大学ホーム医学研究科医学研究科について学修要綱履修モデル・主要科目の特長病理系専攻 感染症・熱帯病学分野

主要科目の特長:病理系専攻 感染症・熱帯病学分野(寄生虫学部門)

感染症・熱帯病学分野の授業科目

科目名 単位
感染症・熱帯病学 講義・演習4
感染症・熱帯病学 実験・実習8
感染症・熱帯病学 課題研究8
感染症・熱帯病学 研究論文演習4

科目の特長(寄生虫学部門)

感染症学教室(寄生虫学部門)
准教授 竹尾 暁、講師 新倉 保、講師 井上 信一

寄生虫病研究の対象としては、マラリア原虫、赤痢アメーバなどの原虫類と、住血吸虫、フィラリア、回虫などの蠕虫類の他、外部寄生虫による疾患があります。感染症学教室(寄生虫学部門)では、HIV/AIDS、結核と並ぶ三大感染症の1つである “マラリア” に焦点をあてて研究を行っています。
マラリアは、全世界で年間2億人が発症し、 アフリカの人々を中心に毎年 43 万人もの人命が奪われる寄生虫疾患です (WHO, 2016)。マラリアを制圧するためには効果的なワクチンや新規抗マラリア薬の開発が必要です。これら新規治療戦略の分子基盤を提供することを目的に、私たちの研究室では、マラリアにおける感染防御・免疫制御機構、病態発症・抑制機構、原虫の増殖・病原性に関わる因子を明らかにすることを目指しています。

大学院生は、初年度は当研究室で進行中の研究プロジェクト(以下に記載)に加わり、担当教員の指導の下、様々な実験手技を身につけます。同時に、毎週行われるセミナー(Journal Club と Progress Report)で研究の背景を十分に理解し、かつ、英語力や発表のスキルを磨きます。次年度以降は独自の発想で研究を展開させ、学会発表を経て大学院所属中に斯界の権威ある科学誌に論文を英語で投稿することが求められます。

研究室で行っている研究テーマの紹介

脂肪組織から紐解く新たな妊娠マラリア病態発症機構

妊婦がマラリアに罹患すると、胎盤の絨毛管腔にマラリア原虫感染赤血球が侵入し、蓄積することが報告されています。マラリア原虫感染赤血球が胎盤に集積すると、宿主の免疫が活性化され炎症反応が誘導されます。この炎症反応は、マラリア原虫を排除するだけでなく、自身の胎盤組織にも傷害を与えます。この炎症反応によって胎盤組織が傷害されることで、胎児の子宮内発育不全や早産、流産、死産が引き起こされると考えられています。実際に、流行地での疫学研究によって、IFN-γ や TNF-α, IL-6 などの炎症性サイトカインが胎児の流産や死産に関わることが示唆されていますが、宿主炎症反応と胎盤組織傷害との関係を示す直接的な証拠はありませんでした。

図1: 妊娠中のマラリアの胎盤組織傷害における IFNGR1 の役割

最近、私たちは妊婦のマラリアの典型的な病態を再現するマウスモデルの確立に成功しました (Mineo and Niikura, et al. Infect Immun. 2013; Niikura et al. PLoS One. 2017)。このマウスモデルの胎盤の病理解析を行ったところ、マラリア原虫を感染させた妊娠マウスの胎盤で絨毛部に感染赤血球の集積と絨毛組織の変性が認められました。このマウスモデルの血漿中において炎症性サイトカインである IFN-γ が有意に増加していたことから、IFN-γ の受容体である IFNGR1 を欠損させたマウスを用いて IFN-γ と胎盤絨毛組織の変性との関係を解析しました。その結果、マラリア原虫を感染させた IFNGR1 欠損マウスでは、野生型妊娠マウスで認められた絨毛組織の変性が改善されることを見出しました。また、マラリア原虫を感染させた IFNGR1 欠損マウスの胎仔の死亡率は、野生型マウスと比較して有意に減少しました。これらの結果から、妊娠マラリアにおける絨毛組織の変性には IFNGR1 を介して誘導される炎症反応が関わることが明らかとなりました (図1)(Niikura, et al. PLoS One. 2017)。

図2: 妊娠マラリアのマウスモデルの生体イメージング解析

私たちが確立したマウスモデルを用いて、宿主体内におけるマラリア原虫感染赤血球の局在を生体イメージングにて解析したところ、妊娠マウスの脂肪組織におけるマラリア原虫感染赤血球の蓄積量は、非妊娠マウスの脂肪組織と比較して、7~8倍も増加することを見出しました (図2)(Niikura, et al. PLoS One. 2017)。これらの知見から、マラリア原虫感染赤血球の脂肪組織への集積が妊娠マラリアの病態重症化の一端を担っていると推測されます。妊娠中のマラリアの病態の重症化は、妊娠による免疫抑制が主な原因であると考えられています。一方、妊娠関連ホルモンの作用による脂肪組織などの変化は、妊娠マラリアの病態重症化に関わる因子である可能性が極めて高く、これらの因子を詳細に研究することで妊娠マラリアの早期診断法や治療法の開発のための新たな知見が得られると期待されます。現在、このマウスモデルを用いて、妊婦におけるマラリアの病態発症機構の解明に向けて研究を進めています。

マラリアの感染防御に働くガンマデルタT細胞とその機能変化

図3: γδT 細胞による樹状細胞活性化促進
図4: 感染過程と γδT 細胞状態の関係

マラリア根絶にはマラリアワクチンが重要となりますが、未だに有効なマラリアワクチンは開発されていません。この現状を打破するために、マラリア防御免疫機構の詳細を解明することが極めて重要です。ガンマデルタT細胞 (γδT 細胞) は、細菌やウィルスや寄生虫などの様々な病原体に対する免疫応答において重要な役割を担う自然免疫様リンパ球の一つです。マラリア患者において、脾臓や末梢血での γδT細胞数が増加することから、マラリアと γδT 細胞の関連性が示唆されていましたが、マラリアにおける γδT 細胞の役割の詳細は未解明でした。これまで我々は、マウスマラリアモデルを用いて、γδT 細胞が IFN-γ の産生と CD40 Ligand の発現により樹状細胞の活性化を促進することで、IFN-γ 産生性ヘルパーT細胞の免疫応答 (Th1 応答)が強く誘導されることによってマラリア原虫の効率的な排除に寄与しているという感染防御機構を提唱してきました (図3)(Inoue, et al. PNAS. 2012; Inoue, et al. FEBS Lett. 2014)。また、極めて最近、我々は、このマラリア防御免疫に重要な γδT 細胞は、Vγ1+ γδT 細胞 (T細胞レセプターの1つである TCR Vγ1 を発現する細胞)であることを発見しました。本研究により、この Vγ1+ γδT 細胞は感染初期に活性化して IFN-γ 産生能を向上させるものの、感染後期になると IFN-γ 産生能が低下し、さらに抑制性レセプター群 (PD-1, LAG-3, TIM-3) を強発現して、γδT 細胞疲弊を引き起すことが明らかとなりました (図3&4)( Inoue, et al. Eur J Immunol. 2017)。さらに、感染後の樹状細胞への IFN-γ 刺激が影響して γδT 細胞の疲弊につながることを示しました。これまで、この “γδT 細胞疲弊” を引き起す感染実験モデルの作出に成功したという報告はなく、今回、我々がマウスマラリアモデルを用いて世界に先駆けて報告することが出来ました。今後、この感染実験モデルを用いて、γδT 細胞疲弊という免疫現象の詳細と、それがマラリア防御免疫にどのように影響しているのか解明されることが期待されます。

ヒトマラリア原虫のハマダラカ移行期の虫体解析

図5: 熱帯熱マラリア原虫の成熟した生殖母体の蛍光像。上揭の無性期原虫とは異なり、伸長~バナナ状を呈する。周囲の円形像はヒト赤血球。

マラリア原虫はまずハマダラカに寄生して、そのヒト吸血により赤血球内に移行します。ここで原虫は、専ら無性的に増殖してマラリアの症状を起こす型(>90%)と、再びハマダラカに吸血されて有性生殖に向かう型に分かれます。両者は顕微鏡下の形態が異なりますが、特に後者の詳細な構造や分子機構は不明です。当研究室では、原虫の生活環を断ち切りマラリア撲滅にも寄与すべく、このハマダラカ移行期原虫の解析を進めています。

業績

  1. Mamoru Niikura, Shin-Ichi Inoue, Toshiyuki Fukutomi, Junya Yamagishi, Hiroko Asahi, Fumie Kobayashi: Comparative genomics and proteomic analyses between lethal and nonlethal strains of Plasmodium berghei. Exp Parasitol. 185: 1-9, 2018. doi: 10.1016/j.exppara.2018.01.001.
  2. Mamoru Niikura, Shin-Ichi Inoue, Shoichiro Mineo, Hiroko Asahi, Fumie Kobayashi: IFNGR1 signaling is associated with adverse pregnancy outcomes during infection with malaria parasites. PLoS One. 12 (11): e0185392, 2017. doi: 10.1371/journal.pone.0185392.
  3. Hiroko Asahi, Shin-Ichi Inoue, Mamoru Niikura, Keisuke Kunigo, Yutaka Suzuki, Fumie Kobayashi, Fujiro Sendo: Pyknosis and developmental arrest induced by an opioid receptor antagonist and dihydroarthemisinin in Plasmodium falciparum. PLoS One. 12 (9): e0184874, 2017. doi: 10.1371/journal.pone.0184874.
  4. Mamoru Niikura, Keisuke Komatsuya, Shin-Ichi Inoue, Risa Matsuda, Hiroko Asahi, Daniel Ken Inaoka, Kiyoshi Kita, Fumie Kobayashi: Suppression of experimental cerebral malaria by disruption of malate:quinone oxidoreductase. Malar J. 16 (1): 247, 2017. doi: 10.1186/s12936-017-1898-5.
  5. Shin-Ichi Inoue, Mamoru Niikura, Hiroko Asahi, Yoichiro Iwakuwa, Yashushi Kawakami, Fumie Kobayashi: Preferencially expanding Vγ1+ γδT cells are associated with protective immunity against Plasmodium infection in mice. Eur J Immunol. 47 (4): 685-691, 2017. doi: 10.1002/eji.201646699.
  6. Hajime Honma, Mamoru Niikura, Fumie Kobayashi, Toshihiro Horii, Toshihiro Mita, Hiroyoshi Endo, Makoto Hirai: Mutation tendency of mutator Plasmodium berghei with proofreading-deficient DNA polymerase δ. Sci Rep. 6: 36971, 2016. doi: 10.1038/srep36971.
  7. Shigeo Suzuki, Kenji Hikosaka, Emmanuel O. Balogun, Keisuke Komatsuya, Mamoru Niikura, Fumie Kobayashi, Kiwamu Takahashi, Tohru Tanaka, Motowo Nakajima, Kiyoshi Kita: In vivo curative and protective potential of orally administered 5-aminolevulinic acid plus ferrous ion against malaria. Antimicrob Agents Chemother. 59 (11): 6960-7, 2015. doi: 10.1128/AAC.01910-15.
  8. Shin-Ichi Inoue, Mamoru Niikura, Megumi Inoue, Shoichiro Mineo, Yasushi Kawakami, Akihiko Uchida, Hiroaki Ohnishi, Shigeru Kamiya, Takashi Watanabe, Fumie Kobayashi: The protective effect of CD40 ligand-CD40 signalling is limited during the early phase of Plasmodium infection. FEBS Lett. 588 (13): 2147-53, 2014. doi: 10.1016/j.febslet.2014.04.035.
  9. Shoichiro Mineo*, Mamoru Niikura*, Shin-Ichi Inoue, Masahiko Kuroda, Fumie Kobayashi: Development of severe pathology in immunized pregnant mice challenged with lethal malaria parasites. Infect Immun. 81 (10): 3865-71. doi: 10.1128/IAI.00749-13, 2013. (*equal contributions)
  10. Mamoru Niikura, Shin-Ichi Inoue, Shoichirou Mineo, Yutaroh Yamada, Izumi Kaneko, Shiroh Iwanaga, Masao Yuda, Fumie Kobayashi: Experimental cerebral malaria is suppressed by disruption of nucleoside transporter 1 but not purine nucleoside phosphorylase. Biochem Biophys Res Commun. 432 (3): 504-8, 2013. doi: 10.1016/j.bbrc.2013.02.004.

(2018年 4月)

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