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後骨髄球の核形態を解析 page2/2

図3

5 後骨髄球の核形態の解析(図3)

 杆状核球の核幅は末梢血では4マイクロメートル程度である.骨髄では5マイクロメートル以下で移行像があり,少し大きいのが普通である.

 後骨髄球や杆状核球では,核形態が伸びたVの字やコの字に湾曲するので,核幅の判断ではミクロメータを使わないと判定基準をどこにおくか決めにくい.そこで,好中球の末梢血への遊走機能を念頭においた判断の手掛かりを主眼にして,正常時の杆状核球までは次の4段階に分けてみたい.

1)核幅4マイクロメートルに成熟した杆状核球の貯蔵プール(図3-1
2)5マイクロメートルの核幅の「成熟待機」段階に到達した杆状核の成熟待機プール(図3-2
3)核の一端が5マイクロメートル,片方が5マイクロメートル以上の幼若な太い核幅で,まだ杆状核球に到達していない段階(図3-3
4)核の両端とも6マイクロメートル以上(図3-4).ときには核変形で中央が3ないし4マイクロメートルで∨字に細く折れ曲がり,クロマチンの粗大濃縮がめだたない幼若型.杆状核にはなっていない.
 1)〜3)の段階は,従来の杆状核球に分類されている範囲である.3)4)末梢血に出られない点で幼若好中球である.
 特に4)のタイプでの核変形は「主観的」に「核幅1/3,1/2,または2/3説」によって分節核に判定される恐れがある.しかし,好中球の形態として重要なのは核の成熟の点で,クロマチン構造は粗大な濃縮がめだたない点では後骨髄球である.棒状核とも称されたこともある杆状核球にはとても該当しない.
 成熟型だけに中毒性顆粒(図3の矢印)があり,幼若型に生じていないのは炎症が治まったためである.

6 境界の区分とその範囲
 核形態とクロマチン構造,類洞壁小孔の通過に必要な核幅などを念頭において考えていくと,骨髄球以降の細胞の定義に言及することになる.従来の骨髄系の細胞の名称は,成熟が到達した段階の名称として受け入れてきたものと思われる.つまり,
1)骨髄球は細胞質の塩基好性はなく,クロマチンの粗大化,楕円形までの核の変形
2)後骨髄球は核のクロマチンの粗大化,楕円形を超えた腎臓型への核の変形から次の杆状核球に至る範囲すべて
3)杆状核球はここでいう4マイクロメートルの核幅の細胞である.
 これらに中間成熟型を前後のどちらに繰り入れるかによって,数植は異なる.これが筆者がいう成熟過程の重要な事実がみえ隠れする分岐点であり,私は中間成熟型をすべて前段に繰り込む立場をとりたい.つまり従来の定義はそのまま踏襲し,その形態に至らないものは前段階に判定するのである.
 骨髄球には簡単に触れる.骨髄球は細胞質にアズール顆粒が残存することもある.細胞質塩基好性も残存,核クロマチンの網状構造残存,核小体の存在などもときに明瞭にみられ,分裂像の前・後でその形態の変化を細かく比較すると識別できる.
 形態学的には,1)中性顆粒の産出開始時期2)分裂のためのDNA,RNA合成期(核小体も発現)3)クロモソーム形成から分裂像・分裂終了後,4)核の変形開始時期に区別できるので,骨髄球の形態変化の範囲を4段階に識別できる.
 2)3)の間で前後に分けて,2つの段階に分けて理解することは可能であり,成書の正常値でも最近は,骨髄球の範囲が(I),(II)の2段階に区別1)されている.

7 主観のため判断に迷った例(実例1).2).3))
1)はハイルマイヤーの臨床血液学アトラス第1版で43頁図13−13,14の後骨髄球と44ページ図14−1の杆状核球は,それぞれ改定4版では49頁図7−12,13で骨髄球と図7−19で後骨髄球2)に名称が1段階幼若化している.
2)本来15%前後あるはずの後骨髄球のなだらかな山形の分布のなかに,4.9%など異常な窪みがみえるときはウイルス感染か薬剤による抑制が推定される3).好中球産生や成熟が障害され,その障害で窪んだ波がいままさに後骨髄球の段階を経過している例である.分節核球が異常に多く成熟好中球の動員抑制も生じている.既報の表1-bの例3は3日後まで軽度の好中球減少が持続し,5日日から好中球が回復し,さらに軽度増加したのでその読みは正しかったと判断できる.「回復する」のか,あるいは「軽度増加」になるのかどうかは,骨髄穿刺当時の末梢血の好中球実数に上積みされて決まる.
3)もう一つの起こりやすい例は,観察者の杆状核球への採用範囲が広すぎ,楕円形〜腎形核の形態を越えた好中球はすべて「主観的」に杆状核球へ判定した可能性である.日常では予想以上に多く,観察者自身の主観のために後骨髄球とすべき一群が杆状核球に算入され,後骨髄球欄の値が一般的に少し窪んでいる.その主観では2/3に少しくびれた杆状核球は間違いなく分節核球に繰り込まれていく傾向がある.結果としては骨髄で杆状核球や分節核球が十分な高値であるのに末梢血好中球滅少の説明はつかない.かえって2日後の好中球の増加(ときには回復も期待されるはず)は起こらない.後骨髄球分画の異常な窪みの説明がつかないまま経過してしまうパターンである.
 このような場合,多くの例で判読し直した筆者の経験では,後骨髄球は正常もしくは増加し,その分だけ杆状核球が減少している.生理的動態からみて分節核球も当然少ない.好中球減少も3日後には回復がみられるという結果になってくる.顆粒球系の成熟段階の比率異常4)を理解して骨髄像に取り組むとこれらがみえてくる.
こういう眼で骨髄像と末梢血好中球の変動や回復をみていくと,好中球減少症に期待される「回復の時期」を「3日後」程度には予測できると考えている.皆さんの判読された骨髄像はその予測を可能にし,解析による根拠をミエログラムが支持してくれるであろうか?
 文 献
1)三輪史朗ほか編:血液病学(第2版).XIV 正常値.1995,文光堂,東京,1995
2)ベーゲマン,ラステッター若(内野治人監訳):ハイルマイヤー臨床血液学アトラス,49,シュプリンガー・フェアラーク東京(株),1989
3)中竹俊彦ほか:血液細胞の社会をのぞく(6)顆粒球系の変化を解析する.医学検査43(8):目でみるページ,1994
4)中竹俊彦:骨髄像の解析と表現.第1巻 61頁,1993(出阪連絡先:杏林大学保健学部臨床血液学教室)
出典:中竹俊彦,高橋 良,関根名里子:血液細胞の社会をのぞく(9)後骨髄球の核形態を解析.医学検査45巻 2号.