中竹 俊彦

 リンパ球を追う(シリーズ100リンパ球の世界(I)-1-2.核小体形成の意義

リンパ球の世界(I)

  ‐リンパ球の核心に触れる‐

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

1−2.核小体形成の意義

 リンパ球系が核小体を形成する意義は、インタ−ロイキン(IL)あるいは免疫グロブリン産生Bリンパ球、形質細胞)のためです。細胞は一般に、新規に多量の産物を合成する前準備として、核小体を発現し、リボ核酸(RNA)を合成します。このRNAはリボソーム粒子の半分を占める成分で、rRNAのことです。一方、mRNAtRNAとは核小体以外の核内部で遺伝子が活性化、合成され核の外(細胞質)へ分泌されることが明らかにされています。

 例えば、前赤芽球は核小体を形成して、その後始まるヘモグロビン合成のために前もってリボソームRNA(rRNA)を最大限に準備し、それが細胞質の強い塩基好性のもとになります。リボソーム粒子本体は構造の約50%を占めるrRNAと、非常に多種類のリボソーム関連タンパク(これも約50%相当)とが合体してダルマの形の様な立体的複合体を形成してできた粒子であることは、現在の細胞生物学では周知の事実です。

 また、骨髄芽球は酵素タンパクを含む顆粒(ライソソーム:一般的にいう、一次顆粒)産生のために、そして前駆形質細胞リンパ形質細胞様細胞:lymphoplasmacytoid cell)の核小体は、免疫グロブリン合成のために準備されたリボソームです。厳密には、IgM産生段階のリンパ形質細胞様細胞はまだリンパ球段階であってIgMを保持し、IgG産生能に分化してきた前駆形質細胞(IgG保持)と世代が違うことも私たちは認識しておきたいものですが、形態では識別できないのです。理論上は蛍光標識抗体(抗IgMまたは、抗IgG)を使って、フロ−サイトメトリーで分析するという考え方は可能でしょう。

 正常な形質細胞になると、免疫グロブリンを合成・分泌している状態ですが、もはや核小体が必要ではなく、核のクロマチンがすべて濃縮・塊状になって、粗大化しています(細胞としての生命維持と抗体合成・分泌機能などを残す程度)。抗体産生に抑制がかかれば、細胞内に抗体を貯留してgrape cellのような状況に至る健常人の形質細胞の一面を推定することも可能です。

 細胞はすべて、細胞分裂に必要な刺激を受け活性化されると、細胞分裂に引き続き特異的に分化し、固有の産物を合成します。この場合、各々の芽球段階の細胞の核小体は、最大数では通常5個まで発現・形成され、いくつか融合して大型化します。

 通常、核小体が5個まで形成されるのは、「核小体オーガナイザー」と呼ばれる「核小体形成前駆体nucleolar organizer regions:NOR」と呼ばれる「核小体構造をつくる遺伝子」があって、染色体の13番〜15番、および21番、22番の5種類の染色体上に乗っています。リンパ球が活性化されてできる核小体形成体は、正常な染色体数の細胞では最大数が5個だと考えられます。

 細胞分裂する細胞が、例えばCD34陽性造血幹細胞で「未分化な段階」のとき、細胞分裂だけに必要な細胞質成分を合成するには、何個の核小体を必要とするかは不明です。つまり、未分化なときには、分化に伴う産物は「受容体機能をもつ表面マーカー」の準備その他で、糖蛋白量としては分化完了時(前赤芽球など)よりも、おそらく少ないはずです。ですから、細胞質の塩基好性も弱く、色調は淡く、リンパ球と区別つかないはずです。そして、そのリボソームの量から推定しても、核小体が5個分もの多量のリボソームを必要とするかどうかは分かりません。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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