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Faculty of Medicineアフリカツメガエル前腎をモデルとしたNotchシグナルによる腎尿細管の分化制御の解明

堅田智久(薬理学教室、助教)
櫻井裕之(薬理学教室、教授)

研究のハイライト
  • 腎臓の前駆細胞から尿細管を構成する細胞が確立される際に、Notchシグナルの適切な活性化と抑制が必要であることを示した
  • ネフロンを構成する糸球体と近位尿細管の分化にはNotchシグナルの活性化が必要であることを示した
  • 遠位尿細管の分化と管腔構造の形成にはNotchシグナルの抑制が必要であることを示した

概 要

 腎臓は、血液中の水分や無機物、有機物をろ過することで尿を生成し、体液の組成を維持する役割を担う臓器です。これはネフロンと呼ばれる基本単位が集合してできており、解剖学的に糸球体、近位尿細管、ヘンレのループ、遠位尿細管、集合管と呼ばれる領域に細かく分けることができます。ヒトの場合は一つの腎臓につき、およそ100万のネフロンが存在すると言われています。

 腎臓の発生において、ネフロンの各領域を構成する細胞は、中胚葉を起源とする腎臓の前駆細胞が分化することによって形成されます。この過程には多くの遺伝子が複雑に関与することが明らかにされてきましたが、その仕組みはいまだ不明な点が残っています。加えて、ヒトやマウスでは多数のネフロンが形成される過程であるがゆえに詳細な解析が困難であり、よりシンプルな実験系を用いることが望まれます。

 そこで我々は、ネフロンを一つしか持たないアフリカツメガエル胚を解析モデルとして用いることにしました。発生学研究で多用されるアフリカツメガエルは卵生であるため、発生過程を体外で追跡することができるうえ、遺伝子の過剰発現や機能阻害を「顕微注入法」と呼ばれる方法で行うことができます。本研究では、腎臓の前駆細胞からどのようにして異なる種類の細胞が生み出されるのかを、細胞の分化制御に重要とされるNotchシグナルに着目して明らかにすることを試みました。

 はじめに、腎臓が形成される領域でNotchシグナルを活性化させたところ、糸球体を構成する細胞数が増加し、遠位尿細管を構成する細胞は減少することが分かりました。加えて、遠位尿細管は本来であれば、伸長して総排出腔を形成しますが、尿細管の伸長は阻害され、総排出腔も形成されないことが分かりました。

 次に、腎臓の予定形成領域で、Notchシグナルを抑制したところ、糸球体および近位尿細管を構成する細胞数は減少し、遠位尿細管を構成する細胞は増加することが分かりました。これらのことから、糸球体および近位尿細管の分化には、Notchシグナルの活性化が必要で、遠位尿細管の分化には、Notchシグナルが抑制される必要があることが分かりました。さらに、組織学的な解析から、尿細管の管腔の形成にも、Notchシグナルの抑制が必要であることが明らかになりました。

 アフリカツメガエル胚の腎臓で明らかになったこれらの知見は、同じ脊椎動物であるヒトにも種を超えて保存されていると考えられ、腎臓の発生機序を解明するのに役立つばかりでなく、再生医療の進歩にも寄与することが期待されます。


 本研究は、科研費若手研究(B)の助成を受けて実施されました。

Notchシグナルによるネフロン形成の制御機構

掲載論文
発表雑誌:Developmental Dynamics [ Vol.245, pp.472 – 482 (2016) ]
論文タイトル:Proper Notch activity is necessary for the establishment of proximal cells and differentiation of intermediate, distal, and connecting tubule in Xenopus pronephros development.
筆 者:Tomohisa Katada, Hiroyuki Sakurai
(堅田智久、櫻井裕之)
DOI: 10.1002/dvdy.24386

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