第106回日本解剖学会総会・全国学術集会 インターネットセッション 演題番号 I-017

GFP 標識したカスパーゼ 10 プロドメインの細胞内局在 − 電顕組織化学的検討

川上速人1, 松原幸枝2, 鹿間芳明3, 宮下俊之3
(杏林大・医・1第2解剖、2電顕室; 3国立小児医療研究センター)


はじめにはじめに

 アポトーシスに至るシグナル伝達過程において、カスパーゼファミリーは中心的な役割を担っている。ヒトでは現在までに12種類のカスパーゼの存在が知られているが、それぞれのカスパーゼの役割や細胞内局在に関しては不明な点が多い。カスパーゼ10は一連のカスパーゼ活性化カスケードの上流に位置し、強力なアポトーシス誘導能がある(図1)。カスパーゼ10のプロドメインは、それ自体はアポトーシス誘導能はないが、Death Effector Domainと呼ばれるモチーフを持ち、特殊な繊維状凝集塊をなすことが知られている。今回我々は、カスパーゼ10のプロドメインとGFPの融合蛋白を、ヒト細胞株である293細胞及びHeLa細胞内で一過性に発現させ、その細胞内局在を光顕、電顕的に観察した。




図1.アポトーシスへのシグナル伝達  アポトーシスに至るシグナルは、Death受容体から直接カスパーゼの活性化に至る過程と、ミトコンドリアからのチトクロームcの放出を介してカスパーゼ活性化に至る過程とに大きく分けられる。カスパーゼ10は、前者の過程でカスパーゼ活性化カスケードの上流にあって重要な役割を演じている。(宮下 他、Organ Biology 7:53-60, 2000 より一部改変)



方法方法

 カスパーゼ10のプロドメインをコードするcDNAを、Clontech社のGFPベクター(pEGFP-C2)に挿入し、融合蛋白発現ベクターを作製した。Qiagen社のEffectene reagentを用いて、このベクターをヒト胎児腎臓由来の263細胞と、ヒト子宮癌由来のHeLa細胞にトランスフェクションさせた。48時間培養後、共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。一部は、4% ホルムアルデヒド固定(1時間)と0.1% Triton処理(5分間)後、抗GFPモノクローナル抗体(Clontech社、2時間)処理、HRP標識ウサギ抗マウスIgG(DAKO社、2時間)処理、DAB反応を経てEpon包埋し、透過電顕観察した。




結果結果



図2.カスパーゼ10(野生型)とGFPの融合蛋白を発現させた293細胞。GFP陽性細胞(緑色)のほとんどは細胞死を引き起こしている。共焦点レーザー顕微鏡像と微分干渉像との重ね合わせ像。

図3.カスパーゼ10プロドメインとGFPの融合蛋白を発現させた293細胞。細胞は正常形態を示し、GFPの蛍光(緑色)は核周囲や細胞質内で繊維状に分布している。共焦点レーザー顕微鏡像と微分干渉像との重ね合わせ像。

図4.カスパーゼ10プロドメインとGFPの融合蛋白を発現させたHeLa細胞。細胞は正常形態を示し、GFPの蛍光(緑色)は核周囲を中心として細胞質内で繊維状に分布している。ローダミン−ファロイジンにて標識したアクチンの局在(赤色)はGFPの局在とは対応しない。共焦点レーザー顕微鏡像。



図5.カスパーゼ10プロドメインとGFPの融合蛋白を発現させた293細胞。抗GFPの局在を包埋前染色法により検出。透過電顕像。核周囲の層板状構造(矢印)とゴルジ領域(矢尻)に陽性反応が認められる。




図6.カスパーゼ10プロドメインとGFPの融合蛋白を発現させたHeLa細胞。抗GFPの局在を包埋前染色法により検出。透過電顕像。核周囲のゴルジ領域や繊維状構造に一致して広範囲に陽性反応が認められる。核内にも繊維状の陽性反応が認められる(矢印)。




まとめまとめ

 ヒト由来の263細胞やHeLa細胞に、カスパーゼ10プロドメインのGFP融合蛋白を発現させると、細胞質内とくに核周囲に繊維状に分布していた。また、抗GFP抗体を用いた包埋前染色法による電顕観察では、細胞質内に分布する繊維状あるいは層板状の構造や、ゴルジ領域に一致して陽性反応が認められた。HeLa細胞では核内にも繊維状の陽性反応を認めた。カスパーゼ10のプロドメインのみからなるこのような凝集塊の機能的意義については推測の域を出ないが、プロドメインはカスパーゼの細胞内局在を決めているという可能性もあり、ゴルジ領域にて仕分けされた後、核周囲に蓄積され、カスパーゼ系の調節に寄与しているものと考えられる。



(本文終り)


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