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赤芽球の核形態を解析(その1) page1/2

1 低色素性の大赤芽球の核直径を見抜く
2 核直径の判断と錯視
3 核の大・小判断の必要性
4 核と細胞質のさまざまな異常を示した例

 赤芽球系の絶対数の増減を知ったうえで,核形態を解析すると,赤芽球の成熟過程に生じた異常を見抜くことができる・核形態の要点は1)核の直径,2)クロマチン構造3)核自体の形状である.また,核の成熟が正常でも,細胞質の血色素合成との間にはバランスがある.

 赤芽球の核の直径も分裂の回数を重ねる経過1)のなかで,一率に縮小するように制御される.病的なときは微妙に異なってくる.一方,赤芽球系の特性は,ヘモグロビン合成が正常に進んでこそ正常で,核と細胞質の成熟のバランス判断が重要である.所見が病的ならば,表現されたアンバランスな成熟状況を見抜き,その原因が,1)核自体の異常, 2)核と細胞質の異常,3)細胞質だけの異常などによって,成熟過程のどの段階にどんな異常が起こっているかを考察し,鑑別が可能になる.正常赤芽球系を単に分類する能力と異なり,病的なときこそ鑑別能力が発揮される.ときには著しい技能差が報告書に表われる恐れがある.

1 低色素性の大赤芽球の核直径を見抜く
 赤芽球系の成熟過程では,塩基好性段階と多染性段階ともに,細胞直径や核直径に2段階あることが読み取れる.
 それぞれ若い方からI,IIと区別すると(図1a〜Cおよび表)赤芽球増減の動的状態(分裂抑制か促進か)がつかみやすい.
 例1はどの段階も核は一回り大きく,大赤芽球(マクロブラスト)にみえる.鉄欠乏で細胞質はHb合成が悪いために,細胞の膨らみも色調も弱く,低色素性である.
 同一標本上でも標本の乾燥が遅いと赤芽球辺緑がシワになりやすいので,マクロブラストでもチリメン皺(しわ)と呼ばれる状態を認め(図1d),明らかにHb量が少ないことがわかる.この例は82歳の高齢者で,鉄欠乏に伴う貧血である.高齢による大球性の背景と鉄欠乏による小球生低色素性貧血が重なっている.鉄剤単独では若年老の鉄欠乏性貧血よりも反応性が弱いと考えられる.大球性の所見を正確に見抜いて解析できると,臨床的にも有力な情報が得られると思われる.2)にあげた核も細胞質も異常の例に該当する.
 原因は異なるが,鉄欠乏による低色素性にビタミンB12(以下,B12と略)やことに葉酸の欠乏による大赤芽球性が重なり,先の例と同様な形態を示すアルコール中毒者での例がみられる.入院による禁酒と栄養補給で肝機能の改善に伴って治る.

図1-a 塩基好性赤芽球(I)からの分裂直後で,塩基好性(II)の最初にあたる

図1-b 塩基好性赤芽球(II)からの分裂直後で,多染性赤芽球(I)の最初にあたる

図1-c 多染性赤芽球(I)からの分裂直後で,多染性赤芽球(II)の最初にあたる

図1-d 低色素性のマクロブラストの一群

2 核直径の判断と錯視(図1a,b,c,e)

 同心円で起こる内側の円の過大視は,錯視の一つで,直径の比が2:3のとき最大となり,+10%とされる.赤芽球の核直径も6マイクロメートル対細胞直径9マイクロメートル同様に7対10.5,8対12などの多染性ないし塩基好性赤芽球などで核が大きくみえることになる.

 各人の観察能力にもよるが,大赤芽球や巨赤芽球の判定には影響すると思われる.必要なときにはミクロメータで実測する余裕が必要である.

3 核の大・小判断の必要性

 末梢血では平均赤血球指数でHb含有量(MCH),容積(MCV),Hb濃度(MCHC〕が簡単にわかる.

 赤血球は小児では一般に小球性で,老人では加齢に伴って大球性に傾くこともわかっている.これ以上に,赤芽球の核の大・小は成熟後の赤血球形態に反映する.

 貧血時の赤芽球系の基本的な形態変化は,巨・大・正常・低色素性などで,末梢血の赤血球形態を説明できる関係にある.関係を知るには,よく塗沫された骨髄標本で,慣れるまで実測してみるのがよい.赤芽球形態の集積(赤芽球像)から説明できる能力が必要と思われる.細胞直径に対し核直径が大(N/C:大)ならば,その目安(表)をもとに核自体が大きいのか細胞質が狭いのかを即座に判断しなければならない.

図1-e:a,bとも内側の円の直径は同一である.

表 :核と細胞質の直径の目安
赤芽球の成熟段階
短径・長径(平均)マイクロメートル

細胞質

前赤芽球
15・17(16) 16・24(20)
塩基好性(I)
12・15(13.5) 14・21(15)
塩基好性(II)
10・12(11) 12・18(15)
多染性(I)
7・10(8.5) 10・15(12.5)
多染性(II)
5・6(5.5) 8・12(10)