《最終講義》
長年にわたり大学で教鞭をとられ、この3月末日をもって退職された、産婦人科学 中村幸雄教授、放射線医学 蜂屋順一教授、薬理学 遠藤仁教授の最終講義の様子を紹介します。
医学部産婦人科学 中村教授が最終講義
産婦人科 中村幸雄教授の最終講義が、岩下光利教授の座長のもと、平成16年1月19日午後5時30分より大学院講堂で行われました。
もちろん学内には最終講義の案内を掲示させてもらい、少しでもたくさんの方に来ていただきたいと考えてはいたのですが、なにしろ会場が250名も入る大きな講堂だけに、20名余の教室員と、大学院生のみなさんが受講するとは言っても、少し寂しい様子になるのではと心配しておりました。
しかし蓋を開けてみますと、かなりの数の同門の先生や近隣の先生方(みな忙しいだろうからと、あえて声はかけなかったのですが)、小林医学部長をはじめ多くの他の教室の先生方、看護スタッフをはじめ職員の方々、さらには患者様まで来てくださり、聴衆は150名を優に超える数となりました。最終講義と言いますと、その教授の数十年にわたる研究成果を総括し、多くは医師として、あるいは研究者として、そのあとを進む者に教訓を与えてくださる、というパターンが多いものですが、さすが中村教授は違いました。
テーマは「子宮筋腫に対する子宮動脈塞栓術」。数年前から中村教授が取り組んでおられ、杏林大学が本邦、おそらくは世界でもトップを走っている最新の治療法について、豊富なデーターに基づき、しかも動画も駆使して、一般の方にも十分理解できるようにわかりやすい講義をしてくださいました。
3月には「子宮筋腫と塞栓術」(悠飛社)という本を上梓されることになっておりますが、過去の総括ではなく、新たなる旅立ちへの決意表明といった表向きで、中村教授らしい最終講義でした。
誠に中村教授らしい最終講義の1日でした。≪中村教授略歴≫
昭和38年 慶應義塾大学医学部 卒業
43年 慶應義塾大学大学院 修了 医学博士(第217号)取得
53年 「初期流産の内分泌動態についての研究」で慶應義塾大学医学部三四会賞 受賞
61年 慶應義塾大学医学部産婦人科 助教授
平成元年 杏林大学医学部産婦人科教室 教授
13年 第46回日本不妊学会 会長
14年 日本受精着床学会 理事長(保健学部 母子看護学・助産学 教授 高橋康一)
放射線医学教室 蜂屋順一教授最終講義に寄せて
蜂屋順一教授の最終講義が平成16年2月18日の夕刻、整形外科学教室教授石井良章先生が座長の任をお引き受けくださり、大学院講堂で行われた。
聴衆は医学部長小林宏行第一内科教授をはじめ臨床各科の医師、基礎医学の医師、看護師、診療放射線技師や臨床検査技師に加え大学院学生など参加人数は157人と多くを数えた。
講義のテーマは「画像診断の発展と将来」である。
約1時間30分の長い講演であったが、専門以外の医療従事者にも非常に理解しやすい内容であったとの評を頂いている。
講演はまず放射線診断から画像診断へと名称が変遷した過程を検査の概略を絡めて始まった。
これから進行するオペラのプロローグを思わせ、胸躍る幕開けを感じた。
次に英国EMI社中央研究所の技術者であったハンスフィールドが世界で初めて製作したCT装置の写真が紹介され、さらに日本で最初に撮影された腹部のCT画像等々、長い間放射線科医として診療に従事していた私でさえ、「へエー」と思わず映写室(当日は医局員の稲岡医師とスライド係を担当させて頂いた)から身を乗り出さんばかりの写真が次から次へとスクリーンに投影され、思わずスライドを進めるのを忘れること暫しであった。
最新の画像診断の章ではマルチスライスCTにおける検査時間の短縮や任意多断層像がいとも簡単に、しかも高精細な画質として得られるようになったこと、MRI診断では画像のみに留まらずに、中枢神経の領域では機能診断まで進歩したことについても分かり易い解説と綺麗な画像写真で聴衆を魅了した。
最後にトピックスとしてFDG-PETの臨床応用とピットフォールについて述べられ、息をつく暇もなく最終講義は終了した。学生時代から現在まで、眠気を全く感じなかった講義は今回の蜂屋教授の最終講義が最初で最後になることであろう。≪蜂屋教授略歴≫
蜂屋順一教授は昭和38年東北大学医学部をご卒業後、聖路加国際病院でのインターン、東大医学部大学院修了後昭和43年に東大医学部放射線科助手、その後米国留学、東大医学部放射線科講師、助教授、昭和51年関東逓信病院(現 NTT東日本関東病院)放射線科部長を経て杏林大学には昭和57年に赴任されました。放射線科の充実と発展に尽力され、また教育面での貢献も大きく医学部学生部長、教務部長を歴任されました。一方、日本医学放射線学会評議員、財務委員、関東地方会代表世話役、画像医学会理事、日本磁気共鳴医学会理事など、その他多くの役職につかれ、活発な学会活動を展開されました。
(放射線医学教室医局長 関 恒明)
薬理学教室 遠藤仁教授大学院最終講義
医学部薬理学教室 遠藤仁教授の大学院最終講義が1月14日(水)午後5時30分より大学院講堂で行われました(座長は薬理学教室金井好克教授)。
講義のテーマは、「トランスポーターとゲノム創薬」で、当日会場は長澤学長、小林医学部長をはじめとした教職員および教室員、院生に加え、学部学生を含む約100名が集まり、平成5年から11年間にわたり、本学で教鞭をとられた遠藤教授の最終講義を聴講しました。過去ではなく未来を語りたいという遠藤教授の講義は、先ず「新規薬物の開発におけるトランスポーターの有用性」の解説に始まり、薬物の分子標的としてのトランスポーター、次いで薬物体内動態予測とトランスポーターの2部構成で行われました。遠藤教授の講義の特徴とも言えるわかりやすく噛み砕いたお話し振りに、非常に多岐に渡る内容を簡潔に理解することができました。
1時間半に及ぶ講演の後、質疑応答も30分にわたり活発に行われたことからも、遠藤教授の話が聴衆の多くに興味関心を持ってもらえたかが推察されました。尚、最終講義の要旨は以下の通りです。
T、薬物の分子標的としてのトランスポーター:ヒトの疾患に遺伝子が深く関与することは以前より知られている。ヒトゲノム解析終了により、トランスポーターの遺伝子は数百に及ぶと予測され、50才以後に発症する疾患の中でトランスポーターの占める割合は10%程度と高い。当教室において遺伝子クローニングのなされた1) L型中性アミノ酸トランスポーターLAT1、2) 尿酸トランスポーターURAT1、3) カルニチントランスポーターCT2などのトランスポーターは基質特異性が高く、これらの異常は生体機能の異常に直結する。すなわちLAT1は悪性腫瘍と、URAT1は高尿酸血症と、CT2は精子成熟異常との関連が示唆・推測されているため、それぞれ抗がん薬、尿酸排泄促進薬、そして男性避妊薬創生のための分子標的として有望視されている。
U、薬物体内動態とトランスポーター:ヒトにおける薬物の体内動態は吸収、分布、代謝、排泄の4要素より成り、その多くのステップにおける薬物の経細胞膜輸送にトランスポーターが重要な役割を果たしている。薬物トランスポーターの最大の特徴は基質選択性が広いことであり、薬物トランスポーターの分子種は輸送薬物の種類より遥かに少ない。また薬物代謝後の代謝薬物の排泄における肝・腎振り分けは動物種差が著しく、ヒトでの予測は困難とされてきた。しかし、当教室において遺伝子クローニングを行った腎臓の薬物輸送を担うヒト有機陰イオントランスポーターOAT1, 2, 3, 4遺伝子の安定発現細胞を用いることで、Phase 0の解析が可能になった。
以上トランスポーターはヒトでの生理現象及び病態を理解する上で有用な示唆を与える。
(薬理学教室助手 安西 尚彦)