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第1回CCRCフォーラム「地域社会における大学の未来像」

杏林大学学長の跡見です。本日は、杏林CCRCフォーラムに参加頂きありがとうございました。
CCRCとは聞き慣れない言葉ではないかと思いますが、なぜこのような構想が出てきたのかを含め、お話をさせて頂きます。
文部科学省による様々なプロジェクトの中で、今年度、“地(知)の拠点整備事業”があります。これは多くの資源を有する大学を地(知)の拠点と位置づけ、地域と大学の連携の下、地域と大学がより発展することを意図するものです。全国342の大学等から319件の応募申請があり、52件が採択されるという難関でした。本学がこれに通りましたのも、三鷹市、八王子市、羽村市の市長を始めとする多くの職員、市民の方々の後押しがあったからであります。ここであらためて御礼を申し上げます。
杏林大学が唱えるCCRCとはCenter for Comprehensive Regional Collaborationであります。即ち地域と密接に連携を持つ大学のことであります。

杏林大学は、1966年設立されました。まず医学部、次いで保健学部その後 総合政策学部、外国語学部を開設しました。さらにこの間医学、保健学、国際協力の3大学院研究科、医学部付属看護専門学校を併設しています。このように医学、医療系を出発点とした大学であり、地域との連携もこの点が大きなもの

となりますが、さらに人文社会科学系の学部もあることから、より幅広いものが可能となります。その意味からも、私どもの今回の取り組むテーマは、“新しい都市型高齢化社会における地域と大学の統合知の拠点”といたしました。

●日本が世界に先駆けて、超高齢化社会になりつつある事はよく知られています。65歳以上を高齢者とすると、世界の高齢化率は、内閣府の報告(2012年)では2010年では、高いのは日本23%、ドイツ、イタリア20.4%、となぜか第2次大戦の同盟国です。先進諸国では平均15.9%であり、一方開発途上国では5.8%となっています。
文科省のプロジェクトに応募する調書を提出する時点では、三鷹市20.2%、八王子市22.5%、羽村市21.4%でしたが、これが急激に上昇することは間違いありません。我が国では少子化の影響もあり、2050年には人口は8千万台に減少し、高齢化率は40%に上るとされ、他の先進諸国に比し上昇率は群を抜いて高いのです。その中でも100歳以上は現時点の5万人からなんと60万人を超えるようになります。ここに参加されている皆さんも、多くは百歳以上の集団に加わることになります。百何十人に一人百歳を超える方がおられるのですが、こんな社会は想像がつきません。このような超高齢化社会ではまさにパラダイムシフトとも言うべき社会の変換が必要となりましょう。
2030年にかけて死亡者数は40万人も増加するといわれています。その80%が病院などの医療施設で亡くなっている現状から単純に計算すると、新たに32万人が入院施設で死を迎えることになります。このような状況になると、真に医療を必要とする患者が入院できなくなるおそれもあります。入院に関する自己決定権の問題、予防医療、チーム医療などによる対応を考えるなどしなければなりません。このほか、高齢者医療に関わる課題として、増大する総医療費の伸びと高齢者などの医療費負担の公平性(高齢者保険料など)等があり、早急に方向性をしっかりと示さねばならないものであります。

●もっとも、高齢者として65歳の線引きにこだわる必要はないかもしれません。健康で労働意欲がある65歳以上が増えれば、法的な意味での高齢者を70や75歳以上とすることも可能です。まさに、健康寿命が延びつつあることは様々な社会の仕組みをそれにあったものにしなければなりません。例えば、高齢者の存在を社会的負担(福祉の受益者)と見なす考えから、貴重な資源(社会に担い手)と見なして、現役時代とは異なる形での社会参加を促進する考えであります。三菱総研の小宮山理事長はこの社会を“プラチナ社会”と名付けたものの中にみています。日本が今直面している少子高齢化社会、環境・エネルギー制約などは、物質的な豊かさを達成した先進国ならではの問題です。これらの課題を解決するプラチナ社会とはどのようなものでしょうか。そのイメージは
(1)快適な自然環境の再構築された社会
(2)資源・エネルギーの心配のない社会
(3)老若男女が全員参加できる社会
(4)雇用の安定した社会
(5)生涯を通じて成長できる社会 としています。
いずれもそれほど容易に達成できるとは思われませんが、超高齢社会に向かっている社会の一員として何らかの行動が可能かどうか、重要な問題が内包されていると思われます。

●そのプラチナ社会構想の中で、“積極的な社会参加を実現する超高齢者のコミュニティ(CCRC)”が述べられています。ここでいうCCRCとはアメリカ型のものです。Continuing Care Retirement Community の略であり、一つの敷地の中で、健康時から介護時まで継続的にケアを提供する高齢者コミュニティのことです。安全・安心を確保しつつ学習や就労を通じた多世代間交流で、社会参加を実現する高齢者のコミュニティで、そこには介護施設もあれば要支援の人たちの集合住宅もあります。病院や大学、保育園も近くにあり大きな広場もあります。
要するに高齢者が圧倒的な存在感を放つ小さな村で、そこでは、高齢者が複数の世代をつなぐ大切な触媒の役割をはたす事が期待される構想です。既にアメリカではいくつかの地域でCCRCが実際に運用されており、日本でもCCRCをビジネスチャンスとして捉えている事業体も少なくなく、これから様々な動きがあるかもしれません。

●私はアメリカ型CCRCをそのまま日本に持ち込むことは、難しいと考えます。アメリカでは、広大な敷地の中で裕福な老人が生活をエンジョイする姿が容易に思い浮かびます。では日本型のCCRCはどのようなものが考えられるでしょうか。CCRCは高齢化社会において有益なモデルですが、狭い国土の中で急速な少子・高齢化が進行している日本にあって、現段階でアメリカ的システムをそのまま当てはめることは困難であり、“Retirement”という枠組みにとらわれない日本型モデルを検討する必要があるのではないでしょうか。
私はそのためには、大学機能と地域社会との協力かつ密接な連携が不可欠であり、日本型CCRCとはContinuous Collaboration for Regional Community 、Continuing Care for Regional Communityのようなものではないかと考えています。
私たちの大学が医学部、保健学部、外国語学部、総合政策学部を有しており、さらに三鷹市、八王子市、羽村市という都市型高齢化地域と密接な関係を有する事から、新しい日本型CCRC構想が浮かんできました。これは先に述べましたように、Center for Comprehensive Regional Collaborationであり、大学、行政、地域社会、地域産業体、シンクタンクを巻き込んだものとなります。より詳細には、本構想の実施責任者である古本地域交流推進室長、蒲生杏林CCRC研究所長からお話しさせて頂きます。私どもは杏林大学と三鷹市、八王子市、羽村市から日本型CCRCが発信できればと願っております。


第1回CCRCフォーラム 2013.11.2
杏林大学学長 跡見裕