エルフ語と私:外国語学部 伊藤盡講師
〜映画「ロード・オブ・ザ・リング」の日本語吹き替えを指導〜

「エルフ語」…どこかで聞いたような。という方も多いのではないでしょうか。日本でも大ヒットを記録している映画『ロード・オブ・ザ・リング』の原作、『指輪物語』(J.R.R.トールキン著)の中で登場人物が話す創造世界の中の言葉がエルフ語です。

この「エルフ語」を『ロード・オブ・ザ・リング』三部作の日本語吹き替え版で声優に対して指導されたのが本学外国語学部の伊藤盡講師です。伊藤先生の専門分野はJ.R.R.トールキン オクスフォード大教授をめぐる幻想文学や北欧神話伝説など。その一つとして「エルフ語」についても研究をされていることから、この指導を引き受けたそうです。
 話題のエルフ語とのかかわりについて伺いました。            (広報・企画調査室)

エルフ語と私

 オクスフォード大学中世英語英文学教授J.R.R.トールキンは、研究者として高く評価されていますが、その一方研究者としての枠組みを越えて想像世界の中の言語「エルフ語」を創造し、『指輪物語』という邦訳で知られる名作を著しました。
 では、果たして言語を創造するということにどれほどの意味があるのか。興味を持った私はこの問題を学部卒業論文のテーマに決めたのです。これが私とエルフ語との出会いといってもよいでしょう。

 研究を続けるうちにエルフ語の持つ音の美しさや、このような美しい音が並ぶ言語を人間が考え出したということに驚きを覚えました。
 また物語を通して1つのメッセージも読みとれました。この言語を話す「エルフ」という種族は、話の中では、遙か昔にこの世から姿を消した、という設定。
 人間は生活をよくするため努力をしてきましたが、その影で消滅していった様々な自然の生き物や風景があったはずです。なくなってしまったものを惜しむことは、現在残っているものの価値を確認することでもあり、またそれらを大切にする敬意の気持ちも与えてくれます。
 つまり、エルフ語を学ぶということは、エルフ語以外の様々な言語、また言語文化への敬意を思い出させてくれることだと思うのです。

 エルフ語研究には、理論的に構築した言語学的な知識を応用する楽しみがあります。そもそも言葉というものは、人間が無意識に口から発するものです。それを意識して確認し、その言葉が、時間の流れの中で、どのように変化していくのかを考えることは、人間が気づかなかった言葉の不思議さ、言葉というもののおもしろさに気づくチャンスなのです。

 映画公開後エルフ語に関するホームページのサイトが増えました。多くの方がことばを楽しみ、コミュニケーションのすばらしさを味わっていただけるとうれしいです。

「ロード・オブ・ザ・リング」(日本語版)のエルフ語指導とは

映画では原作に見られる細かい点にまで演出が及んでいます。『エルフ語』指導は、そのような点を、日本語吹き替え版にも活かそうとした試みで、声優の方々に、この世に存在しない言語を発音して貰うというものでした。
 例えば台本には無い、映画中のエルフ語の台詞を反映させるため、アメリカの制作担当者に直接確認をしたりしました。映画第三部では人間アラルゴンが最後にエルフ語で歌うシーンで、アラルゴン役の声優 大塚芳忠氏とスタジオのロビーでエルフ語の発音で歌う練習をしました。

エルフ語講座など担当

 映画公開後「エルフ語」は一種のブームになっていて、東急セミナーBE渋谷校では今春4月から6月にかけて3回にわたって「指輪物語のエルフ語講座」が開かれている程で、この講座も私が担当しています。映画を観てエルフ語に興味を持ったという人が大半を占める人気の講座になっています。
 また調布市文化会館では、都市と人間をテーマした「地球ナビゲーションV・ヴァイキングの末裔〜北欧諸国の文化〜」の連続講座が開かれ、その中でも、アイスランドをテーマに「小さな国の大きな都会」という講義を6月19日に担当する予定です。

2004.4.22