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HL-60細胞で見る細胞の分化 page1/4

1 白血病由来の株細胞
2 芽球から前骨髄球への分化
3 実験的な分化の誘導
4 一次顆粒の産生に伴うその他の所見

 はじめに

 骨髄から血液へ,血液細胞が補給される.骨髄内には,その補給の元になるような,ある種の根幹に相当する細胞が必要である.これを造血幹細胞と呼んでいる.我々は骨髄内に造血幹細胞を一生の間にわたってもち続け,正常に過ごせると枯渇することはない.

 幹細胞は何段階ものステップをもち,造血の指令の変化に応じてそのステップの途中から枝分かれ(分化)して,成熟していく先が分かれる.造血幹細胞を我々が大まかに表現するときは,単に母細胞,または前駆細胞ということもある.幹細胞は日ごとに分裂と細胞分化を繰り返し,新しい血球になり,骨髄から送り出される.この細胞回転は,幹細胞の宿命であり,最も重要な造血という機能である.現在では細胞培養技術によって,いろいろな前駆細胞の分化と成熟を,かなり具体的に観察できるようになってきた.そこで,血液細胞のうち好中球系を例にとって,分化と成熟の様子を覗いてみることにしよう.

図1 HL−60細胞の継代培養中の塗抹標本
ライト・ギムザ染色標本  ×1000

1 白血病由来の株細胞

 細胞培養に関心があれば,図に示したような白血病患者から樹立された株細胞であるHL−60細胞などを入手して,継代培養することができる(図1).

 この細胞は前骨髄球性白血病の患者に由来し,株細胞になった段階では骨髄芽球と何ら変わらない芽球の形態を示す.アズール顆粒がなく,ペルオキシダーゼ反応も陰性である(図2a,b).もちろん,エステラーゼ二重染色も陰性である(図3).

2 芽球から前骨髄球への分化

 骨髄の好中球系はペルオキシダ−ゼ反応陽性であるが,この酵素は前骨髄球の段階で合成されるだけで,細胞分裂して次の骨髄球になると合成そのものは行われていない.その代わり,別の酵素や成分が合成され,二次顆粒(特異顆粒)をもつようになるのが知られている.つまり,顆粒球系の最初の顆粒ができたとき一次顆粒と呼ばれ,細胞分裂して骨髄球になってから産生されたのは二次顆粒で,成分が異なる.

 このように細胞分裂を境目にして,次の段階の特質を獲得し発現することは細胞の分化である.好中球系の二次顆粒を特殊顆粒(または特異顆粒)とも呼び,特に血液学では染色性から好中性顆粒と呼ぶ習慣がある.好中球の名の由来である.これが分化の最終段楷の産物とみてよい.もちろんこの段階ではグリコゲン粒子など,他にも産物はある.

 一次顆粒にはペルオキシダ−ゼのほか,エステラーゼ,β一グルクロニダ−ゼ,酸ホスファターゼなども含まれる.

図2 図1と同しく,塗抹標本のペルオキシダーゼ反応
DAB法(左),α−ナフトール法(右)ともに陰性像
図3 図1と同しく,エステラーゼ二重染色でも
ほとんど陰性像×1000