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准教授
八木橋 宏勇
(YAGIHASHI, Hirotoshi)

経歴
2003年 慶應義塾大学文学部(英米文学専攻)卒業
2005年 慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻前期博士課程修了
2008年 慶應義塾大学大学院文学研究科英米文学専攻後期博士課程単位取得満期退学
2007年~2009年 杏林大学外国語学部(助教)
2009年~2013年 杏林大学外国語学部(講師)
2013年~現在 杏林大学外国語学部(准教授)

先生の専門は何ですか?

認知言語学です。「言語」に関する学問は一般的に「言語学」と呼ばれますが、「認知(=心の働き)」の観点から言語現象を観察しています。私たちは流暢に日本語を使いこなしていますが、日本語を勉強している非母語話者の方から「『は』と『が』はどう違うのですか?」とふいに聞かれたら、過不足なく明快に違いを答えられるでしょうか?理屈を考えることなく使いこなしているけれども説明できない、分かっているけど分からない、こういう知識を「暗黙知」(tacit knowledge)といいます。日本語や英語の母語話者が、コミュニケーションに際して無意識に活用している「言語知識」という暗黙知を少しでも明らかにしたいと考えています。

なぜ、その専門に興味を持ったのですか?

13歳くらい年が離れた妹がいるのですが、彼女がことばを覚えていくプロセスがあまりにも不可思議で「ことばってどうやって身につけていくんだろう?」と毎日観察していたことがきっかけです。さらに、自分が高校生になって様々な英文法を学んでいたとき、ふと「すっと入ってくるものと、違和感満載なもの(たとえば「クジラの構文」)があるのはなぜだろう?」と考えていたことも、徐々に言語学に向かわせてくれたと思います。決定的だったのは、大学入学後、ある授業の初回冒頭で「貧乏でもいいけれど、貧乏くさくならないでください」とおっしゃった先生との出会いです。妙に心のフックに引っかかり、その先生のことをもっと知りたい、もっと学びたい、と思って先生がご専門とされていた言語学に惹かれていきました。

先生の専門分野の「こんなところが面白い」を教えてください。

ルールは破られるためにあります。いや、ルールには少なくとも2つの側面があって、ひとつは「システムを維持する安定性」、もうひとつは「システムの中心から離れたところにゆらぎを生じさせる不安定性」が考えられます。たとえば、Would you Adam-and-Eve it!という表現は、Adam-and-Eve(アダムとイヴ)という(固有)名詞をbelieveという動詞の代わりに使用しています。これは、一見すると文法規則から逸脱しているように思われますが、ルールを破っているからこそ発揮されているレトリック効果が感じられますし、押韻俗語(rhyming slang、ある語の代用として押韻する別の語句を用いる俗語のこと)という別のルールに支配されているともいえます。安定的なルールがあるからこそ、不安定なゆらぎも意味のある存在として認知されるといえます。

大学で専門的に学ぶことでどんな未来が?

大学での学びは、将来役立つかもしれないスキル系と、そのような期待は度外視して「役に立とうが立つまいが、自分がどうしても気になるこれを突き詰めて考えたい」という強烈な学欲に応える系の学びがあると思います。個人的には、後者こそが(実は)自らの将来を切り拓く「最も役立つ勉強」だと考えています。生きていれば様々な難事に遭遇しますが、それを乗り越えるために、一つ一つ全パターンの対処法を記憶するのは非現実的です。むしろ、どのような事態にでも立ち向かうことができる「問題発見力」「問題解決発想力」「自己表現力」という根本的な技量が必要です。先人たちが築いてくださった知の体系(=学問)を通して、知的興奮を味わいながら、この3つの能力をじっくりと涵養してほしいと思います。なぜなら、その能力の先には、単純には予測し得ないほど豊かな未来があると思われるからです。

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