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Faculty of Medicine自分のものと錯覚した他人の身体部位の運動を視ることで、脳の運動システム の活動が高くなる

渋谷 賢 (統合生理学教室 講師)
大木 紫 (統合生理学教室 教授)

研究のハイライト
  • 自身の手と錯覚した他者の手の運動観察は脳内運動システムを活性することを発見した。
  • 自己身体意識が運動観察を利用したリハビリの効果を高める可能性を示唆した。

概要

脳卒中により片麻痺を生じた患者さんのリハビリとして、健常な側の手の動きを鏡を通して麻痺した手のように見せるミラーセラピーがあります。患者さんが鏡の中で動く手を”麻痺した手が動いている”と視覚的に錯覚することで、麻痺手を動かす脳内の運動システムが活性化すると考えられています。身体認知の研究分野では、このような”身体が自分のものである”という感覚は、<身体所有感>と呼ばれています。その一方、他者の手の運動を見たときでも、観察者の脳内運動システムが一部活性化することが報告されていて(ミラーニューロン・システム)、他者の運動をまねする模倣療法が行われています。では、観察する手を”自分の手”と感じた場合と”他人の手”と感じた場合で、運動システムの活性化に違いはあるのでしょうか?この問題を解くとき、自分と他者の運動観察を比較しただけでは、両者の手の形や動き方が異なるため、脳活動の差が身体所有感の違いを反映しているか分かりません。
私達は、この問題をラバーハンド錯覚と呼ばれる身体錯覚を用いて解明しました。ラバーハンド錯覚とは、対象者に人工手(ラバーハンド)を見せ、見えないようにした本人の手と人工手をブラシで同時に撫でると、人工手がまるで自分の手のように感じる錯覚です(左図)。この錯覚は、二つの手を交互(非同期)に撫でると生じません。この錯覚を利用すると、他者の手を”自分の手”と感じる状態(錯覚あり)と”他者の手”と感じる状態(錯覚なし)を作ることができ、その手の運動観察に伴う脳活動を比較すれば、今回の問題を解くことが出来るはずです。本実験では、脳波を用いて運動観察中の脳活動を調べました(右図)。注目したのはミュー波と呼ばれる脳波成分であり、運動システムが活性化するほど、この成分が強く抑制されることが知られています。実験結果は、モニターに映る手を”自分の手”と感じている方が、運動観察時に脳内運動システムが強く活性化する事実を証明しました。
脳卒中後のリハビリでは、麻痺した手を支配する脳内の運動システムをいかに活性化させるかが鍵となります。本成果に基づくと、身体所有感と運動観察の組み合わせがリハビリ効果を高める可能性が期待されます。
本研究は、本学博士研究員である畝中智志氏、明治大学理工学部の嶋田総太郞教授、座間拓郎氏との共同研究による成果であり、文部科学省科研費(基盤研究C・新学術領域)の助成を受けて実施されました。


図

掲載論文
発表雑誌:Neuropsychologia [ Vol.111, pp.77 – 84 (2018) ]
論文タイトル:Spontaneous imitative movements induced by an illusory embodied fake hand
筆 者:Satoshi Shibuya*, Satoshi Unenaka*, Takuro Zama, Sotaro Shimada, Yukari Ohki
(* contributed equally to this work)
(渋谷賢、畝中智志、座間拓郎、嶋田総太郞、大木紫)
DOI: 10.1016/j.neuropsychologia.2018.01.023

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