大学ホーム医学研究科医学研究科について学修要綱履修モデル・主要科目の特長生理系専攻 病態生化学分野(分子細胞生物学コース)

主要科目の特長:生理系専攻 病態生化学分野(分子細胞生物学コース)

病態生化学分野(分子細胞生物学コース)の授業科目

科目名 単位
分子細胞生物学 講義・演習4
分子細胞生物学 実験・実習8
病態生化学(分子細胞生物学) 課題研究8
病態生化学(分子細胞生物学) 研究論文演習4

科目の特長(分子細胞生物学コース)

細胞生化学教室
教授 今泉 美佳、講師 青柳 共太

大学院生は、1、2年次にまず開講科目である分子細胞生物学の講義、実習、セミナーを通して、分子生物学・細胞生物学の基礎知識を習得し、また基礎医学研究を行うために必要な遺伝子工学技術およびその原理を学びます。同時に、以下の私達の研究プロジェクトに参加して教員の指導を受けながら研究進行のためのスキルを学びます。2年次以降は、大学院生自らが立案する研究計画に沿って研究を実施していきます。研究成果は国内外の学会、ポスターセッション、症例報告会等で発表し、発表方法および質問者からの問いに適切に答えられるよう指導を受けます。研究成果は最終的に国際誌に原著論文として発表することが求められます。

研究室で行っている研究テーマの紹介

私達の教室は膵β細胞におけるインスリン分泌の分子機構の解明をテーマに研究を行っています。インスリン分泌不全によって生じる糖尿病は、今や日本国民の健康にとって最大の脅威となっています。糖尿病の成因解明、新たな予防法、及び新規治療薬の開発のためには、インスリン分泌機構を明らかにすることが基礎医学の観点からのみならず臨床医学にとっても急務の課題となっています。日本人の糖尿病患者数は予備軍を含めて約2000万人、かつ、死亡率順位2, 3位を占める心・脳血管障害の発症率は、糖尿病罹患者において非罹患者の3倍にも昇っています。にもかかわらず、糖尿病患者数は増加の一途をたどり、その患者数はこの5年間に200万人も増えています。特に日本人の糖尿病の特徴は、インスリン分泌不全を特徴としているため、インスリン分泌機構を分子レベルから一日も早く明らかにすることが待ち望まれています。

インスリン分泌の光学イメージング解析

私達の研究室では新しい光学イメージング手法を用いてインスリン分泌の分子機構を解明することに精力的に取り組んでいます。インスリンは膵臓のランゲルハンス氏島にあるβ細胞内にあるインスリン顆粒に貯蔵されており、インスリン顆粒と形質膜が融合することによって細胞の外に放出されます。この様なインスリン開口放出の分子機構を明らかにするためには、生きた細胞を用いて、単一インスリン顆粒の動態を、時間的空間的に解析することが必須です。そこで私達は、1分子の蛋白質を捉えることが可能な total internal reflection fluorescence microscopy (TIRF) システムを膵β細胞に応用し、単一インスリン顆粒をナノスケールの範囲、かつ 33ms のビデオレートで解析するシステムを確立しました。このシステムを用いることにより、世界で初めて、インスリンが膵臓のβ細胞から分泌される像を視覚的に捉えることに成功しました (J Biol Chem, 2002; Biochem J., 2004) (図1)。この研究成果は、米国の科学雑誌「Science」誌に review として紹介する機会を与えられました (Science, 2007)。また、実験結果は研究者でない方にもわかりやすい画像のため、NHK のTV番組(高校生物、ためしてガッテン、シリーズ医療革命)でも紹介されました。


図1. Total Internal Reflection Fluorescence (TIRF) 顕微鏡の原理

光学イメージングによる2相性インスリン開口放出機構解明への挑戦

食事の摂取により血中グルコース濃度が上昇すると膵β細胞からインスリンが2相性(初期相と第2相)に分泌されます。2型糖尿病はこの分泌2相性が失われ、分泌初期相の低下が引き金となって発症することから、2相性分泌のメカニズムの解明が強く望まれています。私達は膵β細胞内インスリン貯蔵顆粒のイメージング解析を行なった結果、分泌初期相では主に形質膜蛋白質であるシンタキシン1A 上にドッキングしているインスリン顆粒からインスリン分泌がおこり、第2相ではシンタキシン1A との相互作用なしに分泌されることを発見し、インスリン分泌初期相の詳細なメカニズムを初めて明らかにしました (J Cell Biol, 2007)(図2)。実際、2型糖尿病モデル動物である GKラットではシンタキシン1A が低下していることから (Diabetologia, 2004)、シンタキシン1A の発現・機能異常による分泌初期相の低下が2型糖尿病発症の直接の引き金になっていると考えられます。私達はこのほかにも、G蛋白質 Gαo、PI3キナーゼ、CDKAL1、ELKS、IL1β など (Diabetes, 2010; Biochem J., 2010; PLoS One, 2010; Mol Biol Cell., 2005; J Biol Chem., 2004) が分泌初期相を調節している分子であることを明らかにしています。現在、第2相インスリン分泌解明に向けた研究もスタートしています (PLoS One, 2012)。

このように私達は独自のイメージングシステムと、遺伝子改変マウス、細胞や種々のプローブを組み合わせることにより、2相性インスリン分泌の仕組みを分子レベルから徐々に明らかにしつつあります。これらの研究成果は、従来とは異なった新規の糖尿病薬、治療法の開発に直結するものであり、今後の研究の展開が強く期待されるものです。

図2. 分泌第1相と第2相のインスリン開口放出機構は異なっている (2相性インスリン開口放出機構のモデル図)
分泌第1相ではインスリン顆粒はシンタキシン (Synt1A) クラスター上にドッキングし、フュージョンする。分泌第2相では、分泌顆粒が細胞内部の貯蔵部位より形質膜上へ移動し、Synt1A クラスターとの相互作用なしに形質膜とフュージョンする。
(Ohara-Imaizumi et al., J. Cell Biol., 2007; Nagamatsu & Ohara-Imaizumi, Science 2007 より改変)

光学イメージングによる妊娠糖尿病におけるインスリン分泌不全の解明

妊娠期母体では、胎児へのグルコース供給のためにインスリン抵抗性が引き起こされます。このインスリン抵抗性を代償するため、インスリン分泌は著しく亢進する必要があり、亢進が不十分な場合には妊娠糖尿病と診断されます。この代償性インスリン分泌亢進機構にはβ細胞容積増加と共に、個々のβ細胞からのインスリン分泌能亢進が必然と考えられていますが、インスリン分泌能亢進の分子機構は未だ不明であり重要な研究課題となっていました。最近私達はセロトニンシグナルが妊娠期のインスリン分泌能亢進をコントロールしていることを明らかにしました (Proc Natl Acad Sci U S A. 2013)。妊娠期の膵β細胞ではセロトニンの発現が著明に亢進し、インスリン顆粒内に貯蔵され、インスリンと共に分泌されます。その一部がβ細胞上のセロトニン受容体 HTR3 に作用することでβ細胞からのインスリン分泌が妊娠中で亢進していることを発見しました。これらの研究成果は近年患者数が急増している妊娠糖尿病に対しての新規治療法の開発、並びに創薬への展開につながります。また、妊娠期のインスリン分泌能亢進は、生理的な分泌亢進現象であり、研究成果は妊娠糖尿病の成因のみならず、インスリン分泌不全を呈する2型糖尿病の新規治療法の開拓に貢献すると考えられます。

業績

  1. Ohara-Imaizumi M, Aoyagi K, Yamauchi H, Yoshida M, Mori MX, Hida Y, Tran HN, Ohkura M, Abe M, Akimoto Y, Nakamichi Y, Nishiwaki C, Kawakami H, Hara K, Sakimura K, Nagamatsu S, Mori Y, Nakai J, Kakei M, Ohtsuka T.(2019) ELKS/Voltage-Dependent Ca2+ Channel-β Subunit Module Regulates Polarized Ca2+ Influx in Pancreatic β Cells. Cell Rep. 26(5):1213-1226
  2. Aoyagi K, Itakura M, Fukutomi T, Nishiwaki C, Nakamichi Y, Torii S, Makiyama T, Harada A, Ohara-Imaizumi M.(2018) VAMP7 Regulates Autophagosome Formation by Supporting Atg9a Functions in Pancreatic β-Cells From Male Mice. Endocrinology. 159(11):3674-3688
  3. Krishnankutty A, Kimura T, Saito T, Aoyagi K, Asada A, Takahashi SI, Ando K, Ohara-Imaizumi M, Ishiguro K, Hisanaga SI.(2017) In vivo regulation of glycogen synthase kinase 3β activity in neurons and brains. Sci Rep. 7(1):8602
  4. Kunii M, Ohara-Imaizumi M, Takahashi N, Kobayashi M, Kawakami R, Kondoh Y, Shimizu T, Simizu S, Lin B, Nunomura K, Aoyagi K, Ohno M, Ohmuraya M, Sato T, Yoshimura SI, Sato K, Harada R, Kim YJ, Osada H, Nemoto T, Kasai H, Kitamura T, Nagamatsu S, Harada A. (2016) Opposing roles for SNAP23 in secretion in exocrine and endocrine pancreatic cells. J Cell Biol, vol.215: 121-138,
  5. Aoyagi K, Ohara-Imaizumi M, Itakura M, Torii S, Akimoto Y, Nishiwaki C, Nakamichi Y, Kishimoto T, Kawakami H, Harada A, Takahashi M, Nagamatsu S. (2016) VAMP7 regulates autophagy to maintain mitochondrial homeostasis and to control insulin secretion in pancreatic β-cells. Diabetes. vol.65: 1648-1659

(2019年 6月)

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