中竹 俊彦

 リンパ球を追う(シリーズ100リンパ球の世界(I)-1-7.形質細胞に核小体は?

リンパ球の世界(I)

  ‐リンパ球の核心に触れる‐

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

1−7.形質細胞に核小体は?

 正常に成熟した形質細胞は、抗体合成機能が確定し、合成を開始したという意味で次第にゴルジ装置が明瞭化したということですから、核小体がもはや必要ないものです。その経緯と理由は次のように考えられます。

 組織球に支持されて分化した形質細胞は、14番染色体を中心とした免疫グロブリンの遺伝子がmRNAに転写・完了されて、遺伝子機能を果たします。おそらく必要に応じて、5箇所のNORからできた核小体は全てのリボソームを準備して細胞質の強い塩基好性をもたらします。その後は、もはや細胞分裂することもなく、核の遺伝子も必要とせず、不必要となった遺伝子は完全に畳み込まれて濃縮クロマチンになります。

 成熟した形質細胞は抗体産生の開始とともに核小体も初期のうちに消失し、小さなNORとして畳まれた痕跡がNOR染色で指摘できます(脱核直前の赤芽球、後骨髄球まで成熟した好中球も小さなNORをもつことは同様です)。骨髄の正常な形質細胞が、明瞭・大型の核小体を持たない理由は、正常な終末細胞として分化が終了して、もはやrRNAを合成しないという意味です。

 成熟した形質細胞の核はクロマチンが著しく濃縮していき、特有の形質細胞の核構造(車輻状構造:車輪の中心から輻射している状態に似て、核のクロマチンが粗大化した様子)に濃縮されます。

 形質細胞様の細胞に核小体が認められる例は、以下のような異常な例です。Bリンパ球から前駆形質細胞までの間、および、腫瘍性に近い異常増殖をきたした場合は、まだBリンパ球の過程にあります。それらはリンパ形質細胞様細胞(lymphoplasmacytoid cell)の段階にある異常増殖なので、核小体があり、産生された免疫グロブリンはIgMであって、やがてマクロブロブリン血症(macroglobulinemia;マクログロブリネミア)になります。

 ある例ではその後、形質細胞になった段階の細胞が腫瘍性に増殖してきて、多発性骨髄腫(multiple myeloma;MM)になって発病します。この場合も、核小体が頻繁に認められるのは、形質細胞でも未分化な段階で増殖している細胞が多いという意味で、経過は次第に悪化していきます。

 多発性骨髄腫の例には、初めから核小体の目立つ症例もあれば、再発時から目立ってくるもの、そしてあるものでは、ほとんど核小体は認められない細胞が優位な症例まで、症例間には多段階の差異があります。また、核形態や細胞質に伴ってくる異型性の所見やその程度など、核形態の異型性、細胞質の染色性の違いも含めると、多様性は症例ごとに複雑に認められます。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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