第4回レポート                  →研究室トップにもどる
第7の不思議
出来事の舟は時間と確率の水域を進む?

 第6の不思議で出来事を(実現)確実性という視点からとらえましたが,そのような視点からとらえるとき,出来事は9種類のものとしてとらえられます。

 時間は川の流れのように未来(川上)から流れて来て,現在を通って過去(川下)へと流れて行きます。時間の流れに乗せた出来事という舟も時間の流れのままに私たち(話者)に近づき,そばを通って去って行きます。初め予定・予想であった出来事も,やがて現実世界に実現し,その後記憶の中を遠ざかって行きます。(図1参照)
 私たちがこの時間の流れの上に浮かべる出来事の舟には,次の3種類のものがあります。
絶対確実に生起する出来事 (確率100%)
生起するかもしれない出来事 (確率50%)
絶対に生起しえない出来事 (確率0%)
たとえば,
' 「ごはんを食べ終わる」という出来事は泣いても笑っても100%確実に生起します。
' 「来週の日曜日は晴れる」という出来事は50%(実際は1%から99%の間のどこか)の確実性で生起します。
' 「私は本物の鳥になる」という出来事は 0%の確実性で生起します。(つまり絶対生起しません。)
 このことをモデル図を使って示せば,図2のようになります。川のなかに,確実性100%の流れ,50%の流れ,0%の流れという三筋の流れがあって,出来事の舟はそのいずれかの流れに乗ることになります。
 たとえば,図中の「出来事X」という舟は過去の0%の流れに乗っています。このことはこの舟が「きのう太陽が西から昇った」のような実現しなかった出来事であることを意味しています。

 「出来事Y」は未来の50%の流れに乗っていますから,「今度のコインは表が出る」のような,時間が現在になっても生起するかどうか分からない出来事であることを意味しています。(この図示では「出来事Y」の舟は「現在」の100%の水域に向かっていますから,この出来事は実現することになっています。)

 このように図示してみると,9つの異なる水域があることが分かります。これを明確に図示すれば,図3のようになります。「未来100」「未来50」「未来0」「現在100」……のような9つの水域になります。

 私たちはこの水域のどこかに出来事の舟を浮かべて話をしています。(ただし,繰り返される出来事については別の表し方をします。今回は扱いません。今回は「現在」から時間的距離の計れる1回的な出来事を扱っています。)
 そして,出来事の舟が通るコースとして7つのコースが見いだされます。図4にはA〜Gの7つのコースがあり,そこを通る「出来事A」から「出来事G」までの7そうの舟が示されています。
 たとえば
Aのコースは 未来100→現在100→過去100 を通るコースで,
「出来事A」は「夜が明ける」のように絶対確実に生起する出来事が実際に生起して過去になったことを表しています。「(6時ごろ)夜が明けた」という表現になります。
Cのコースは 未来50→現在50→過去100 を通るコースです。
「出来事C」は「彼が来る」のような生起するかどうか分からない出来事の通るコースの一つで,発話者は彼の来た時点ではそのことを知りませんでしたが,今は彼が来たことを知っています。「(きのう)彼は来た」という表現になります。
Dのコースは 未来50→現在50→過去50 を通るコースで,
「出来事D」は「雨が降る」のような生起するかどうか分からない出来事が,生起したかどうか発話者にとって確信がもてないまま過去になったことを表しています。話者は確信がもてないので,たとえば「(ソウルでは)雨が降った」だけでは済まずに,「たぶん」とか「かもしれない」などをつけるのがふつうです。
 では,[Eのコース]未来50→現在50→過去0 を通った「出来事E」はどんな出来事といえるでしょうか。考えてみてください。
※これは「彼が来る」のような生起するかどうか分からない出来事について,発話者は彼の来るべき予定の時点では来たかどうかを知りませんでしたが,今は彼が来なかったことを知っています。出来事そのものは「彼が来た」ですが,このまま表現すれば,ウソということになります。
 0%の水域での出来事そのものを表現すればウソになります。この水域にあるときの実際のウソにならない表現は「彼は来なかった」という形になります。(しかし,そう表現するとき,「彼が来なかった」出来事と見れば過去100の水域にあることになります。……ちょっとくどいですが。)
Bのコース 未来50→現在100→過去100 や
Fのコース 未来50→現在0→過去0 や
Gのコース 未来0→現在0→過去0 についても考えてみてください。
※Gのコースは絶対にありえないことを表しています。「出来事G」は未来の水域にありますから,「私はあしたスーパーマンのように空を飛んで学校に行く」のような文になります。もし過去の0%に移動したら,「私はきのうスーパーマンのように空を飛んで学校に行った」のような文,要するに,ウソということになります。
 私たちはあまり意識していませんが,出来事の舟をどこかの水域に浮かべて話をしています。聞き手はその舟がどこにあるのかをほぼ間違いなく把握します。

 上の図3は,話し手と聞き手が共有している便利な水域図です。この水域図を使っていろいろな発話内容の位置を確認してみてください。(ただし,繰り返される出来事については別の扱いとなります。)

 なお,上では「水域」という用語を使用しましたが,これは「時域」という語に置き換えてもよいでしょう。
「第8の不思議」へ