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教員が語る専門分野のこんなところが面白い 教員リレーエッセイ

専門分野の「こんなところが面白い」Vol.5
教授・鄭 英淑(CHUNG, Young-Sook)

 私の専門分野は近代日本語の成立です。幕末にアメリカをはじめ西欧列強に国の扉を開いてから、日本は政治・経済・法律・医学・教育・建築・芸術など、あらゆる分野の西洋の知識を導入することになりました。それにあたって新たな概念の受容を余儀なくされ、同時にそれらの概念を表現する新しいことばを作り出す必要が生じました。「自由/平等/哲学/神経/建築/芸術/社会/国際法・・・」など、数え切れません。これらのことばが既存の語彙体系に組み込まれ、近代日本語の成立に寄与したという経緯があります。一つ一つのことばがいつ、どのような経路で、誰によって作られ、どのような変遷を経て今に至ったのかを研究するためには、文献資料の調査だけではなく、関連分野について幅広く学ぶことも必要です。大変ではありますが、一つのことばの調査からでも非常に多くのことが学べるため、魅力的でもあります。さらにその過程で生まれる人々との交流は、人生をも豊かにしてくれます。

研究に欠かせないアイテム

人に一生があるようにことばにも一生があります。理由があって生まれてきて、使われていく中で、いろんなことばに出会い、意味変化を起こしたり、他のことばを派生させたりもする。そして、役割が終わったら死んでいきます。生まれて成長して結婚し、子供を産んで、子孫を残して死ぬ。人の一生そのものです。このようなことばの一生を調べるのが、私の研究テーマです。ことばの履歴の調査に欠かせないのが辞書とコーパス。今の時代はデジタル技術の進歩で、紙媒体のみならず、電子資料の利用も手軽にできるので、それをどう生かすかが重要になってきます。

研究する上で大切にしていること

ことばに興味を持つこと、そして疑問を抱くこと、新しい考えやアイデアが浮かんだ時は、その場でメモを取ることです。たとえば、テレビや講演、新聞などで「旅券」ということばを耳にしたと仮定してみましょう。その瞬間、「旅券」って何のこと? もしかして「パスポート」? そうだとしたら、何で今はあまり使われていないのだろう? といった疑問を抱きます。辞書や辞典を引く中で「旅券」という一つの単語の誕生に日本が国民を外国に送り出した歴史が関係していることを知り、その過程で当時の国際社会の法律や慣行などが分かるようになります。今まで特に深く考えず、当たり前に使っていたことばに意外な事実が潜んでいることに気づくのです。分かったことはすぐにメモを取って整理し、それを基にして研究の方法を立てて進めていきます。新しい発見から得られる喜びは何ものにも代えがたく、だからこそ続けられます。

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