大学ホーム医学研究科医学研究科について学修要綱履修モデル・主要科目の特長病理系専攻 感染症・熱帯病学分野

主要科目の特長:病理系専攻 感染症・熱帯病学分野(寄生虫学部門)

感染症・熱帯病学分野の授業科目

科目名 単位
感染症・熱帯病学 講義・演習4
感染症・熱帯病学 実験・実習8
感染症・熱帯病学 課題研究8
感染症・熱帯病学 研究論文演習4

科目の特長(寄生虫学部門)

感染症学教室(寄生虫学部門)
教授 小林 富美惠

寄生虫病研究の対象としては、マラリア原虫、赤痢アメーバなどの原虫類と、住血吸虫、フィラリア、回虫などの蠕虫類の他、外部寄生虫による疾患があります。感染症学教室(寄生虫学部門)では、HIV/AIDS、結核と並ぶ三大感染症の1つである “マラリア” に焦点をあてて研究を行っています。
マラリアは、全世界で年間 1.5~2.9 億人が発症し、 アフリカの人々を中心に毎年 66 万人もの人命が奪われる寄生虫疾患です (WHO, 2012)。マラリアを制圧するためには効果的なワクチンや新規抗マラリア薬の開発が必要です。これら新規治療戦略の分子基盤を提供することを目的に、私たちの研究室では、マラリアにおける感染防御・免疫制御機構、病態発症・抑制機構、原虫の増殖・病原性に関わる因子を明らかにすることを目指しています。

大学院生は、初年度は当研究室で進行中の研究プロジェクト(以下に記載)に加わり、担当教員の指導の下、様々な実験手技を身につけます。同時に、毎週行われるセミナー(Journal Club と Progress Report)で研究の背景を十分に理解し、かつ、英語力や発表のスキルを磨きます。次年度以降は独自の発想で研究を展開させ、学会発表を経て大学院所属中に斯界の権威ある科学誌に論文を英語で投稿することが求められます。

ガンマデルタT細胞によるマラリア防御免疫機構の解明

ガンマデルタT細胞は自然免疫リンパ球の1つとして生体防御に働いています。当研究室では、マラリア原虫感染の際に、ガンマデルタT細胞が抗原提示細胞である樹状細胞の活性化を促進することでマラリア防御免疫を助ける役割があることを世界に先駆けて明らかにしました (Inoue et al., PNAS, 2012)。現在は、ガンマデルタT細胞が関わるマラリア防御免疫機構の全容を明らかにするため、ガンマデルタT細胞とその他の免疫細胞との相互関係や免疫細胞を供給する造血細胞などとの関連性について解析をすすめています。

図1: マラリア原虫感染マウス脾臓中のガンマデルタT細胞(赤)と樹状細胞(緑)。 青は細胞の核。

マラリア原虫複合感染による病態重症化の抑制に関する研究

熱帯熱マラリアにおいては、適切な治療が施されなければ発熱から数日以内に脳症や急性肺傷害などを併発し、病態は急激に重症化します。一方で、良性の三日熱マラリア原虫が複合感染している場合、悪性の熱帯熱マラリア原虫単独感染と比較して重症化が抑制される傾向にあります。このマラリア原虫複合感染による重症化抑制機構を解明するために、マウスマラリア原虫の致死性株と非致死性株との感染系 (Niikura et al., J Immunol, 2008) を用いて研究を進めています。現在、赤色と緑色の蛍光タンパクの遺伝子をそれぞれ導入した遺伝子改変原虫を作製し、複合感染時の感染動態について解析しています。

図2: 赤色および緑色蛍光タンパク遺伝子が導入された遺伝子改変マラリア原虫(赤内期)(赤;致死性株、緑;非致死性株)

妊婦におけるマラリアの病態発症機構の解明

マラリア浸淫地域の人々はマラリア原虫に対する免疫を獲得しており、マラリア原虫に感染しても重症化することは殆どありません。しかし、妊娠するとマラリア原虫に対する抵抗性が低下し、病態は重症化します。また、妊娠中のマラリアにより流産や死産、胎児の発育遅延が頻発します。しかし、これらの病態発症機構は未だに解明されていません。最近、私たちは妊婦のマラリアの典型的な病態を再現する新規マウスモデルの確立に成功しました (Mineo* and Niikura et al., Infect Immun, 2013)。現在、このマウスモデルを用いて、妊婦におけるマラリアの病態発症機構の解明に向けて研究を進めています。
(* Mineo; 本学医学研究科博士課程3年生、平成26年度修了予定)

図3:マラリア原虫を感染させたマウスにおける胎盤の組織障害。 A;マラリア原虫を感染させていない健康な妊娠マウスの胎盤組織像。 B;マラリア原虫を感染させた妊娠マウスの胎盤組織像。 △;胎盤に集積したマラリア原虫感染赤血球。 C;マラリア原虫を感染させた妊娠マウスの末梢血と胎盤における感染赤血球の割合。

赤内期マラリア原虫における核酸輸送体の生理的意義

マラリア原虫は、核酸(プリン塩基)の新生経路を欠損しているため、寄生した宿主の核酸分解産物(プリンヌクレオシド)を利用することで核酸を合成しています。宿主のプリンヌクレオシドは、マラリア原虫の細胞膜にある核酸輸送体を介して原虫内に取り込まれます。この核酸輸送体を欠損させるとマラリア原虫の増殖は著しく抑制され、病原性が低下することが私たちの研究により明らかとなりました (Niikura et al., BBRC, 2013)。この研究成果が効果的な新規抗マラリア薬開発の一助となることが期待されます。

図4: マラリア原虫の核酸輸送体(NT1)による宿主由来プリンヌクレオシド(アデノシン、イノシン、ヒポキサンチンなど)の取込みの模式図

マラリア免疫の標的遺伝子の探索と免疫誘導性の検証

マラリア原虫感染に対する獲得防御免疫は株特異的に成立すると考えられています。その原因の一つとしてマラリア原虫感染に対する防御免疫を誘導する抗原の多くが多型に富んでいることがあげられます。マラリア原虫感染に対する株特異的免疫の標的遺伝子を遺伝連鎖群解析法と次世代シークエンス解析を組み合わせることにより探索・同定し、さらに同定した標的遺伝子の免疫誘導性を検証することによって、マラリア原虫感染における株特異的免疫のメカニズムを探っています。現在、蚊の唾液腺からマラリア原虫のスポロゾイトを回収する系を構築し、遺伝子改変スポロゾイトを抗原として接種することで赤外期マラリア原虫感染に対する防御免疫の誘導を試みています。

図5: 蚊の唾液腺より採取した遺伝子改変スポロゾイト(緑色蛍光タンパク遺伝子が導入されている)

ヒトマラリア原虫のハマダラカ移行期の虫体解析

マラリア原虫はまずハマダラカに寄生して、そのヒト吸血により赤血球内に移行します。ここで原虫は、専ら無性的に増殖してマラリアの症状を起こす型(>90%)と、再びハマダラカに吸血されて有性生殖に向かう型に分かれます。両者は顕微鏡下の形態が異なりますが、特に後者の詳細な構造や分子機構は不明です。当研究室では、原虫の生活環を断ち切りマラリア撲滅にも寄与すべく、このハマダラカ移行期原虫の解析を進めています。

図6: 熱帯熱マラリア原虫の成熟した生殖母体の蛍光像。上揭の無性期原虫とは異なり、伸長~バナナ状を呈する。周囲の円形像はヒト赤血球。

業績

  1. Mineo S, Niikura M, Inoue S-I, Kuroda M, Kobayashi F: Development of severe pathology in immunized pregnant mice challenged with lethal malaria parasites. Infect Immun, 81(10): 3865-3871, 2013.
  2. Inoue S-I, Niikura M, Mineo S, Kobayashi F: Roles of IFN-γ and γδ T cells in protective immunity against blood-stage malaria. Front Immunol, Vol 4, Article 258, 1-9, 2013. doi: 10.3389/fimmu.2013.00258
  3. Niikura M, Inoue S-I, Mineo S, Yamada Y, Kaneko I, Iwanaga S, Yuda M, Kobayashi F: Experimental cerebral malaria is suppressed by disruption of nucleoside transporter 1 but not purine nucleoside phosphorylase. Biochem Biophys Res Commun, 432(3): 504-508, 2013.
  4. Tanabe K, Mita M, Palacpac MNQ, Arisue N, Tougan T, Kawai S, Jombart T, Kobayashi F, Horii T: Within-population genetic diversity of Plasmodium falciparum vaccine candidate antigens reveals geographic distance from a Central sub-Saharan African origin. Vaccine, 31 (9): 1334-1339, 2013.
  5. Ishih A, Kawakami C, Todoroki A, Hirai H, Ohori K, Kobayashi F: Outcome of primary lethal and non-lethal Plasmodium yoelii malaria infection in BALB/c and IFN-γ receptor-deficient mice following chloroquine treatment. Parasitol Res, 112 (2): 773-780, 2013.
  6. Inoue S-I, Niikura M, Takeo S, Mineo S, Kawakami Y, Uchida A, Kamiya S, Kobayashi F: Enhancement of dendritic cell activation via CD40 ligand-expressing γδ T cells is responsible for protective immunity to Plasmodium parasites. Proc Natl Acad Sci U S A, 109 (30): 12129-12134, 2012.
  7. Ishih A, Nagata T, Kobayashi F: The course of a primary infection of Plasmodium yoelii 17XL in both 129S1 and IFN-γ receptor deficient mice. Parasitol Res, 111(2): 593-600, 2012.
  8. Sakamoto H, Takeo S, Maier AG, Sattabongkot J, Cowman AF, Tsuboi T. Antibodies against a Plasmodium falciparum antigen PfMSPDBL1 inhibit merozoite invasion into human erythrocytes. Vaccine, 30(11): 1972-1980, 2012.
  9. Niikura M, Inoue S-I, Kobayashi F: Role of IL-10 in malaria: focusing on coinfection with lethal and nonlethal murine malaria parasites. J. Biomed. Biotech, in special issue "Immunology and Cell Biology of Parasitic Diseases, 2011, Article ID 383962, Epub 2011 Nov 13.
  10. Hikosaka K, Watanabe Y, Kobayashi F, Waki S, Kita K, Tanabe K: Highly conserved gene arrangement of the mitochondrial genomes of 23 Plasmodium species. Parasitol Int, 60: 175-180, 2011.
  11. Niikura M, Kamiya S, Nakane A, Kita K, Kobayashi F: IL-10 plays a crucial role for the protection of experimental cerebral malaria by co-infection with non-lethal malaria parasites. Int J Parasitol, 40: 101-108, 2010.
  12. Niikura M, Kamiya S, Kita K, Kobayashi F: Coinfection with nonlethal murine malaria parasites suppresses pathogenesis caused by Plasmodium berghei NK65. J Immunol, 180: 6877-6884, 2008.

(2013年 9月)

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