研究テーマ
メンバーが行っている主な研究テーマをご紹介します。
- ■ 内胚葉形成における Sox17 遺伝子の機能解析(金井)
- 初期の形態形成において、胚性内胚葉から腸原基が形成され、将来、大腸、肝臓、膵臓等の成人病の多く認められる器官が形成される。しかしながらその重要性にも関わらず、胚性内胚葉の形成の分子メカニズムに関しては、現在のところ、殆ど研究がなされていない。私達はノックアウトマウスを用いた解析によって、 Sox17 遺伝子が胚性内胚葉の、形成、維持に必須であることを見い出した。現在、 in vitro での胚性幹(ES)細胞から内胚葉由来細胞の分化系を作るなど、再生医学に向けた基礎的研究を行なっている。
- ■ マウス I-type レクチン Siglec の発現特異性とその機能(金井)
- Siglec はリンパ球の分子認識、分化過程に特異的に発現する immunoglobulin superfamily に属する遺伝子群である。細胞膜に存在し、糖鎖を介した分子認識後、細胞内においてチロシン受容体のシグナルを抑制するモチーフが、 negative regulation を担うと想定され、ヒトではゲノム上に 11 種類の分子が存在し、リンパ球のサブセット、分化段階で異なる分子が発現することが報告されている。現在、新規の Siglec を in Silico クローニングし、発生過程でのその発現特異性を解析している。
- ■ 精細管上皮周期、精上皮の波の形成機構(宮東)
- 精子発生は、精巣の精細管で起こる。その上皮には、精子発生の進行に伴って周期的に変化する「精上皮周期」が観察される。この精上皮周期は、精細管に沿って少しずつ段階がずれるように配列していて、それが波状に繰り返される「精上皮の波」として知られる。
- 私達は、精上皮の波が自然にできるのではなく、男性ホルモンをはじめとする精巣内の液性因子によって調節され、その調節が加齢とともに変化することを、マウスを使って明らかにした。どのような情報伝達が行われているのか、調節が正常に行われるのに必要な要素は何かについて、精巣内での精細管の立体配置と、液性因子の分泌細胞、標的細胞との関連について追求している。
- ■ 下垂体前葉の多ホルモン分泌細胞の性質とその分泌調節(宮東)
- 下垂体前葉には、数種類の下垂体前葉ホルモンを分泌する細胞が混在している。ホルモン分泌の急激な増加時には、通常は主に1種のみのホルモンを分泌している細胞から、他のホルモンが分泌されるようになる現象の解析から、下垂体では、1つの細胞が多種類のホルモンを分泌する現象が、普遍的であることがわかってきた。この多ホルモン分泌細胞の動態を調べ、ホルモン同士の分泌調節、多ホルモン分泌細胞の分化の様子について検討している。
- ■ O-GlcNAc 及び O-GlcNAc 転移酵素の機能解析(秋元)
- 近年 O-GlcNAc と呼ばれる糖を修飾された蛋白質が核や細胞質に存在することが、明らかになった。この O-GlcNAc は、翻訳後修飾機構の一つであり、シグナル伝達に関与していることが明らかにされつつある。私達は、O-GlcNAc を蛋白質に付加する糖転移酵素(O-GlcNAc transferase)並びに O-GlcNAc が膵臓、とりわけランゲルハンス島に多量に存在することを免疫組織化学的に見い出した。このことから O-GlcNAc は血糖の調節に関与することが推測される。現在、ヘキソサミン代謝系における O-GlcNAc に注目し、O-GlcNAc と糖尿病との関係についての基礎的研究を行っている。
- ■ 細胞外マトリックスの組織細胞化学的検討(秋元)
- 細胞外マトリックスの解析では、特に基底膜に注目し、その主要な構成成分であるコラーゲン分子やガレクチンなどのそれぞれの役割について、分子生物学並びに組織細胞化学的解析を行っている。
- ■ 皮膚の発生における Homeobox 遺伝子の機能解析(秋元)
- ニワトリ胚やマウス胚の皮膚を過剰量のビタミンA存在下で培養すると表皮の粘液化生を生ずる。この粘液化生や角質器(羽毛、ウロコ、毛)の発生における homeobox 遺伝子の役割について解析を行っている。
- ■ 糖脂質の組織化学的局在(川上)
- 糖鎖の中でもとりわけ糖脂質については、生化学的な構造解析や疾患に伴う変化などは種々報告されているものの、糖脂質本来の局在や機能については、少なくとも糖蛋白質糖鎖に比べて未だ十分に理解されていない。そこで、近年実用化されてきた糖脂質特異抗体を活用して、糖脂質の全身分布を光顕・電顕レベルで検討し、糖脂質の機能的意義についての解明をめざしている。
- ■ 癌転移過程における血小板と糖鎖の関与(川上)
- 癌転移が成立するまでの多くのステップの中で、転移先臓器の血管と癌細胞との相互作用の段階に注目し、癌細胞表面の糖鎖発現パターンの差や、流血中の血小板との反応性の差が重要な役割を担っている可能性について、マウス大腸癌の肝転移モデル系を用いて解析している。
共同研究
当部門で行われている、学外の研究室との主な共同研究は下記のとおりです。ただし、2006年度(平成18年度)実績。順不同。
(研究テーマ)(相手先機関)
- □ 糖鎖を介した細胞間情報伝達機構に関する組織細胞化学的研究
- 東京大学大学院薬学系研究科 生体異物学教室
- 帝京大学薬学部 生物化学教室
- 慶應義塾大学医学部 産婦人科学教室
- 杏林大学保健学部 解剖学教室
- □ 内在性レクチンの分布と役割、及び発現調節
- 帝京大学薬学部 生物化学教室
- □ C型レクチン、ムチン及び糖転移酵素に関する組織細胞化学的並びに糖鎖工学的研究
- 東京大学大学院薬学系研究科 生体異物学教室
- □ 腎細胞癌の転移における癌細胞内イオン輸送体活性の意義
- 福岡県立大学看護学部看護学科 実験看護学
- □ アリールスルファターゼ遺伝子疾患の分子機構の解析
- 広島大学大学院理学研究科 数理分子生命理学専攻 分子遺伝学研究室
- 東京大学大学院理学系研究科 付属臨海実験所
- □ 下垂体前葉の多ホルモン分泌細胞の検出とホルモン分泌調節における動態
- 米国アーカンソー医科大学医学部 神経生物学・発生科学教室
- □ 虚血再灌流心臓のノルアドレナリン放出に対する神経調節因子の作用
- 米国アーカンソー子供病院 小児心臓外科グループ
- □ 糖尿病に伴う O-GlcNAc 化蛋白質の変化の解析
- 東京都老人総合研究所 老化ゲノムバイオマーカー研究チーム,老化ゲノム機能研究チーム