3 主観に伴う錯覚とは?
図1a,b,cのような同心円状の赤芽球の核直径判断では錯覚が生じるのである.正常な眼には核:細胞質直径が2:3(6マイクロメートル:9マイクロメートルなど)で細胞直径は小さくみえる(過小視),核直径は実際よりも大きくみえる(過大視)(図1d).この比が変わると,錯覚の程度も変わる.そこで,図1aの後骨髄球の核幅は何マイクロメートルであろうか?
図1aのように後骨髄球や杆状核球の核の幅と赤芽球核直径と比較するとき,好中球系の核幅の方が約1マイクロメートル大きくみえても,実測すると同じ数値のことも意外に多い.さらに,赤芽球の核成熟に伴い直径が図のように様々に変化し,直径の基準にはなりにくい.核直径の判定は大赤芽球,多染性赤芽球I・IIの判定上の問題として,次の機会に取り上げて見たい.
4 後骨髄球の核幅(図2)
骨髄球の核幅が縮小して後骨髄球になる.後骨髄球の核幅は7〜5マイクロメートル程度まで次第に杆状に近づく.実際には,多くの場合は生体の反応に応じて変化し,V字型になったり,左端とも右端で核幅が異なる.異常に濃縮した変性像(図2-2,-3)もある.核幅を端まで個別に測ってみると,一方が細くなりかけても5マイクロメートル以上,片方は7マイクロメートル前後である.(図2-2,-3)
後骨髄球の核幅は多染性赤芽球I,IIの2段階の核直径に相当し,平常では多染性赤芽球や後骨髄球はもちろん核幅5マイクロメートルの杆状核球も末梢血には出られない.これらの点を洞察すると,骨髄の造血巣と類洞を仕切る類洞壁の小孔は,平常は4マイクロメートルないし5マイクロメートル末満の範囲で細胞の通過を調節している.細菌感染や出血など骨髄の貯蔵プールを末梢へ動員すべき事態では,類洞壁の小孔は拡大され,杆状核球,赤芽球,後骨髄球までもが出現する.正常時は「核直径,核幅が5マイクロメートル以上では骨髄から出られない」という生理的,構造的な調節機構が読み取れる.
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