重要なポイント(シリーズ630-2-1.sp.st.tech1〜7

 

実技編

 詳細解説・特殊染色の方法とその読み方」

                 杏林大学保健学部 臨床血液学(教授) 中竹 俊彦

 この解説の次に,パワーポイントで特殊染色は(シリーズ630)に提示しています。

シリーズ630-2-3.POD

III.ペルオキシダーゼ(PO)染色

III-1.方法

 急性白血病で異常な芽球様白血球(臨床診断が付くまでの便法的呼称)が現われたとき,その芽球様細胞(同左)がどの系統に属するかの病型分類にきわめて重要です.急性骨髄性白血病では,骨髄の正常芽球及び芽球様細胞の3%以上のものが陽性です.リンパ性白血病では芽球の3%を越える陽性率はあり得ません.染色液は自家製でもよいのですが,肝心な染色液の過酸化水素濃度が一定でないと染色態度が一定しないばかりか,分解して最悪の場合は染色されないので,染色液の維持・管理の面でキットを用いたほうが安定性は良好と思われます.臨床診断が付けば白血病細胞の略称は「the Blast:芽球」と呼ばれ,表記も固有名詞として扱われます.

 

α-ナフトール・ブリリアントクレシル青法(NB-POキット:武藤化学)

 

試薬

 固 定     ホルマリン1容,エタノール9容の混合液

 反応液 I:αナフトール500mgを40%エタノール100mlに溶かし局方の3%過酸化水素液1mlを加える.

 反応液 II:ブリリアントクレシル青500mgを40%エタノール96mlに溶かし,アニリン4mlを加える.

 後染色    0.5%サフラニンO水溶液,またはRomanowsky(ギムザ染色など)染色.

染色方法

 1)塗抹標本を作成,乾燥.

 2)固定液を標本に載せて1分間固定,流水で軽く水洗し,水を切る.

 3)乾燥しないうちに反応液?を満載して30秒間染色し,流水で水洗後よく水を切る.

 4)直ちに反応液?を満載して5分間染色し,流水で水洗後乾燥.

 5)後染色

 6)水洗,乾燥

 

III-2.PO所見の読み方

 判定

 陽性顆粒は鮮明な青色に染まります.染色感度はよいのですが,後染色にギムザを用いると弱陽性の細胞では青色が重複して判別が困難になります.

 DAB法においても,ギムザ染色を重ねると核の様子はよく分かり細胞種類の鑑別に好都合ですが,PO弱陽性の細胞ではやはり判別が難しいと思われます.

 正常な血球のうちPO反応陽性を示す細胞は顆粒球系の各成熟段階(好中球,好酸球,好塩基球に至るまで)、および単球です.その他のリンパ球系や赤芽球系などは全く陰性です.

 単球の染まりは好中球よりもかなり弱いものです.

 骨髄の芽球段階の細胞,即ち骨髄芽球と単芽球は,きわめて未熟なものは陰性で,成熟してライソゾーム酵素としてのPOが一定量のレベルまで産生された前骨髄球,または前単球に近づくと陽性を示すようになります.

 

III-3.芽球の段階」にある細胞の成熟とPO産生の関係

骨髄系へ分化してきた「芽球の段階」の細胞は未だ系統固有の特徴を示していないので,電顕的POの局在する所見が重視されます.

1)電顕的には骨髄芽球の核膜は外方へ突出して,リボゾームの配列された粗面小胞体として分離されます.これはPOを産生しつつ成熟し,ライソザイムを含んだ小胞をゴルジ装置へと送るようになります.ゴルジ装置では送られてくる小胞がまとまり,濃縮されて,袋詰めになったライソゾーム顆粒として完成されます.細胞質内に顆粒として出ていくと,一次顆粒と呼ばれます.

2)上記の経緯は鋭敏な電顕的PO反応すなわち,「芽球の段階」にある細胞の検索です.特に微弱な血小板PO:PPOの証明が目的とされる)では,骨髄芽球(顆粒球系の入り口までに来た)と判定されるPO産生細胞は,「核膜腔,粗面小胞体,ライソゾーム小胞体(次の送り先であるゴルジへ届く間),ゴルジ装置,一次顆粒も全て陽性」です.

3)光学顕微鏡レベルでは,色源体(クロモゲン)とPO反応の強さで決まる陽性像が一次顆粒にだけ見られるものが多いのです.感度の良好なものでもゴルジ装置の成熟側が瀰漫性に淡く染まる程度と理解してよいでしょう.

4)従って,骨髄芽球が陰性から陽性まである,との教科書にあるような表現は,「芽球の段階の細胞」がどこまで来ているかその「分化・成熟度」と染色方法の「感度で決まる」ものです.一次顆粒(ここではアズール顆粒,好酸,好塩基顆粒の3種)は,PO反応が陽性です.好中顆粒(二次顆粒)には,POは存在しないのです.成熟好中球がPO反応陽性なのは,好中顆粒が反応したのではなく,一次顆粒が成熟してみえなくなっているのにPO反応では陽性であることによります.

<電顕的POに関する付録>

a)骨髄芽球の場合,前述2)のように「核膜腔,粗面小胞体,ライソゾーム小胞体,ゴルジ装置,一次顆粒は全て陽性」を示します.しかし,白血病細胞として出現した「AML M0 の白血病細胞(いわゆる,芽球:Blastと記述される)」の場合,POを産生した証拠が「顆粒にのみ陽性」で,後続のPO産生機能は分化の停止ですでに無くなっていて,他の細胞内小器官は陰性です.このように,分化の過程で一過性にPO産生があって,途中で産生機能が不活化された経過が見えないのは詳細が不明です.

b)巨核芽球の場合a)の顆粒球系のPOとは異質の分化で,核膜腔,粗面小胞体,ゴルジ装置の最外層1層のみ粗面小胞体との連続性から陽性を示します.とくに「ゴルジ装置本体および一次顆粒,アルファ顆粒は陰性である」ことがキーポイントとされます.巨核芽球がPPOを産生する理由は「顆粒に詰めて分泌するのではない」ので,ゴルジ装置を通らないと考えられます.細胞膜にリン脂質・アラキドン酸代謝の機能を準備しながら成熟していく「リン脂質代謝の準備過程」でPPOが必要と考えられます.

練習問題>

問77.ペルオキシダーゼ反応の臨床的意義を簡略に説明してください.

問78.骨髄の顆粒球系で最も幼若な形態を示す細胞は何と呼びますか(1)     ).また,この細胞は健常人骨髄中の有核細胞中に何%くらい存在しますか(2)    ).

問79.前段に記述した「芽球の成熟とPO産生の関係」の説明のうち,1)〜4)のできごとを図式化し,イメージできるように説明してください.

 

(参考資料)

1.中竹俊彦:骨髄像の解析と表現法(1)

2.中竹俊彦:骨髄像の解析と表現法(2)‐リンパ球を追う‐

3.中竹俊彦:マルクマスター,ブラストマスター(ともに,CD-ROM教材)

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<教材の御案内>

 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

入手方法の問い合わせ( nakatake@kdt.biglobe.ne.jp )半角アットマークで可能です。