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学部ホームページをご覧下さい

教授 笈川 博一

夏休みも問近のある夕方、学校から帰宅する車の中でラジオを聞いていた。その番組で「アジア歴史資料センター」の話が出た。明治初めから第2次世界大戦終結までの国立公文書館、外務省外交史料館、防衛庁防衛研究所図書館が保管するアジア歴史資料の画像をインターネットで公開するというものだ。帰宅して早速http://www.jacar.go.jp/にアクセスしてみた。小渕第二次改造内閣による平成111130日の閣議決定に基づいて昨年開設したものである。もっともその開設構想は村山内閣にまでさかのぼる。インタビューに答えた同センタ長の説明によると、

 

1、中・韓両国との間では歴史認識に関する問題があり、とにかく現物で何があったかを示すことが将来の建設的な議論のために不可欠だ、
2
、量が多すぎて選別出来ないので、全部出すことにした、
3
、活字版にすることなく、現物をそのまま画像で見せる、との方針だ。

 

これはなんとも面白そうではないか。

 

帰宅して早速探したのが西郷参議の辞表(公文録・明治六年・第二百五十五巻・明治六年十月・官員伺)である。教養ない身はそこにある西郷の書いた(?)毛筆の字をつまびらかにしないが、1023日彼が胸痛を理由に辞職願いを出しているのはなんとなく分かった。歴史そのものに触れているときめきを感じるではないか。なにしろ、4年後の明治10年に起こった西南戦争につながる辞表である。

 

インターネットは情報へのアクセスを一変させた。これまでだって西郷の辞表を見ることは可能だった。しかしそれには所蔵している国立公文書館に行き、申込書を記入して、出してくるのを待たなければならない。ところが今では自宅や職場でそれを見ることが出来る。英語での検索も出来るようになったから、外国の日本研究者にとっても便利だろう。日本までの航空運賃は、出発地がどこであっても、安くはない。

 

そういうコンテキストから我が学部のホームページを見ると、これはもう赤面せざるを得ない。だから「学部ホームページをご覧下さい」というタイトルにはいささか羊頭狗肉の気味がある。スキルなし、ノウハウなし、お金(は持ち寄りが原資で潤沢では)なし、方針なしのナイナイづくしで始まってから一年有半。とりあえずあるのは熱意とデジタル・デバイドに対する恐怖感だけだった。まったくの手探りでできあがったのが
/univ/faculty/general_policy/index.php

である。手探り状態は今後も続くだろう。スキルもないままに過ぎるのかもしれない。お金だって近い将来潤沢に出てきて、専門家に全面的に頼めるようになるとも思えない。

 

しかし一番の問題は「方針」である。一体学部のホームページは誰のためのものなんだろう。受験生対策なのだろうか。大学院の場合は受験生のかなりの部分がホームページを見て、どんな教師がいて、どんな授業をやっているのかを受験前に調べることが多い。その大学のwebmasterに連絡を取り、指導を受けたいと思う教師に事前に会って話をすることも少なくない。しかし残念ながら学部の場合にはそういうケースは多くないようだ。もっとも近い将来にはこれも変わるかもしれない。変わったときのことを考えると、現在提供している情報が十分なものだろうかと問わねばならない。


それなら在学生のためなのだろうか。そうかもしれない。でも現在の学部ホームページは彼らの要求を満たしているのだろうか。一体学生はホームページを通じてどんな情報を得たいと思っているのか。教師の顔写真は要求の一部なのか、そうではないのか。シラバスは、休講情報は、時間割は、講義録は…学生が週に一回は開きたくなるような、あるいは開かないと不利益を受けるような学部ホームページというのはあるんだろうか。そんなものがあれば、学生がデジタル・デバイドの敗者になるのを防ぐことが出来るかもしれない。しかしそんなインセンティブのあるぺージは作れるのだろうか。あったとしても我々にはそれが可能なのか。

 

学生の家族の方々は学部ホームページのターゲットなのだろうか。だとすれば、一体何を掲載すればいいのだろう。それとも「他の学校がやっているのに、うちだけないというわけにもいかない」というアリバイエ作が一番大きな存在理由なのか。

 

それでもなお本誌読者諸兄姉に訴えたい。学部ホームページをご覧下さい、そして文句を言ってください、欲しいものを要求してください。そうしたら学部ホームページはもう少しだけよくなるかもしれない。()