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後骨髄球の核形態を解析 page1/2

1 ミクロメータを活用した形態学の重要性
2 後骨髄球との対比で赤芽球は核や細胞直径の基準になるか?
3 主観に伴う錯覚とは?
4 後骨髄球の核幅
5 後骨髄球の核形態の解析
6 境界の区分とその範囲
7 主観のため判断に迷った例

 骨髄の好中球系は,成熟が進むと杆状核球,分節核球となり,末梢血へ動員される.機能に伴う形態変化は前回述べた.中間成熟段階にある後骨髄球の核形態と杆状核球との区別を明らかにできると,好中球成熟過程の重要な事実がみえてくる.ここでは後骨髄球鑑別が主観に影響されやすい事実と,主観に左右された部分を示し,問題点を明らかにしたい.

 鑑別作業に形態と機能の理解に基づく判断を加えるか主観的に判断するかは,読者の皆さんのご経験に基づく判断に委ねたい.問題点をミクロの眼で明らかにし,今後の観察に解析手法として活かせるか提言してみたいと述べた理由が,実はこの後骨髄球段階にもある.

1 ミクロメータを活用した形態学の重要性

 著者は顕微鏡に常に接眼ミクロメータを入れている.これで実測すると,赤血球大小不同の程度,芽球の細胞直径,核小体サイズ,空胞,封入体サイズ,大赤芽球の細胞質/核直径比,巨大杆状核球や巨大後骨髄球の判定およぴその核形態の正常細胞との差異など,客観的に評価できて便利である.主観には必然的に錯覚が伴い,鑑別に影響する.実例を知るほどに,ミクロメータの必要性も増す.

2 後骨髄球との対比で赤芽球は核や細胞直径の基準になるか?

 ミクロメータなしで細胞直径や核幅を判断するとき,赤芽球系や赤血球の直径を基準におくと骨髄塗沫標本上では意外な問題が生じる.赤血球直径も正常ならばよいが,貧血時の赤血球では基準にならない.

図1a

図1b

図1c

図1d

内側の円は両者とも同一である

図2

3 主観に伴う錯覚とは?

 図1a,b,cのような同心円状の赤芽球の核直径判断では錯覚が生じるのである.正常な眼には核:細胞質直径が2:3(6マイクロメートル:9マイクロメートルなど)で細胞直径は小さくみえる(過小視),核直径は実際よりも大きくみえる(過大視)(図1d).この比が変わると,錯覚の程度も変わる.そこで,図1aの後骨髄球の核幅は何マイクロメートルであろうか?

 図1aのように後骨髄球や杆状核球の核の幅と赤芽球核直径と比較するとき,好中球系の核幅の方が約1マイクロメートル大きくみえても,実測すると同じ数値のことも意外に多い.さらに,赤芽球の核成熟に伴い直径が図のように様々に変化し,直径の基準にはなりにくい.核直径の判定は大赤芽球,多染性赤芽球I・IIの判定上の問題として,次の機会に取り上げて見たい.

4 後骨髄球の核幅(図2)

 骨髄球の核幅が縮小して後骨髄球になる.後骨髄球の核幅は7〜5マイクロメートル程度まで次第に杆状に近づく.実際には,多くの場合は生体の反応に応じて変化し,V字型になったり,左端とも右端で核幅が異なる.異常に濃縮した変性像(図2-2,-3)もある.核幅を端まで個別に測ってみると,一方が細くなりかけても5マイクロメートル以上,片方は7マイクロメートル前後である.(図2-2,-3

 後骨髄球の核幅は多染性赤芽球I,IIの2段階の核直径に相当し,平常では多染性赤芽球や後骨髄球はもちろん核幅5マイクロメートルの杆状核球も末梢血には出られない.これらの点を洞察すると,骨髄の造血巣と類洞を仕切る類洞壁の小孔は,平常は4マイクロメートルないし5マイクロメートル末満の範囲で細胞の通過を調節している.細菌感染や出血など骨髄の貯蔵プールを末梢へ動員すべき事態では,類洞壁の小孔は拡大され,杆状核球,赤芽球,後骨髄球までもが出現する.正常時は「核直径,核幅が5マイクロメートル以上では骨髄から出られない」という生理的,構造的な調節機構が読み取れる.