重要なポイント(シリーズ630-2-1〜7

 

 解説・特殊染色の方法とその読み方」

                 杏林大学保健学部 臨床血液学(教授) 中竹 俊彦

 この解説の次に,パワーポイントで特殊染色は(シリーズ630)に提示しています。

シリーズ630-2-1〜7

実技編

「特殊染色方法とその読み方」

 

I.網赤血球数算定

網赤血球染色用ガラス毛細管法(テルモ,キャピロットR

 色素:ニューメチレン青(Brecher法)

 抗凝固剤:EDTA-2Kの混合溶液を塗布,乾燥した全長75mm,内径/外径=1.15/1.55mmのガラス毛細管

 

I-1.方法

1)血液を毛細管の色素をコーティングしてない部分に毛管現象で入れる.

2)毛細管を軽く上下に振盪し,血液を色素のコートしてある部分に移動させる.

約10回,転倒混和し,色素と血液をよく混ぜる.

3)染色のため15〜20分間静置する.

4)再び2〜3回混和したのち塗抹標本を作製する.

5)1,000倍油浸で鏡検する.網状顆粒質は緑青色に染まる.

6)教科書に従って「視野縮小器」を作って接眼レンズにはめるか,または,ミラーの接眼方形測微計(ミラー オキュラー ディスク:Miller ocular disk:)を設置した顕微鏡下で計数する.

7)赤血球1,000個当たりの網赤血球(reticulocyte:Ret.)を算定し,百分率(%)で表示する.

8)全血の赤血球数(RBC×106/μl)×Ret比率から網赤血球の絶対数を比例計算で求める.

 試薬を自家調整するときは,ニューメチレン青(CI-52030)0.5g,シュウ酸カリウム 1.6gを水に溶かし100 mlにし,上の方法と同様に毛細管に1/3量入れ,これとほぼ同僚の血液を入れ足す.すぐに載せガラスに吹き出して2〜3回混ぜ,ガラス毛細管に戻して10分間放置.後は上記の4)以下に準じて操作する.

 

基準値:4〜5万/μl

 巨赤芽球性貧血の新生赤血球は,骨髄で4回の細胞分裂に要する赤芽球段階の日数が長く,網赤血球に相当する成熟段階も正染性赤芽球として経過するので,脱核後は正染性赤血球である.従って新生赤血球数を網赤血球数で解釈しようとすると,過少評価されることになる.

 逆に,網赤血球が増加するような病態(鉄欠乏性貧血,出血後,溶血性,及び網赤血球分利のとき)では赤芽球の脱核までがスキップされた分だけ1〜2日早まり,若い網赤血球として出現し血中滞在が長くなるので,過大評価になる.

 

I-2.網赤血球の読み方(図:本文中の写真:マルクマスターR:細胞像と病態用語Step13:reticulocyte参照)

 網赤血球のうち,色調の濃淡はニューメチレン青やブリリアントクレシル青(BCB)の濃度と染色時間が影響する.細胞質の青色が濃い網赤血球(画像1),淡染した網赤血球(画像2),濃染した多染性赤血球(画像3),大型血小板(画像4)などがあり,顕微鏡では鑑別が可能である.しかし,塩基性の蛍光色素でこれらを染めて自動血球計数装置で機械的に検出するには,機器の識別能が必然的に問題になる.機械的な自動計数に依存すると自動血球係数装置は技師の目で観察してカウントしているのではないので,おかしなデータに気づいたときは,顕微鏡で再確認することが必要になる.網赤血球というのは「超生体染色後,顕微鏡でみて赤血球内に網状構造をもつ」という定義であり,自動血球計数装置のデータの読み方の問題点として重要.

 

<練習問題>

1.網赤血球として染色される赤血球内成分は何ですか.

2.網赤血球の増加は何を意味していますか.

3.悪性貧血では網赤血球は( 増加,減少 )し,骨髄の赤芽球は( 低,正,過 )形成になる.

4.溶血性貧血では網赤血球は持続的に( 高値,低値 )を示し,骨髄の赤芽球は( 低,正,過 )形成になる.

5.鉄欠乏性貧血では網赤血球数は(増加,減少)し,骨髄の赤芽球は(低,正,過)形成になる.

6.網赤血球とは,特定の塩基性色素(ニューメチレン青,ブリリアントクレシル青)を用いた(1)  )染色により網状物が染め出される赤血球のことで,(2)    )や(3)    )が色素と結合して凝集したものである.塗抹標本の普通染色ではこの網状構造は認められないが,多染性赤血球(全体に青灰色に染まる)がこれに相当する.網赤血球の基準値(4)    %赤血球1000個に対しての数では‰).絶対数では平均(5)    )/μlくらいである.

7.成熟赤血球の寿命は(1)    )日であり老化した赤血球は処理臓器である(2)    )に捕捉され,破壊される.一方,新しい赤血球が骨髄から網赤血球として供給される.流血中の網赤血球は(3)    )日で成熟赤血球になる.従って,血液中の網赤血球数の変動は骨髄の(4)    )機能を反映する.即ち,網赤血球数の増加は造血機能の(5)    )を示す.また,網赤血球は急性大出血後,鉄欠乏性貧血や悪性貧血の治療開始後などに,一過性に増加する.これを(6)       )(reticulocyte crisis)という.持続的な高値がみられたときは(7)    )性貧血が考えられる.摘脾後では増加する.

 

 

写真 超生体染色した網赤血球の諸相 

 塩基好性が強い網赤血球(上段・左)と淡い網赤血球(上段・右)の違い.網赤血球以外の塩基好性赤血球(下段・左)と大型血小板および白血球(下段・右)

 (上の写真をクリックすると画像提示の頁へ移動します。ご参照ください)

 

図1 成熟過程で塩基好性から多染性を経て正染性に変化する理由(上段)と,図2 色鉛筆による色調の確認(下段).網赤血球として算定されるのは,顕微鏡でそれらが確認できたものなら正しいが,機械的なカウントの場合は正確ではないという注意点を忘れてはならない.

 また,上の2つの図式で赤芽球系の塩基好性や末梢血の多染性赤血球の色調は,普通染色した標本で「細胞質の塩基好性」は色鉛筆でいうと三菱のuni(ユニ)シリーズが描写の色調には最適.例えば,上記の赤芽球の成熟に伴う細胞質の色調変化は,「塩基好性」は三菱色エンピツ(あお:880-33)〜uni:バイオレットブルー violet blue(uni-535),「多染性」はブルーグレイ blue gray(uni-567),「正染性」はコーラルレッドcoral red(uni-515)という選定になる.ついでながら,核が染色性された色調は,モーヴ mauve(uni-524)が適切.

<練習問題解答>

1.rRNA,ミトコンドリア,紡錘糸

2.赤血球産生能(新生赤血球:但し過少評価や過大評価に注意)

3.悪性貧血:網赤血球(減少),骨髄の赤芽球は()形成.

4.溶血性貧血:網赤血球は持続的に(高値)を示し,骨髄の赤芽球は()形成.

5.鉄欠乏性貧血:網赤血球数は(減少,但し高度になると増加)し,骨髄の赤芽球は()形成である.

6.(1)超生体染色(2)ニューメチレン青(3)ブリリアントクレシル青.(4)0.8〜1.2 %,(5)4〜5万

7.(1)120,(2)脾臓.(3)1〜2(日).(4)赤血球産生.(5)亢進.(6)網赤血球分利.(7)溶血

 

II.鉄染色法

 II−1.方法

(1)固定にはホルマリン蒸気(湿潤室固定方),または10%ホルマリン-エタノール液を用いる.時にはメタノール単純固定標本でも染色性は劣るが可能.

(2)2%塩酸(精製水34mlに36%の濃塩酸2mlをゴム帽付の駒込ピペットで少しずつ滴下・混和しながら加えて18倍希釈).

(3)2%フェロシアン化カリウム水溶液は,フェロシアン化カリウムを精製水で2 g/dl水溶液にする.

(4)0.1%〜0.2%サフラニンO水溶液.薄いほうの0.1%溶液は後述の理由で有利である.

  鉄の組織化学的な染色原理:

 組織内の非ヘム鉄(3価の鉄)は塩酸(HCL)酸性のもとで解離するが,同時にフェロシアンイオンを加えてあれば解離と同時に不溶性の色素を形成し,鉄に特有の反応で「ベルリン青」を形成して染色される.反応式は次のように,4Fe3++3K[Fe(CN)6]→Fe[Fe(CN)]+(12KCl)

となり,フェリチンは均一で瀰漫性,またヘモシデリンは顆粒状で,いずれも濃青色に染まる.

 固定,染色操作,読み方など具体的な方法の要点は,文献に挙げた資料(中竹俊彦:骨髄鉄染色法と臨床的意義.検査と技術31巻8号687〜692,2003をご参照ください)

 

II−2.鉄染色の読み方の1例

 鉄染色の一例を示す.この画像は悪性貧血症例へのVB12注射3日後の鉄染色であるが,本症では骨髄の鉄貯蔵量はマクロファージ(組織球)中にも本来,多くはない.なぜなら,悪性貧血の病態は内因子抗体と同時に壁細胞抗体があるので胃粘膜には著明な萎縮性胃炎があるのが普通である.したがって,骨髄は巨赤芽球性に陥って無効造血のために,一見すると血清鉄の高値と総鉄結合能が低下した鉄過剰のパターンにみえる.

 ところが,鉄の吸収は無酸症のために全身的には鉄欠乏状態で,マクロファージの貯蔵鉄は見かけ上は鉄が多いが,利用率低下の状態にあることの反映.

 これに対してビタミンB12が注射されると,その日から3日以内にほとんどの巨赤芽球はDNA合成が回復し,細胞分裂も旺盛になる.巨赤芽球は分裂すると次に大赤芽球となり,さらに正赤芽球へと変化して細胞分裂する結果,著しい正赤芽球の過形成に至る.この時期から一過性に鉄利用が増大する結果,全身的な鉄欠乏が表面化する.

 末梢血は正赤芽球への回復を反映して「網赤血球分利」という状態になる.その状態では鉄の利用が最大限に回転し始めるので,結果的に骨髄内の鉄過剰とみられた見かけ上の鉄は消費され,やがて鉄欠乏状態が表面化してきて,ヘモグロビンの回復速度が鈍ってくる.すなわち,網赤血球分利は長続きしない.

 悪性貧血には鉄剤も同時に供給されないと,上記の様に貯蔵鉄はすぐに底をついて,ヘモグロビンの回復が鈍くなってしまう.

 

読み方の要点

1)小球性低色素性貧血が「鉄芽球性貧血を基盤」とするときは,環状鉄芽球(ringed sideroblast)を指摘すること.マクロファージにはヘモシデリンが過剰.

2)溶血性貧血など鉄過剰状態は,マクロファージの著しい貯蔵鉄(ヘモシデリン)の存在と同時に,フェリチンの均一な濃染状態を認める(パワーポイントのスライドで提示).溶血性貧血では一目瞭然である(上記の資料を参照)

3)骨髄異形成症候群(MDS)では一般に鉄過剰であり,環状鉄芽球がある場合(RARS)とそうではない場合とがある.

III.ペルオキシダーゼ(PO)染色

III−1.方法

 急性白血病で異常な芽球様白血球(臨床診断が付くまでの便法的呼称)が現われたとき,その芽球様細胞(同左)がどの系統に属するかの病型分類にきわめて重要である.急性骨髄性白血病では,骨髄の正常芽球及び芽球様細胞の3%以上のものが陽性である.リンパ性白血病では芽球の3%を越える陽性率はあり得ない.染色液は自家製でもよいが,肝心な染色液の過酸化水素濃度が一定でないと染色態度が一定しないばかりか,分解して最悪の場合は染色されないので,染色液の維持・管理の面でキットを用いたほうが安定性は良好と思われる.臨床診断が付けば白血病細胞の略称は「the Blast:芽球」と呼ばれ,表記も固有名詞として扱われる.

 α-ナフトール・ブリリアントクレシル青法(NB-POキット:武藤化学) 

試薬

固定     ホルマリン1容,エタノール9容の混合液

反応液?:αナフトール500mgを40%エタノール100mlに溶かし局方の3%過酸化水素液1mlを加える.

反応液?:ブリリアントクレシル青500mgを40%エタノール96mlに溶かし,アニリン4mlを加える.

後染色    0.5%サフラニンO水溶液,またはRomanowsky(ギムザ染色など)染色.

染色方法

1)塗抹標本を作成,乾燥.

2)固定液を標本に載せて1分間固定,流水で軽く水洗し,水を切る.

3)乾燥しないうちに反応液?を満載して30秒間染色し,流水で水洗後よく水を切る.

4)直ちに反応液?を満載して5分間染色し,流水で水洗後乾燥.

5)後染色

6)水洗,乾燥

 

III−2.PO所見の読み方 

判定

 陽性顆粒は鮮明な青色に染まる.染色感度はよいが,後染色にギムザを用いると弱陽性の細胞では青色が重複して判別が困難になる.DAB法においても,ギムザ染色を重ねると核の様子はよく分かり細胞種類の鑑別に好都合であるが,PO弱陽性の細胞ではやはり判別が難しい.

 正常な血球のうち,PO反応陽性を示す細胞は顆粒球系の各成熟段階(好中球,好酸球,好塩基球に至るまで)と単球で,その他のリンパ球系や赤芽球系などは全く陰性である.

 単球の染まりは好中球よりもかなり弱い.骨髄の芽球段階の細胞,即ち骨髄芽球と単芽球は,きわめて未熟なものは陰性で,成熟してライソゾーム酵素としてのPOが一定量のレベルまで産生されて前骨髄球または前単球に近づくと陽性を示すようになる.

 

III-3.芽球の段階」にある細胞の成熟とPO産生の関係

骨髄系へ分化してきた「芽球の段階」の細胞は未だ系統固有の特徴を示していないので,電顕的POの局在する所見が重視される.

1)電顕的には骨髄芽球の核膜は外方へ突出して,リボゾームの配列された粗面小胞体として分離される.これはPOを産生しつつ成熟し,ライソザイムを含んだ小胞をゴルジ装置へと送るようになる.ゴルジ装置では送られてくる小胞がまとまり,濃縮されて,袋詰めになったライソゾーム顆粒として完成される.細胞質内に顆粒として出ていくと,一次顆粒と呼ばれる.

2)上記の経緯は鋭敏な電顕的PO反応すなわち,「芽球の段階」にある細胞の検索です.特に微弱な血小板PO:PPOの証明が目的とされる)では,骨髄芽球(顆粒球系の入り口までに来た)と判定されるPO産生細胞は,「核膜腔,粗面小胞体,ライソゾーム小胞体(次の送り先であるゴルジへ届く間),ゴルジ装置,一次顆粒も全て陽性」である.

3)光学顕微鏡レベルでは,色源体(クロモゲン)とPO反応の強さで決まる陽性像が一次顆粒にだけ見られるものが多い.感度の良好なものでもゴルジ装置の成熟側が瀰漫性に淡く染まる程度と理解してよい.

4)従って,骨髄芽球が陰性から陽性まである,との教科書にあるような表現は,「芽球の段階の細胞」がどこまで来ているかその「分化・成熟度」と染色方法の「感度で決まる」ものである.一次顆粒(ここではアズール顆粒,好酸,好塩基顆粒の3種)は,PO反応が陽性である.好中顆粒(二次顆粒)には,POは存在しない.成熟好中球がPO反応陽性なのは,好中顆粒が反応したのではなく,一次顆粒が成熟してみえなくなっているのにPO反応では陽性であることによる.

<電顕的POに関する付録>

a)骨髄芽球の場合,前述2)のように「核膜腔,粗面小胞体,ライソゾーム小胞体,ゴルジ装置,一次顆粒は全て陽性」を示す.しかし,白血病細胞として出現した「AML M0 の白血病細胞(いわゆる,芽球:Blastと記述される)」の場合,POを産生した証拠が「顆粒にのみ陽性」で,後続のPO産生機能は分化の停止ですでに無くなっていて,他の細胞内小器官は陰性である.このように,分化の過程で一過性にPO産生があって,途中で産生機能が不活化された経過が見えないのは詳細が不明である.

b)巨核芽球の場合a)の顆粒球系のPOとは異質の分化で,核膜腔,粗面小胞体,ゴルジ装置の最外層1層のみ粗面小胞体との連続性から陽性を示す.とくに「ゴルジ装置本体および一次顆粒,アルファ顆粒は陰性である」ことがキーポイントとされる.巨核芽球がPPOを産生する理由は「顆粒に詰めて分泌するのではない」ので,ゴルジ装置を通らないと考えられる.細胞膜にリン脂質・アラキドン酸代謝の機能を準備しながら成熟していく「リン脂質代謝の準備過程」でPPOが必要と考えられる.

 

練習問題

77.ペルオキシダーゼ反応の臨床的意義を述べなさい.

78.骨髄の顆粒球系で最も幼若な形態を示す細胞は何と呼びますか(1)     ).また,この細胞は健常人骨髄中の有核細胞中に何%くらい存在しますか(2)    ).

79.前段に記述した「芽球の成熟とPO産生の関係」の説明1)〜4)を図式化し,イメージできるようにしなさい.

 

IV.アルカリホスファターゼ(NAP)染色

IV−1.染色の方法

 アルカリホスファターゼalkaline phosphataseは,主として成熟好中球の細胞質に含まれ,好中球アルカリホスファターゼneutrophil alkaline phosphatase(NAP)と呼ばれ,その活性は各種の病気によって増減する.

 我が国では専ら,朝長法が用いられている.基質として,ナフトールAS-MXホスフェート,ジアゾニウム塩としてファーストブルーRR塩を用い,後者はナフトールと化合して青色のアゾ色素となって発色するのでアゾ色素法と呼ばれる.

アルホス染色キット ムトー(武藤化学製品)の使用法

1)標本作製後,30分以内に,固定準備液10mlにメチルアルコール90mlを加えた固定液で−3℃〜−5℃,5秒間固定(前以て固定液をフリーザ中で冷却).

2)流水で15〜30秒水洗,乾燥.

3)基質原液10mlをバイアル瓶に入れFast Blue RR Saltをよく振り超音波浴に入れて溶解.

4)直ちに3)の液で塗抹面を覆い,湿潤状態,フラン器内で37℃2時間染色.

5)十分に水洗して1%サフラニン0で後染色2分,水洗,乾燥.

(注)

1)乾燥不十分の場合は塗抹がはがれやすい.

2)基質原液とFast Blue RR Saltの混合液は時間経過と共に低下する.

3)固定準備液は室温保存する.また沈殿が生じていたら温めて溶解してからメチルアルコールを加える.

4)キシロール等では陽性顆粒が脱色する.

IV−2.NAP染色の陽性度(0型〜V型まで)の読み方

成熟好中球の陽性度を5型に分類する.少なくとも100個の成熟好中球を観察し,NAPの陽性度を次のように表現する.

1)陽性率(rate):陽性好中球(?〜V型)の百分率(%)

2)陽性指数(スコア score):100個の好中球について,各型好中球数とその点数の積の総和.陽性指数=(0×0型の個数)+(1×I型の個数)+(2×II型の個数)+(3×III型の個数)+(4×IV型の個数)+(5×V型の個数)

 

基準値

陽性率

 男子 85.2%(60.6〜99.5)

 女子 88.6%(67.5〜99.5)

陽性指数  (スコア)

 男子 210(150〜330) 

 女子 250(150〜330)

(注)陽性の判定には主観・手技が影響するので,基準値の範囲は検査室ごとに決めておく必要がある.

 

 

V.エステラーゼ(Es)染色

V−1.Es染色の方法

 ヒト白血球のリソソームにはエステラーゼが含まれ,ナフトール(または,その誘導体)のカルボン酸エステルに作用すると加水分解してナフトール類を遊離する.これにジアゾニウム塩を加えるとカップリングを起こして不溶性のアゾ色素になり,加水分解反応の部位に沈着する.

 

a.特異的エステラーゼ(クロロアセテート エステラーゼ)

 顆粒球系に限って陽性で,比較的長鎖の高級脂肪酸エステルを分解するリパーゼ・コリンエステラーゼ・アセチルコリンエステラーゼがある.Moloney法はナフトールクロロ酢酸エステル(Naphthol AS-D chloroacetate:Sigma)を基質にする.

1)固定液:緩衝ホルマリン・アセトン混合液,pH約6.6(Na2HPO4 20mg,KH2PO4 100mgを蒸留水30mlに溶かし,アセトン45mlと37%ホルマリン液25mlを加え,よく混和.冷蔵庫に2か月保存できる.

2)基質液:Naphthol AS-D chloroacetate(Sigma)の1mgをN-N’-dimethylformamideの0.5mlに溶かし,冷蔵庫に保存.

3)呈色液:1/15Mリン酸緩衝液(pH 7.4)10mlにfast blue RR salt 5mgを溶解する.これに上記の基質液を混合して濾過後,直ちに使用する.

 

b.非特異的エステラーゼ(ブチレート エステラーゼ)

 単球・血小板系・リンパ球・形質細胞などに広く分布している.比較的短鎖の低級脂肪酸エステルを加水分解する.α-ナフチール・ブチレート(α-naphthyl butyrate)か,α-ナフチール・アセテート(α-naphthyl acetate)を基質にするが、前者がよく用いられる.しかし,前者は陰性で後者では陽性の例もある.

非特異的エステラーゼ用反応液の作成

I.Fast Garnet GBC 10mgを1/15Mリン酸Buffer(pH6.3)9.5mlで溶かす.

II.α-NB 10mgにEGME(エチレングリコールモノメチルエーテル)0.5mlを加えよく混和する.

II 液に I 液を加えて転倒混和したものを反応液とする.

 染色液の処方は幾通りもあるので,わが国ではキット(武藤化学)などを用いるほうが簡便である.

武藤化学のキットによる非特異的エステラーゼの染色手順を以下に示す(キットでは使用説明書に従うのがよい).

1)固定:冷却固定液(4℃前後)を標本に満載(固定液は事前に必ず冷蔵庫に保存)して30秒間,固定.

2)水洗:流水で30秒水洗.

3)反応:標本に反応液を満載(湿潤で37℃30分)して反応させる.

4)水洗:流水で30秒,水洗.

5)後染色:カラッチ・ヘマトキシリンで10分染色.

6)水洗:流水で十分に(5分間)水洗.

7)乾燥・鏡検

 

V−2.Es染色の読み方

V−2a.特異的エステラーゼ(クロロアセテート エステラーゼ)

 青色の顆粒状に染まる.前骨髄球から分節核球まで各成熟段階の好中球系細胞が陽性を示す.

 

V−2b.非特異的エステラーゼ(ブチレート エステラーゼ)

 赤褐色の顆粒状に染まる.単球系細胞とマクロファージで瀰慢性に陽性となる.リンパ球の一部は1〜数個の粗大顆粒状に染まる.

 

 本法で非特異的エステラーゼが強く出るのは単球に限られ,巨核球とリンパ球の一部が弱陽性になるくらいで,好中球系は陰性である.クロロアセテートエステラーゼは好中球で強く染まり,単球系は前単球で陽性であってもドット数は少なく染色性も弱い.もし区別しにくいときは,反応液にフッ化ナトリウムを加えると,好中球やリンパ球では反応が阻害されないのに,単球系ではほとんど,あるいは全く染まらなくなるので鑑別される.(フッ化ナトリウム抑制試験)

VI.PAS染色 

 PAS:過ヨウ素酸シッフ反応(Periodic Acid Schiff reaction)

 急性リンパ性白血病の一部と赤芽球系の異常細胞(FAB M6およびMDSと巨赤芽球性貧血との鑑別など),また骨髄腫でM蛋白の蓄積された細胞のときには有用性がある.血球中の多糖類(おもにグリコーゲン)の証明に用いられる.

 

VI−1.PAS染色の方法

1)固定液(10%ホルマリン メタノール)5分

2)流水水洗5分

3)乾燥

4)1%過ヨウ素酸5分

5)蒸留水5分×2

6)乾燥

7)シッフ試薬15分

8)亜硫酸水(亜硫酸水5:1N HCl 5:蒸留水)で5分×3

9)流水水洗5分

10)乾燥

11)ヘマトキシリン(マイヤーの処方)10分

12)流水水洗5分

13)乾燥

 

VII−2.PAS染色の読み方

1)リンパ球系細胞:PAS反応陽性物質は原形質内に顆粒状(桃色〜紅色)に染まる.

2)顆粒球系細胞:好中球は各成熟段階とも瀰漫性に強く染まる.骨髄芽球は陰性か弱陽性である.好酸球の顆粒は陰性.

3)血小板系:巨核球,血小板ともに瀰漫性または顆粒状に陽性.

4)赤芽球:ほとんど陰性

 単球系細胞,顆粒球系細胞とリンパ球系細胞との間ではPAS反応陽性物質の現われ方に著しい差異が見られるので,リンパ性白血病と骨髄性白血病,単球性白血病を鑑別する1つの方法となる.赤白血病の赤芽球では陽性になる.

 

VII.核小体・NOR(核小体形成体)染色

VII−1.NOR染色の方法

 NOR染色液の調製

1液 2%ゼラチン1%蟻酸水溶液:蒸留水100mlにゼラチン2gを加温溶解し、蟻酸1mlを混和する.室温保存で数か月安定.

2液 50%硝酸銀水溶液:硝酸銀50gに蒸留水を加え全量を100mlにする.冷暗所で数か月安定.

染色液:使用直前に1液と2液を1:2の割合で混和する(混合直後は無色透明である).直ちに使用する.再使用や保存は利かない.

 標本の固定:メタノール,ホルマリン,または緩衝ホルマリンアルコールなど.

 染色:ゴム手袋を着用し,暗所でスライド面へ染色液を直接載せ、20〜30分染色する(温度は染色性に影響する).染色液が飛散すると感光して汚染するので新聞紙などを敷いた上で行なう.染色後,蒸留水で1分間ずつ3回洗浄.洗浄した水と廃液は廃液入れを準備して入れ,流しへ捨ててはいけない.へマトキシリンで核を染色後、脱水,キシロール透徹、封入してもよい.

VII−2.読み方

 末梢血では殊にPHA添加培養の前・後の例ではリンパ球の所見が多様である.すなわちNORの1個の存在から核小体に至るまで多様に認められる.一方,骨髄標本では成熟型の形質細胞や多染性赤芽球においても核内に1μm前後の大きさで黒褐色・点状に染色される(NOR).また,塩基好性赤芽球では核小体といえる大きさで認められ,前赤芽球では明らかに核小体とNORとが存在する.

 顆粒球系では骨髄球以前なら骨髄芽球まで多様に認められる.また,核小体(2〜3μm大の円形.褐色でやや明るい)の内部にも点状に濃く認められることがある.

 NORは本来,核小体となって融合し大型化するので,NORとしての大きさは一定しない.核内を全体的にみて,点状の染色部位を数えて合計すると正常な細胞でも数個から10個になる.

 腫瘍性を意味する病的な細胞では核小体の数が5個以上になることと同様に,NORの数も10個以上になる場合が多いと考えられるが,決定的な基準はないので,各自が判読基準を設けてスコアー化するなど工夫しなければならない.

 

練習問題

83.急性白血病のように,幼若かつ異常な形態の白血球が多数出現している場合,その病的細胞が骨髄系のものか,リンパ系のものかを鑑別する目的で行なう特殊染色は何ですか.(          )

84.骨髄で白血病細胞が増加するに伴い,正常な造血系の減少がみられる.その結果生じる臨床的所見を整理しなさい.

(1)(    )系の減少→(      )

(2)(    )系の減少→(      )

(3)(    )系の減少→(      )

85.急性骨髄性白血病で診断的価値が高く,骨髄芽球または前骨髄球の細胞質中にみられることが多い紫赤色の針状構造物は何ですか(1)      ).また,前骨髄球性白血病でこれが多数認められる細胞は(2)      )と呼ばれる.

 

急性白血病のFAB分類

 FAB分類は普通染色とペルオキシダーゼ(PO)反応,ズダンブラックB染色,非特異的エステラーゼ染色等を行ない,急性白血病を形態学的に分類する方法である.骨髄中の正常な骨髄芽球を含む芽球段階とみられる細胞のPO反応陽性率が3%未満のときはリンパ芽球性(L),3%以上であれば骨髄性(M)に分類される.表面マーカー解析などを加味して,主体を占める白血病細胞の種類によりL 1〜L 3,M 0〜M 7に細分される.

 

練習問題

86.FAB分類のL1〜L 3の特徴を整理してみましょう.

L 1:

L 2:

L 3:

 

87.L 1とL 2のためのスコアリング・システムとは,どういう方法ですか?

 

 

88.M 0〜M 7の白血病細胞(芽球)の特徴とは,どのように整理できますか?

1)M 0

2)M 1

3)M 2

4)M 3

5)M 4

6)M 5

7)M 6

8)M 7

 

 

 文献

(参考資料)

1.中竹俊彦:骨髄像の解析と表現法(1)

2.中竹俊彦:骨髄像の解析と表現法(2)‐リンパ球を追う‐

3.中竹俊彦:マルクマスター,ブラストマスター(ともに,CD-ROM教材)

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

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