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高齢者の骨折とその予防 講演会報告

杏林大学「地(知)の拠点整備」事業
杏林医学会・杏林大学・三鷹ネットワーク大学 共催

市民公開講演会
高齢者の骨折とその予防

日時:平成28年11月19日(土)午後1時30分〜午後4時
場所:三鷹キャンパス 医学部講義棟2階 第一講堂

司会:市村正一(杏林大学医学部整形外科学 教授)

特別講演1:「骨粗鬆症性骨折について~予防、診断、治療~」
講 演 者:長谷川雅一(杏林大学医学部整形外科学 助教)

特別講演2:「愛媛県における大腿骨二次骨折予防の取り組み」
講 演 者:相原忠彦(愛媛県相原整形外科医院院長)

シンポジウム:「三鷹市における高齢者の骨折予防」
パネリスト:高橋景市(三鷹市老人クラブ連合会会長)
      相原忠彦(愛媛県相原整形外科医院院長)
      長谷川雅一(杏林大学医学部整形外科学 助教)

市村正一先生

市村正一先生

相原忠彦先生

相原忠彦先生

〇講演概要
高齢者の骨折とその予防
杏林大学医学部整形外科学 教授 市村 正一 先生 
 ”総務省から9月18 日に発表された65 歳以上の高齢者の人口統計によりますと,65 歳以上の割合は27.3%(男性24.3%,女性30.1%)でした。このような高齢化社会に対し健康寿命の延伸のため,整形外科学会ではロコモティブシンドローム(ロコモ)を提唱し,高齢者の運動器疾患の予防に努めております。今回の市民公開講演会はロコモの中でも最も患者数が多い高齢者の骨折をテーマにしました。”

骨粗鬆症性骨折について ~予防,診断,治療~
杏林大学医学部整形外科学 助教 長谷川雅一 先生 
 ”健康長寿対策としてロコモティブシンドローム(運動器症候群)の予防が注目され,我々も日々診療を行いつつ啓蒙活動をしております。ロコモティブシンドロームの要因の一つが骨粗鬆症です。骨粗鬆症は『骨強度の低下により骨折のリスクが高くなる骨の障害』と定義され,国内では1300万人の有病者がいると報告されています。しかしながら実際には300万人程度しか骨粗鬆症の治療がなされておらず現在でも骨粗鬆症に伴う骨折患者数は増加しています。骨粗鬆症による3大骨折は,橈骨遠位端骨折,脊椎圧迫骨折,大腿骨頚部骨折が挙げられます。今回の講演では,骨粗鬆症の診断,治療,ならびに3大骨粗鬆症性骨折について解説し,参加者の,皆さんに骨粗鬆症について理解を深めていただき,自分の骨はどうなんだろうと考えていただく一助になればと思います。いつまでも骨折のない丈夫な骨で,自分の健康な足で歩くことができる生活を送れるきっかけになればと思います。”

愛媛県における大腿骨二次骨折予防の取り組み
相原整形外科 院長 相原 忠彦 先生 
 ”骨折は全ての世代で起こることですが,何故,高齢者に限った骨折予防が重要なのでしょうか?子供や身体活動が活発な若い世代での骨折は,骨折そのものと骨折後の寿命に関連はありません。ところが,高齢者の骨折,特に大腿骨近位部骨折は明らかにその後の健康寿命を縮めます。つまり,骨折によって健康な状態で暮らせる時間が短くなるのです。他人の世話にならないで,元気で長生きをすることが誰しもの願いです。他人の世話にならないとは介護保険での要支援・要介護を受ける必要が無い状態で,元気とは健康な状態で暮らせる状態「健康寿命」の事です。厚生労働省の提唱する21世紀における国民健康づくり運動である「第二次健康日本21」の基本方針の第一番は「健康寿命の延伸と健康格差の縮小」となっています。単に生きているだけでは無く,健康な状態で暮らせることが目的です。「自分で歩けること」は生活の質のためにとても重要なことであり,身体の健康を示す指標のひとつです。「ロコモティブシンドローム(略称:ロコモ)」という言葉をご存知でしょうか?日本語では「運動器症候群」と言いますが,平成19年に日本整形外科学会が超高齢社会を見据え,提唱した症候群(様々の原因から生じる一連の身体症状を指す用語)です。ロコモとは筋肉,骨,関節,軟骨,椎間板といった運動器の障害のために移動能力の低下をきたして,要介護になっていたり,要介護になる危険の高い状態を指します。いつまでも自分の足で歩き続けていくためにはロコモ対策が必須です。日本の高齢化は世界第一位であり,高齢化のスピードは類をみない状況になっています。今回の講演では,愛媛県で始めた「骨粗鬆症の再骨折予防事業」の紹介をしつつ,高齢者の骨折の原因である「骨粗鬆症」について説明し,その対策としてのロコモ予防を理解していただき,健康寿命の延伸に寄与するためのお話をいたします。”

長谷川雅一先生

長谷川雅一先生

高橋景市様

高橋景市様

シンポジウム風景

シンポジウム風景


 11月19日の午後、杏林大学三鷹キャンパス医学部講義棟第一講堂を会場に杏林医学会主催、地(知)の拠点整備事業及び三鷹ネットワーク大学共催による市民公開講演会「高齢者の骨折とその予防」が開催され、地域の住民約120名が参加された。本講演会では杏林大学医学部整形外科学市村正一教授が座長を務め導入を、同整形外科学助教の長谷川雅一先生が「骨粗鬆症性骨折について~予防、診断、治療」、杏林大学医学部の御出身で現在は愛媛県で活躍されている相原忠彦先生が「愛媛県における大腿骨二次骨折予防の取り組み」について講演を行った。その後、三鷹市老人クラブ連合会会長高橋景市氏を交えてシンポジウム「三鷹市における高齢者の骨折予防」が開催された。
 長谷川雅一助教の講演では「骨の役割と常に新しい骨に置換されているという骨の生理」から始まり、骨粗鬆症の定義と骨粗鬆症における骨折とその治療の例が紹介された。さらに適切な運動と栄養で、骨折の無い健康長寿を目指す重要性を示唆した。
 相原忠彦先生の講演では骨粗鬆症における骨折が50歳代以降に急増し、一度骨折すると次の骨折リスクが高まり、二次骨折は対照群の4倍に上り、大腿骨近位部骨折一年後の死亡率は10%に上ることが紹介された。骨粗鬆症による骨折を皆無にすることは困難かもしれないが、二回目の骨折を何とか予防しようとする「二次骨折の予防」が、国際的にも大きな運動として展開されている。相原先生は二次骨折を防ぐためには、一次骨折後の骨粗鬆症の治療が必要であり、それを行うためには医療機関の連携が重要であること、そのために愛媛県では全県的な取組として「再骨折予防手帳」による患者情報の共有化を推進、普及を目指していることを紹介された。その後、参加者全員でバランス能力を身に付けるロコトレ「片脚立ち」と下肢筋力をつけるロコトレ「スクワット」を実施し、「貯筋」の重要性を示唆した。

 シンポジウムでは市村正一教授より現在、三鷹市において三鷹市老人クラブと共同で進めている健康寿命延伸プロジェクト(COC地域志向教育研究「三鷹市老人クラブにおけるロコモティブシンドローム対策指導者育成」)について報告があった。このプロジェクトでは老人会においてロコモ予防の重要性について講演後、「立ち上がりテスト」等のロコモ測定と握力測定等のサルコペニア測定を行い、さらにロコモ体操を指導している。体操を行った群では良好な運動機能の向上「貯筋」の効果が観察されつつあるとのことである。老人クラブ連合会の高橋氏からは実際にロコトレを行い、片脚立ちの時間が大幅に伸びたとの体験談も披露された。
 今後の超高齢社会では平均寿命と健康寿命の差を短縮すること、即ち健康寿命の延伸が重要な課題であり、特にロコモに起因する歩行障害はメタボや認知症に悪影響を及ぼし、一層QOLやADLを低下させる負の連鎖を加速させる。本学の位置する三鷹市とその周辺も既に超高齢社会に突入しており、本学が地域の健康維持に今まで以上に寄与することが期待されている。今回の市村教授らの取組は地域との連携により、ロコトレの有効性を実証することで、地域との信頼関係を構築し一層の普及を目指している。ロコトレ自体は極めて軽微な運動であるが、初めて行う場合にはそれなりの注意や介助も必要である。また、運動の成果を実測し目に見える形にすることは継続の強い動機付けになる。この実証に協力していただいた市民の方々と整形外科のスタッフに敬意を表する。今後はこの成果をさらに確固たるものとし、三鷹市の行政的なサポートを得て三鷹市全域に、さらに周辺のより広い地域に還元できるように、COC事業の限られた予算の中ではあるが我々も協力していきたい。このような地道な運動と努力が地域の健康と安心・安全を支えることにつながると確信する。
 また、本講演会の実施にご協力いただいた杏林医学会、三鷹ネットワーク大学の関係者の方々にも感謝する。

杏林CCRC研究所
蒲生忍