状も非典型的である。65歳以上の方や糖尿病など基礎疾患を持つ方は肺炎原因の約25%を占める肺炎球菌のワクチンが有効である。さらに栄養摂取や口腔ケアの管理が大切である。

 インフルエンザは毎年のように流行を繰り返し、肺炎もよく耳にする疾患であり、実際、毎年多くの人が罹患する。インフルエンザや肺炎は体力のある若年者が罹患しても、死亡に到ることは多くない。しかし、体力が衰えた高齢者の場合、重篤な状態に至ることは珍しくない。しかし、いずれも感染予防、重症化、さらに流行拡大を防ぐワクチンがあり、ワクチン接種に対する自治体による補助も行われている。高齢者にとってワクチン接種は自分自身の健康のみならず重要な社会的選択肢とも言えるのではないだろうか。

杏林CCRC研究所
相見祐輝