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抗菌薬が効かない細菌感染症の蔓延と阻止(講演概要)

2016年5月14日開催:杏林大学公開講演会

保健学部 臨床検査技術学科教授
小林 治(専門:感染症学、病院管理学)




    ○講演概要
      抗菌薬が効かない細菌感染症、いわゆる薬剤耐性(anti microbial resistant, AMR)菌感染症はかつて入院患者や乳幼児、高齢者等の抵抗力が弱い人の問題と考えられていましたが、近年は欧米における市中感染型MRSA感染症の流行やAMR大腸菌O-104による集団食中毒、日本におけるAMR淋菌感染症等、健常人にまで拡大してきました。
     これを受けて、2015年WHO総会でAMR問題に対するglobal action planが提言され、2016年6月の伊勢志摩G7サミットでは日本からの感染予防、研究開発・創薬、国際協力の対策の方向性が示されました。
     1943年、人類は発見から15年の歳月を経て抗菌薬ペニシリンの開発に成功しました。ペニシリンにより感染症治療は大きく変化しましたが、開発の翌年には、ペニシリンAMR菌が報告されています。その後新たに開発された抗菌薬はいずれもAMR問題が付いて回りました。抗菌薬が自然界の抗菌物質を模倣して開発されます。ある抗菌物質に反応する細菌があれば反応しない細菌もあるのは当然で、環境に単一抗菌物質が一定期間影響しますと、その抗菌物質に反応しない細菌すなわちAMR菌が選択されます。薬の開発には相変わらず10年以上の年月がかかりますし、近年の薬剤認可においては70年前のペニシリン開発の頃とは比較にならない厳しい有効性と安全性の検証の要求に応えるためには莫大な費用がかかる反面、市販薬として成功するのはごくわずかです。一方で、高血圧症や糖尿病の薬は長期間服用しますが抗菌薬は特別な場合を除いては長くて数週間程度。抗菌薬開発は、製薬会社にとっては経営的に高リスクなので近年この開発は縮小傾向にあります。私達は、適応の必要性を吟味し、単一使用を避け、長期間の漫然使用をやめるなど、抗菌薬を大事に使わなくてはならないのです。こうしたAMR問題は医療現場のみならず、農業、牧畜、漁業等の分野や国境を超えた問題であり、これを「One health」として捉える事が大切です。既に日本はアジアの中心的な立場としてAMR問題に取り組むことが先のG7でも共通認識となっています。
     さて、私達は社会的には抗菌薬の使いすぎはよくない事は知っています。しかし、個人的な問題となるとどうでしょうか?例えば、身近な感染症である風邪はほとんどがウイルス感染症であり抗菌薬の効果は期待出来ません。しかし、風邪は万病のもと、肺炎になりたくないからと抗菌薬を求める気持ちは誰にでもあります。
     AMR問題は、何も大それた世界的なプロジェクトではなく、医療現場にある身近な問題なのです。皆様も風邪をひいて受診なさった際には、抗菌薬が必要か、いつまで必要か、主治医の先生とよく話し合ってみて下さい。



    2016年5月14日(土)『抗菌薬が効かない細菌感染症の蔓延と阻止』
    保健学部 臨床検査技術学科
    教授 小林 治


    杏林大学 広報・企画調査室




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