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テロと勇気ある学生

教授 酒向 克郎

昨年911日テロ攻撃で破壊されたペンタゴン(国防総省)の一部の修理工事が完成。その完成式典が先日ペンタゴンでしめやかにおこなわれた。その式典でジョージ・ワシントン(GW)大学の学生エリック・ジョンズ君に民間最高の勲章が贈られた。彼の勇気ある救済行動にペンタゴンの職員一同が感謝の意を表したのだ。911日の朝、大学の授業に向かう途中、ジェット旅客機が彼の目の前を通りペンタゴンに突っ込んだ。即車を止めたジョンズ君は、燃え上がるペンタゴンに飛込み、火傷で動けなくなっていたペンタゴン職員への救済活動を行い、4日間を通して30人以上の職員を救い、彼自身も火傷をおった。長期の治療を受け、元気になり、職場に復帰できたペンタゴン職員多数がその式典で命の恩人であるジョンズ君と再会。共に抱き合いながら、喜びと、また、不幸にも亡くなった多くの犠牲者への悲しみ、を分かち合う姿がとても痛々しかった。

ペンタゴンやニューヨークの世界貿易センターに自分の命を惜しまず飛込み、多数の人命を救った勇気あるアメリカ人は勿論ジョンズ君だけではない。消防団員、警察、医師、牧師、主婦、会社員、と多くのアメリカ市民が他人の命を救うヒロイックな救済活動をしたことはニューヨークとワシントンで多々報道されている。しかし、彼がジョージ・ワシントン大学の学生であることがとても身近な事に思えた。それは、杏林大学の学生が毎年北米研修のためーヵ月程ワシントンに滞在しジョージ・ワシントン大学の寮で米人学生と生活を共にするからだ。「杏林の学生が生活を共にする米人学生の中にこのような勇気のある若者がいるのか……」と思うと感慨無量。米国の若者への尊敬が一際強くなった。

社会や地域で奉仕活動する人材の育成に力を入れている米国の大学教育。彼も勉学の合間に病院やホームレス保護所でボランテイア活動をしている。「ペンタゴンでの人命救済もその奉仕活動の延長で、特別ヒロイックな活動をしたとは思っていない」との談話が報道されている。日頃の奉仕精神の育成が、大惨事に無限の力を発揮し、市民の家族に思いがけない命と幸をもたらしてくれる事を間近に証明してくれた様に思えた。

「将来テロリストによるワシントン再攻撃は避けられない……」と予言する専門家がいる。しかし、テロリストに真っ向から立ち向かう勇気のある若者が数多くいるかぎり、テロは米国を打ち破ることは出来ないであろう。

2002715