平成16年1月31日、本院において幼児の気管に装着していた「気管カニューレ」が抜管し、低酸素症により脳に重大な後遺症を残すという医療事故が発生いたしました。本院では事故発生後、障害を受けた脳の機能回復に懸命に取り組む一方、事故原因の調査・分析、事故防止対策の検討を進め、その結果をもとに外部の有識者による外部評価委員会の評価を受けてまいりました。
このほど外部評価委員会から報告書が提出されましたので、再発防止などを目的に定めた本院の「医療事故等の公表に関する指針」に基づき、今回の事故の詳細について12月25日(土)報道機関に以下のように公表いたしました。
なお、事故の公表についてはご両親のご了解をいただいております。
1.発生日時 |
平成16年1月31日(土)午後10時頃(推定) |
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2.発生場所 |
杏林大学病院 小児系病棟 |
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3.患 者 |
1歳6ヶ月(事故当時) |
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4.入院病名 |
食道閉鎖症、気管軟化症、低出生体重、他 |
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5.事故概要 |
小児外科に入院中の幼児に装着していた気管カニューレが抜けているのを、巡回の看護師が発見。事故後機能回復治療に努めてきたが、低酸素脳症となった。 |
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6.幼児の治療と事故発生経過 |
(1)幼児の治療
幼児が本院で出生後、4回にわたる食道延長手術、食道吻合術や気管切開などの手術を行ってきた。成長してきたため気管カニューレを装着した状態で新生児集中治療室から小児病棟に転棟し治療を続けていた。
(2)事故当日の経過
当日午前、担当医師の立会いのもと看護師が気管カニューレの紐を交換し、通常通り固結びで固定した。
○事故確認直前の21時00分と21時30分には、気管カニューレを意識して観察してはいなかったが異常は確認していない。
○ 22時頃看護師が訪室した時、幼児がうつ伏せになり、気管カニューレが抜け落ちていて、紐がほどけているのを発見した。
○ 幼児は呼吸停止状態で、看護師は直ちに気管カニューレを再装着し、応援の2人の看護師と医師とともに蘇生に努める。22時15分心電図に心拍が出現、22時25分にはほぼ正常波形に回復した。
○ご両親には直ちに連絡し事故の経過を説明。器具が抜けていた時間がどの位あったのか分からないが、低酸素の状態が続いていた場合には脳が障害を受ける危険のあることを説明した。 |
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7.事故後の治療と現在の状態 |
(1)事故後の治療
昇圧剤などにより循環動態の安定を図る一方、脳浮腫治療剤、抗痙攣剤の投与などを続け、低酸素脳症に対しては高圧酸素療法を12週間行った。
(2)現在の状態
意識障害と四肢硬直が残っており、現在は抗痙攣剤の投与とリハビリテーションをつづけている。 |
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8.事故の原因調査 |
リスクマネージャーを中心とした事故の原因調査分析、看護部内における各種勉強会などを続ける一方、小児外科診療科長を班長とする事故対策班を設置、事故発生要因の調査と分析を行い、再発防止策を検討した。
これらの院内調査の結果をもとに外部委員による「外部評価委員会」に評価を依頼、このほど報告書が提出された。 |
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9.事故発生要因の調査結果 |
(1)気管カニューレ抜管の原因
院内調査では、気管カニューレの紐がほどけたのは、自然に緩んだのか本人が引っ張ったのか、別の原因があるのか、その原因を特定できなかったとしており、外部評価委員会も同様の結論に至っている。
(2)抜管が重大事故につながった原因
院内調査では、以下の6項目を挙げている。
1、 気管軟化症を持つ幼児の抜管に伴うリスクを医師、看護師ともに十分に認識していなかった
2、 気管チューブが抜ければ重症化するようなリスクを負った幼児に、発育段階に応じた看護を提供するのは初めての経験であった
3、同室にロタウイルス感染者がでたため、比較的全身状態がよかった幼児を隣室に転床させたことにより、幼児の観察が困難となった
4、幼児は活動範囲が広がりモニタリングが困難になっていたため、モニター装着がなされていなかった
5、 気管カニューレの管理に関して、医師から観察や処置などの具体的な指示が出されていなかった
6、準夜勤スタッフの間で受け持ち患者の情報を共有する場がなかった
これに対して外部評価委員会は内部調査、対応策は適切であるとした上で、「事故の原因を厳密に特定することは難しいが、気管カニューレが抜け、それで気道閉塞になって低酸素脳症に至った可能性が高いと考えられる」としている。 |
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10.事故再発防止策
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1、 気管カニューレの紐のほどけにくい結び方を検討して統一した
2、「子どもの気管カニューレ観察手順」を作成
3、子どもに対する心電図モニターなどの装着基準を作成
4、 モニターの監視体制を整える
5、メーカーに対して、使用上の注意として抜管事故への注意を製品説明書に加えるよう説明書の改訂を求めた
以上の再発防止策を、病院を挙げて行った。 |
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11.ご両親との話し合いの経緯と公表について |
1、 事故直後にご両親に事故が発生したことを説明した以降、可能な限りご両親と連絡をとりあい、治療や原因調査結果、事故防止策等を説明してきた。
2、 事故の公表については低酸素による障害が残る事が危惧されるようになった2月中旬から3月上旬にかけて、ご両親に今回の事故が本院の「医療事故等の公表に関する指針」に該当する事を説明した。
しかし、「公表に関する指針」を定めた直後であったため、当院の具体的な作業の内容や手順・手続きなどが明確に決まっていなかったこともあって、公表に関する具体的な話し合いが進まなかった。
その後、6月下旬から7月下旬にかけて行われた本院との話し合いの際に、ご両親から、充分に検討をして再発防止に役立つような形で公表してほしいという意向が示された。 |
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12.行政機関への報告 |
6月22日 東京都(医療安全課)に報告書を提出
6月24日 厚生労働省(医療安全推進室)に報告書を提出
11月17日 厚生労働省(関東信越厚生局)に報告書を提出 |
以上の調査結果に基づき本院では今回の事故は、医師、看護師ともに気管カニューレの抜管が幼児にもたらすリスクについての認識が低下していたことなどいくつかの問題が重なり合って起きたものと考えています。
この事故によりお子様に重大な障害を生じさせ、ご家族に心身ともに多大なご負担をお掛けしてしまったことを改めてお詫び申し上げます。
私どもは、今回の事故の責任は病院にあることを真摯に受け止め、再発防止に向けて病院を挙げて取り組んで参ります。
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