中竹俊彦 リンパ球の世界(V) 2007 -リンパ球系の核小体形成体・AgNORAgNOR染色した画像への解説 <前書き>

リンパ球を追う(シリーズ500

リンパ球の世界(V)

 リンパ球系の核小体形成体・AgNOR

     AgNOR染色した画像への解説

<前書き>

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 ここでは、核小体形成領域(nucleolar organizer region(s);NORs)を観察する目的で、銀染色を応用したAgNOR染色像について、AgNORの存在する様子をリンパ球の段階(核小体1個存在)から多発性骨髄腫(MM)の核所見に至るまで、順を追って見ていきます。そして、核小体出現からどのように核小体の融合(大型化)までを考えると合理的か、考察していきます。

 細胞は一般に、核小体形成に先立ちNORから遺伝子が活性化され、RNAポリメラーゼ I(Pol I)ができ、銀(Ag)染色性が明らかになります。

 細胞の構造と機能からみると、核内で好銀性を呈する部位はタンパク構造の中にスルフヒドリル(sulfhydryl:SH)と呼ばれる反応基(一般的には、cystine;シスチンおよび還元されたものはcysteine;システインなど)が増加してきたことを意味すると考えられます(この染色は、もう一つの「好銀繊維染色」とは本質的に異なります)。

 細胞内のSH基を含む遊離した化学的成分は、グルタミル-システイニルグリシン;glutamyl-cysteinylglycine、いわゆるグルタチオン)が代表的です。ところが、グルタチオンは核のNOR染色性に直接関与しているのかは疑問です。おそらく、「リボソーム粒子:RNAが約50%、リボソームタンパクが約50%)として多量に産生された高分子タンパク構造体が電子顕微鏡的にも高い電子密度をもち、その複合した結合様式の中に‐SS‐結合を多数含む構造的な特性をもつために、蟻酸で還元され‐SH基となった局所に銀イオンが結合して発色してくるものと推定されます。これらは生化学的には、タンパク構造内のいわばタンパク性SHと考えられます。

 タンパク性SHの増加は、著者らが今から36年前に、銀イオン(Ag+)で滴定した生化学的定量実験の結果では、タンパク性SH/遊離SHの増大は組織の生理的活性の高まり(例えば、細胞分裂の亢進)を意味していると結論文献1)しました。肝細胞の核内を観察することはしませんでしたが、それはまさしく、今日のAgNOR染色法の開発によって、それがリボソーム構成タンパクの増加を反映した所見であったことがうなづけます。

 NORの染色操作では蟻酸によってSS結合を還元して「-SH」基の形にし、そこへ銀イオン(Ag+)を反応させると結合して、SH基の数に応じて結合した銀化合物の量に応じた濃い褐色に着色された染色像が出現します。AgNOR染色に後染色としてギムザ液を重ねると、核だけではなく細胞質の様子も観察できます。RNAポリメラーゼ II(Pol II)およびRNAポリメラーゼ III(Pol III)については、別項で記述します。

 文献

 1)青木 香、中竹俊彦、勝目卓郎:四塩化炭素障害白鼠肝のSHについて.杏林医学会雑誌1巻2号、54−58、1970.

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

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