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地(知)の拠点整備事業:地域志向教育研究費」講演会開催報告


講演会名:「ICTを用いた地域医療ネットワークの方向性」

開催日時:平成28年2月27日14:00-16:00

開催場所:三鷹ネットワーク大学

開催概要
14:00-14:30 報告:ICT医療情報調査報告 蒲生忍(杏林大学 杏林CCRC研究所長)
14:30-15:30 特別講演:地域医療におけるICT利活用の意義 吉田宏平(総務省情報流通行政局 情報流通高度化推進室長)
15:30-15:40 指定発言:地域病院の立場から 余語喬之(野村病院経営企画課)
15:40-15:50 指定発言:地域医師会の立場から 窪川良廣(三鷹市医師会理事)
15:50-16:00 指定発言:ICT関連企業の立場から 宮島恒敏(株式会社Skeed)

 地域志向教育研究費による「ICTを利活用した医療連携に関する調査」で対象とした医師会・医療機関の皆様をご案内して、平成28年2月27日に、「ICTを用いた地域医療ネットワークの方向性」講演会を三鷹ネットワーク大学にて開催した。この講演会では、蒲生が上述の調査の報告を行なった後、総務省情報流通行政局情報流通高度化推進室長の吉田宏平氏に「地域医療におけるICT利活用の意義」について講演をお願いした。続いて地域病院の野村病院の余語氏、地域医師会理事の窪川氏、ICT関連企業Skeedの宮島氏よりそれぞれの立場からの発言をお願いした。また総合進行は吉野秀朗先生(医学部)にお願いし、参加者は本学から岩下病院長はじめ本学医学部関係者、地域医師会、地域病院、ICT企業関係者を含め約40名である。
 
講演会冒頭、跡見裕学長が本学COC事業の概要に触れつつ開会の挨拶を行った。続いて蒲生が「調査」結果の報告を行った。調査紙は多摩地区及び多摩地区に隣接する区部3区の併せて26医師会と、三鷹市及び三鷹市に隣接する市の36病院他と、極めて限定した範囲に配布した。約1か月半の回答期間の後、13医師会と10病院から回答を得た。回答は過半数に満たず分析には慎重を要するが、全医療施設等を対象とした今後の大規模な調査に向けた基礎調査となるものであり、また現在の動向と意向を知る手がかりになると考える。なお、調査結果については本年度末の杏林CCRC研究所紀要に収載予定である。

 特別講演の吉田氏からは、医療等分野のICT化の現状と課題について貴重な講演をいただいた。技術的な用語や最先端の概念、さらに今後の政策を含めた示唆に富む講演であり、技術的な面では理解困難な部分もあったが、筆者なりの要約は以下の通りである。

 医療情報の電子化はレセプト電子化がほぼ完了し、電子カルテ化が進行中である。医療に関する情報も含め電子情報は爆発的に増加しており、その活用により多くの有効な資源を確保できる。しかしながら医療情報連携ネットワークに関しては多くの問題を抱え普及率は低い。今後はクラウド等を活用した低廉なネットワークモデルを確立する必要がある。この際、PHR (Personal Health Record) 2 とEHR (Electronic Health Record) 3 の二つの概念が必要である。PHRは健康・医療・介護情報等をクラウド上で個人が管理・活用する仕組みである。PHRの概念自体は以前からあるが、技術的発展により実現可能性が高まっている。PHRは個人の日常の生活記録、健康状態を医療機関、特にかかりつけ医と共有できるシステムへの発展性を含んでいるし、また個人の健康意識の向上にも利する所があると考える。一方、EHRは病院や診療所が持つ医療情報をクラウド上で共有し利活用するシステムである。各提携医療機関の相互参照のみならず、代理機関による匿名化等を介して広範な疫学的利用も視野に入れる。この際に重要となるのが個人識別子としてのマイナンバー4の活用である。技術的進歩によりシステムの安全性は向上しており、今後はPHRとEHRの確立と、この二つの間を連携させることが地域包括ケアを含めた医療におけるICTの将来像である。

 以上、吉田氏の講演で触れられているEHRは病院間連携の基盤、PHRは多職種連携の基盤と理解できる。個人の情報を、ICT技術を利用し管理することには常に安全性に関する危惧と厳しい議論が付きまとう。安全性の確保に全力を挙げるのは当然であり確かに重要な問題ではあるが、悪意ある攻撃はどのような場合にも存在しうる。しかし安全性を徒に求めてその技術による大きな便益の導入を先延ばしする、または放棄することは医療分野に関しては大きな社会的損失とも言える。

 吉田氏に続いて、野村病院余語氏から地域病院としての特性と医療情報の共有に関する基本姿勢についてご説明いただいた。また三鷹医師会窪川理事からは地域医師会におけるICT利活用の現状をご説明いただき大学と地域医療の連携に関する期待が表明された。Skeedの宮島氏からは医療や災害時を指向した幾つかの最新ICT技術についてご紹介いただいた。指定発言に続き、地域医師会等から活発な発言があり、今後の連携の具体化にむけた基盤が形成された印象を強くした。

 なお、講演会の開始に先立ち12時半から13時半まで跡見学長はじめ本学関係者と講師吉田氏との意見交換会が非公開で行われた。今後の医療におけるマイナンバー活用の意義やその安全性他について率直かつ活発な意見交換が行われた。

杏林CCRC研究所
蒲生忍