大学ホーム医学研究科医学研究科について学修要綱履修モデル・主要科目の特長生理系専攻 生体機能制御学分野(統合生理学コース)

主要科目の特長:生理系専攻 生体機能制御学分野(統合生理学コース)

生体機能制御学分野(統合生理学コース)の授業科目

科目名 単位
統合生理学 講義・演習4
統合生理学 実験・実習8
生体機能制御学(統合生理学) 課題研究8
生体機能制御学(統合生理学) 研究論文演習4

科目の特長

統合生理学教室
教授 大木 紫、助教 中島 剛

脊髄障害後の代償神経システム構築に着目する新たな運動機能回復戦略

1.何のための研究か?

脊髄は首から下の運動・感覚機能に関与し、脳からの運動指令を筋肉に、感覚情報を脳に伝達する経路が通っています。上から頸髄(8個)、胸髄(12)、腰髄(5)、仙髄(5)、尾髄(1)と呼ばれる髄節に区分され、頸髄は首から上肢、腰髄は腰から下肢、というように、脊髄上部に位置する髄節は身体上部の機能を、下部に位置する髄節は、身体下部の機能を担っています。疾病や外傷で脊髄に障害が生じると、脳との連絡経路が障害を受け、障害髄節より下の体部位で運動および感覚機能低下が生じます。その結果、手足に重篤な運動麻痺や感覚麻痺が残る場合があります。

上述したように、脊髄が損傷を受けた場合、自分の思うように運動を行うことができません。そもそも我々が手や足を自由に動かすには、大脳皮質の運動に関わる領域(運動関連領野)に端を発し、その運動指令を脊髄に伝達する運動経路(錐体路)が重要な役割を果たすと言われています(図、青い経路)。脊髄損傷時の運動麻痺は、この錐体路が損傷を受けた結果(図中 ×)とされています。

しかしながら、部分的に脊髄へのダメージを負った不全脊髄損傷の患者さん(完全に脊髄が離断されていない)では、錐体路が損傷されていても、損傷後のリハビリテーション効果が高いことが知られています。このことは、脊髄をはじめとする神経回路の残存機能や、代償機構を積極的に利用することにより、運動機能が回復する可能性を示しています。例えば、先ほどの錐体路が脊髄で障害された場合(右図 ×)、その障害部位を"バイパス"する神経システム(図の緑矢印の経路)を構築・強化できれば、再び運動機能を回復させることが可能かもしれないのです。

2.脊髄障害後の代償機構の主役となる可能性を秘める「脊髄介在ニューロン」

私たちは、脊髄障害後の代償機構の主役となる可能性を秘める神経回路として、「脊髄介在ニューロン」を含む神経ネットワーク(上図、下の緑矢印)に焦点を絞り、その神経回路網の活動励起やシナプス強化を人で生じさせる検討を行っています。このような脊髄介在ニューロンシステムで、もっともよく解析されているのは、上部頸髄(第3および第4頸髄;C3-C4)に存在する脊髄固有ニューロン系です。この系は、ネコやサルではもともと錐体路のバイパス経路である "間接経路" として存在し(Isa, Ohki et al., 2007)、主に腕の運動制御に重要な役割を果たしていると考えられています。

近年、人でも同様の介在ニューロンシステムが存在することが間接的に示唆され、私たちも単一運動単位記録でその存在を直接的に示してきました。また、私たちは、頸髄症の患者さんで、介在ニューロンシステムを利用した運動機能回復が起こる可能性を示してきました (Igarashi, Shibuya et al., 2011)。

3.脊髄介在ニューロン系の可塑的変化: 新たな運動機能回復戦略

神経系のシナプス(神経細胞と神経細胞の連結部)は、強化する(効率を高める)ことが可能です。シナプスの強化のような変化は可塑性と呼ばれ、例えば海馬での可塑的変化は記憶形成に関わることが知られています。このような可塑的変化は人の大脳皮質でも起こることが知られ、脳卒中の患者さんのリハビリテーションに利用できる可能性が示されています。

それでは、脊髄の介在ニューロン系で同様の可塑的変化を起こし、脊髄障害の患者さんのリハビリを行うのに用いることは可能でしょうか?現在、私たちは大脳皮質で知られているシナプスの強化法(錐体路刺激と末梢神経刺激の組み合わせ刺激法)を用い、まず健常者の脊髄でバイパスシステムの強化が行えるかを検討しています。そして、シナプスの強化が、実際に可能であることを観察しています。この結果を以下にお見せします。


上腕二頭筋の筋電図活動

上図は、大脳皮質を磁気刺激という方法で刺激して得られた、上腕二頭筋の筋電図活動です。(磁気刺激装置は、ページの一番下の写真をご覧ください。)大脳皮質を刺激()して錐体路を構成する細胞を活動させると、その活動は 錐体路→運動ニューロン→筋 とシナプスを超えて伝わり、筋を活動させます。(最初の→には、錐体路→介在ニューロン→運動ニューロン の経路も含まれることに注意してください。)筋の活動は、筋電図記録により観察することができます。筋が活動していない時は、筋電図は水平の線になりますが、錐体路からの入力で活動すると上下に振れているのが見られます(赤い線)。大きく振れれば振れるほど、活動が強いことを示します。

左右の筋電図は、同じ人からの記録で、大脳皮質を同じ強度で刺激しています。左はシナプス強化(可塑的変化)前、右はシナプス強化後の活動記録で、右の記録で活動が強いことが観察されます。様々な方法により、この活動増強は 錐体路→介在ニューロン のシナプス強化で生じていることがわかりました。そして、10分程度のシナプス強化法で、約1時間程度効果が続くことが確認できました。

もちろん、この結果を脊髄障害の患者さんに応用するには、まだ乗り越えなければならない壁があります。(例えば、効果をもっと長く続かせる必要があります。)しかし、脊髄介在ニューロン系で可塑的変化が起きることは確かです。今後は、脊髄障害の患者さんに対し、運動機能回復のための新たなリハビリ法として有効であるか検証する計画です。

磁気刺激装置

(2013年 8月)

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