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■□■杏林大学医学図書館ニュース■□■ 臨時増刊号(第90号) 2019.10.15 配信

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□Contents□
■ご挨拶■ 
■図書館長の多話ごと(たわごと)■ 
■編集後記■ 

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■ご挨拶■
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今年も台風による臨時休館が続いている医学図書館です。今回の台風19号は首都圏のみ
ならず、近畿から東北まで広い範囲で大きな被害をもたらしました。被災された方々が
一日も早く通常の生活に戻れるよう心より願っています。
さて、予告の通り臨時増刊号をお送りいたします。評価についての「図書館長の多話ご
と」は、皆様の今後のお役に立てられると思います。どうかご参考になさってください。


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■図書館長の多話ごと(たわごと)■ 評価について
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ここ十数年でしょうか、大学だけかもしれませんが、「評価」という言葉を良く聞くよ
うになりました。杏林大学医学部に関係するものだけでも、学外の組織による評価とし
ては、大学の認証評価(大学基準協会、2015年度受審)、医学教育分野別評価(日本医
学教育評価機構、2018年度受審)、付属病院の病院機能評価(日本医療機能評価機構、2
018年度受審)があります。学内では、学生の成績評価は当然として、カリキュラムの評
価(教育評価委員会)、教員の評価(教員評価委員会)、学生による教員の授業や臨床
実習の評価、指導医と研修医相互の評価、研修医による診療科の研修体制や臨床研修全
体の評価、上長による病院職員の能力評価、患者さんによる病院の評価、等々あらゆる
人、組織、システムが評価の対象になっていると言っても過言ではありません。

評価は何のために行われるのでしょうか? ひとつには、ある個人なり組織なりが、ち
ゃんと期待されるレベルに達していることを保証する、逆に言えば達していなければ何
らかの処置(学生なら再履修などですね)を講じるという目的があります。もうひとつ
は、個人や組織の能力、機能をより良くするためという目的です。ちなみに、教育学で
は前者を「総括的評価」、後者を「形成的評価」と呼んでいます。

このような評価の目的がちゃんと達成されるように評価を行うには、どのような条件が
必要なのでしょうか? まず評価対象(評価される人、組織、システムなど)の「望ま
しい姿」が正しく認識されていなければなりません。たとえば、「病院はできるだけ多
く診療報酬を得る」ということを唯一の「望ましい姿」と規定すると、これはもう評価
によって病院をより良くするという目的とは最初からずれていることになります。当た
り前のようですが、実はこの段階に問題があると思われる評価が少なくないのです(後
述)。またしても専門用語を持ち出して恐縮ですが、この「望ましい姿」は「到達目標」
と呼ばれます。

次に必要なことは、この到達目標に照らして現在の状態がどうなのかということを、正
しく把握(測定)しなければなりません。そのためには、適切な評価方法を用い、それ
を正しく運用する必要があります。ここが一番難しいところなのですが、長くなるので
省略します。小説家のなだいなださんの随筆「クレージイ・ドクターの回想」に、ある
教授がアルファベットの省略形の医学用語を解説させる問題で、本当の医学用語の他にM
JBだのJALだの医学用語でない言葉を混ぜるので閉口した、というようなくだりがありま
す。コーヒーのメーカーや航空会社のことを知っていても、医学知識があることにはな
りませんね。「一般常識も必要だ」というお考えだったのでしょうか?

さて、このような「評価の原則」を知っていただいた上で、2つの評価について、先ほど
指摘した「望ましい姿」をどう描くかについて、意見を申し上げたいと思います。最初
は、昨年度に医学部が受審した「医学教育分野別評価」です。これは、「世界医学教育
連盟(WFME)」というところが決めた、「世界中の医学校の医学教育はこうあるべきで
ある」という基準(WFME Global Standards for Quality Improvement)の日本版(医学
教育分野別評価基準日本版)に則って、日本の全ての医学部・医科大学が評価を受ける
というものです。この評価基準の1項目に臨床実習の期間について定めたものがあり、
「臨床現場において、計画的に患者と接する教育プログラムを教育期間中に十分(全教
育期間の1/3、すなわち約2年間)持つこと」というのがあり、これに対応するために、
本学を含めてほぼ全ての大学でカリキュラムを改編して実習期間を延長しました。この
改編の「副作用」として、低学年における教養科目や基礎医学のカリキュラムの圧縮が
生じました。AIとロボットの時代に医師に求められるものが何かを考えると、臨床能力
のトレーニングもさることながら、人間や社会についての深い理解と医師になる人間と
しての人格の陶冶がこれまで以上に重要になるのではないでしょうか。この分野別評価
の結果が、将来の日本の医学教育にプラスになるのかかえってマイナスになるのか、今
は判断できませんがとても心配しています。そもそも医師養成の仕組みは国によって随
分異なるのですから、いくら国際基準といっても、一律に「全教育期間の1/3」などと決
めるのはおかしいと思います。改善のために行う評価がかえって改悪を導くとなると大
きな問題です。
もうひとつは、学生による授業評価についてです。医学部では、学生の授業評価で高評
価を受けた先生を「Teacher of the Year」として表彰しています。毎年のように表彰さ
れる先生がおられるのは、やはり多くの学生に「よい講義だ」と思われる講義をしてお
られるということですので、心から敬服いたします。私なんぞは医学教育学の教授であ
りながらこの賞にはかすったこともありません。ただ、学生が高く評価する講義が全て
の教員が目指すべき講義のあり方かというと、必ずしもそうではないと思うのです。一
般的には、難しいことでも学生が理解しやすいように工夫されている講義がよいとされ
ていますが、難しいことが難しいんだとわかる講義もあっていいのではないか、あるい
はすぐには教員の言っている意味がわからなかったけれども、なんとなく記憶に残って
いて、医師になって何年か経ってから初めて「こういうことだったのか」とわかるよう
な講義も、それなりに立派なものだと思うわけです。要するに、評価する人には評価の
対象に関してそれなりの見識が必要だということです。学生の授業評価は、一種のアン
ケート、NHKが時々やっている世論調査のようなものと理解しておくのがよさそうです。
これは、賞をもらえないやっかみから言うのではありません(いや、やっぱりそうかな
…)。

社会の中で生きている以上、人は評価から逃れることはできません。学校の試験や職場
での昇進のための評価だけでなく、友達や配偶者選びも評価の一つです。人は皆、そし
て人の集まりである組織や国も、「認められたい」という気持ちを持っています。だか
らといって現実から離れてでもよい評価をしてあげるのがよいというわけではありませ
んが、評価される人(や組織)がよりよくなるためにという、あたたかい気持ちをもっ
て評価をしたいと思います。

今回はちょっと固い話になりましたので、附録です。医学部の4年生は、秋から始まる臨
床実習の前に患者さんとのコミュニケーション、すなわち医療面接を習います。11月9日
にはOSCEという実技試験があります。大部分の学生さんはふだん友達と何の不自由もな
くコミュニケーションをとっているのですから、患者さんが相手でもできるはずだ、と
思うとこれが大違いで、医療面接は医師にとって一生かけて磨いていく技術であるとい
えるでしょう。
学生さんの医療面接での会話を、少しカリカチュアライズして、友人との会話のコント
にしてみました。誤解しないでいただきたいのですが、学生さんを馬鹿にしようという
気持ちは全くありません。この会話に出てくる質問は、どれも医療面接で用いられるも
のです。しかし、「あれを聞かなきゃ」「これを聞かなきゃ」と思うばかりで、相手の
応答や気持ちに添った受け答えをしなければ、こんなにも滑稽な会話になってしまうと
いうことをわかっていただきたいと思うわけです。

A:あのさあ、この夏にハワイに行ったんだよ。
B:へえ。ちょっとメモさせてね。
A:メモ? ハワイくらい覚えろよ。
B:えーっと、ハワイに行ったと。もう少し詳しく話してくれる?
A:ああ、いいよ。4泊5日で行ったんだ。
B:それは大変だったね。
A:何が?
B:いや、そんなに長く家を離れるなんてと思ったのさ。
A:ハワイに4泊くらい普通だろ? 俺旅行好きだし。
B:そうなんだね。ありがとう。
A:何で礼を言うの?
B:他に何かありますか?
A:他に、って、まだハワイの話じゃないのか?
B:ああ、そうだった。で、どの島に行ったの?
A:やっとまともな質問が出たな。オアフとカウアイに行ったよ。
B:それは大変、いや、よかったね。
A:それが、実はカウアイ島では大変だったんだよ。
B:それはズキズキする痛みですか、締めつけるような痛みですか?
A:別にどこも痛くねーよ。勝手に話を作るな。
B:ところで、タバコは吸いますか?
A:なんだそれ。吸わないよ。
B:そうなんですね。ありがとうございます。
A:だから、いちいち礼を言うなっての。
B:お酒は?
A:あのなあ、俺たちまだ18歳なんだから、その質問おかしくないか?
B:差し支えなければ、生理のこと聞いていいですか?
A:差し支え大ありだよ、この野郎。俺は男だ。
B:それはいつからですか?
A:ずっと前からだよ!
B:だいたいでいいんですが。
A:う・ま・れ・た・と・き・か・ら。
B:ペット飼ってますか?
A:ああ、犬が3匹な。
B:君と同じような症状の犬はいますか?
A:症状って、何だよ。
B:えーっと、例えば髭が濃いとか。
A:俺の髭が濃いのは病気なのか? 犬だから顔中毛だらけに決まってるだろ。
B:なるほど。えーっと、最近海外に行きましたか?
A:だから、ハワイに。
B:そうだったそうだった。ありが、いや、それはお辛い、いや、あの、何か心配なこと
はありますか?
A:俺はお前の頭の中が一番心配だよ。

終わり (赤木)


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■編集後記■
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最後の学生コントは何度読んでもつい吹き出してしまいますが、「相手の応答や気持ち
に添った受け答え」には日々悩んでいます。さて、評価と言えば図書館も無縁ではあり
ません。毎月入館者数や貸出者数を集計し、数年毎に自己点検評価を行います。資料電
子化の波か、入館者・貸出者数は減少傾向にありますが、その分利用者サービスを充実
させたいと図書館員一同頭を悩ませています。図書館に対する希望や新しいサービスの
提案があればぜひお知らせください。(野)

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