2 前巨核球(図4)
細胞直径は20〜80マイクロメートル,細胞質の塩基好性は次第に弱くなり,アズール顆粒が出現し,細胞質全体に分散していく.前巨核球の直径は成熟度の判定基準にはならず,核と細胞質の成熟状態の観察が重要である.
巨核球への血小板付着像は,巨核球細胞質の成熟度と比較して判断する(図5).
3 巨核球(図6,7)
細胞直径は35〜160マイクロメートル,顆粒は均等に分散して細胞質を満たす.次いで顆粒は小集落を作る現象がみえる.この現象も巨核球の特性で,細胞膜が細胞質に陥入して血小板分離に必要なニ重膜となり,これが分離膜系として発達し細胞質が区切られるためである.
分離膜系が成熟すると細胞質は類洞壁の小孔から類洞内に突出し,先端から血小板を分離する.成熟巨核球の周囲でばらばらに血小板を分離するのではないから,骨髄塗株標本上で血小板産生像として正確に評価することはできないが,成熟度はわかる.血小板分離後の裸核はいずれマクロファージに処理されるが,標本上には比較的よく認められる.ITPでは症例により巨核球系のサイズが小型で幼若段階の時期にあるもの,大型化している時期にあるもの,逆に小型化していく段階が混在する時期がありうる.ITPの経過(病期)と骨髄穿刺の時期が症例ごとに異なるので,巨核球系の形態は症例ごとに,また経過中にも複雑で多彩な変動がある.さらに,塗抹標本上で小型の巨核球系が比較的多い症例は,血球計算板では巨核球が判定しにくく少なめに算定される傾向があり,標本の所見が重要である.
血球産生過程を詳細にみると,血液細胞の社会でも伝統的秩序が守られているのがみえてくる.観察では語りかける細胞の心をいい当てる気持ちが大切かもしれない.どの程度までITPの骨髄巨核球2)の形態を解析し,異常所見(秩序の乱れ)をどの程度まで指摘できるのか,観察者の能力を発揮できるところである.
- 文 献
- 1)Bessis(八幡義人訳):血液細胞へのダイナミックアプローチ第1版.130,文光堂,東京,1985
- 2)中竹俊彦:骨髄像の解析と表現法第1巻.101,1993(出版連絡先:杏林大学保健学部臨床血液学教室)
- 出典
- 中竹俊彦,高橋 良,関根名里子:血液細胞の社会をのぞく(4)巨核球系を解析.医学検査43巻 6号.
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