中竹俊彦 遊び部屋(I) 自然シリーズ (00 I-2) 生物 (1)シジュウカラ

鳥の世界(1) シジュウカラ(四十雀) 2008.8.30

                                      中竹 俊彦

前書き

 八王子に高尾山という山がある。私は山・川のある土地に住みたいと思うこと東京オリンピックの年からはるかに時を経て、その高尾山が間近に見える場所に昭和60年から居を構えて23年、いま、虫や鳥や花、そして木々のある風景に溶け込んで生活中。

 職場を定年退職後、私はその八王子から「 八王子だより 」を子どもたち、孫たちへ向けて発信。生きものたちが「生きる」ということの意味を私なりの観察で記録し、考えをめぐらして来た。インターネットという仮想空間に定着するとは思えないが、生き物の画像や私の考え方がどのように映し出されるのか、試していこうと考えて、しばらくの間でしかない「根無し草」のような頁を展開することにした。

 「八王子便り・7月の「シジュウカラ特集号(H.20.7.18.)」

 2008(平成20)年7月6日、我が家のベランダに設(しつら)えたシジュウカラ仕様の巣箱(画像1)に首尾よく産卵の9個のタマゴ(画像2)。また、リビングの窓から外に約6、7m離れた所に栃(トチ)の木(画像3)があって、そこには昨年「ヤマガラの営巣実績」がある巣箱を掛けてみた。

(画像1) シジュウカラ仕様の巣箱(出入り口の直径は27ミリ) (画像2) 9個のタマゴ(親鳥はこの時期まで暖めていない)
 画像2に9個見えているタマゴは、全部産み終わってから抱く(抱卵する)ようにしているらしく、約20数日後にはヒナが「全部勢揃い」できるということになる。

 つまり、受精卵という次世代の生命体は、外気温だけで1週間は生きている。親鳥はそういう気温の時期に産卵するという意味になる。

 画像3の窓から見える栃の木の巣箱には昨年はヤマガラが営巣に来て、今年はヤマガラではなくシジュウカラが来た。約1週間遅れで2家族のシジュウカラを観察することになった(08.4.24撮影)。

 昨年のヤマガラ(2007)のヒナ達は無事に巣立っていったが、育つ途中で巣箱の中を観察することはできなかった。

 今年のシジュウカラも巣箱の中を観察することは出来ないので、観察のために上記のベランダへも2個めの設置となった次第。

 さて、心待ちすること20数日後、タマゴの殻をくわえて出て行く親鳥の姿を見て、ヒナ達が孵化したことが分かった。

(画像3) 栃の木に今年はシジュウカラ、昨年はヤマガラ
画像 上段 4-5

    下段 6-7

 巣箱の屋根をそっと開けてびっくり。巣の中央部に、シュロ糸と犬の長い毛で丸く囲んだ中には、こんもりと産毛の生えたヒナの山。 さらに、驚きは「ほとんど一斉にヒナが孵化していたらしい事実」があり、それはヒナの皆が同じような大きさであること。つまり、産卵が全部済んでから抱卵すると、全部が同じ時期に孵化できるという画像2からの結論は正しいらしい。

 ヒナには生まれ順とか、早いもの勝ちというような生存競争が許されていない。ヒナの顔が向こう向きになっているのは、お腹一杯の証拠で、黄色い口をこちら向きにして(画像4、5、6)、巣の入り口側から見えているのは、次のエサをもらう優先順位。これで、親鳥はエサをヒナの自主性に応じて与えるので、全部のヒナが平等に育つということになる(画像4−7)。

 これはきっと、巣立つ時期が全部同じ日になるという予測、予感が湧いてくる。つまり、ヒナが競争でエサをもらうならば、早く生まれたタマゴのヒナが生き延びるだけになる。そういう自主的な行動の約束は、なぜ生まれつきの習性として身についているのだろうかということが観察としては大事な点。

 

 生真面目なシジュウカラなどとは全く逆に、カッコウとホトトギスの仲間は、ウグイスやヨシキリなど他の鳥の巣に親鳥が託卵し、わざわざタマゴを1個盗んで捨てる。生まれたカッコウやホトトギスのヒナは、彼らもまた自分の目も開かないうちから、他のウグイス、ヨシキリなどのヒナや残りのタマゴを自分で背負い上げて、巣から外へ捨てるので「悪魔の子」と呼ばれたまま、渡り鳥として生き続け、夏の林や緑の森の湖畔の陰から特徴的な鳴き声を響かせる。
 画像8は巣立ちの前日、この日までは「体の方向」が向こう向きとこちら向きに2通りで育ってくるが、餌をもらったら後ろ向きになり「糞」をしてから眠る。互いにエサの順番に向きを譲り合っているだけ。ヒナ鳥が平等に、順番に向きを変える証拠が、自然をよく知った観察でならば読み取れる。親鳥は2、3分おきにエサを運んでくる。

 一方、シジュウカラの「巣立ちの朝」は、ある好天の朝、突然のように決まる。親鳥が巣箱の中にエサを運ばず、外で鳴き声を響かせる行動になる。

 ついにその朝がやってきた。全員が緊張の表情で巣箱の出口を見詰め、「新世界」へ飛び出す順番を待つ(画像9)。

画像8 上のヒナから順に、エサをもらえるはず
画像9 全部のヒナが順に位置を占めて、巣立ちの体勢に
 画像9のヒナたちは、全員がこちら向きになって、巣立ちの準備態勢がヒナたちの決断で決まる。一斉蜂起(いっせいほうき)とは蜂の「攻撃態勢」だが、同じ様にヒナの巣立ちは、居残りがそのまま死を意味して許されないのか、全員が順に飛び出さないと「飢え死に」となるかもしれない。出口に殺到すると塞がって死の危険があるから、これも順番に譲り合って、全員が数秒ごとに飛び出す。黒いヘルメットと黄色いマフラーは、「特攻隊員」さながらである。

 親鳥が外で餌をくわえたまま、これまでにない程の「緊張した声かけ」を繰り返し、「カラス」や「ヘビ」の襲撃を見張っていて、2分間くらいで全員が飛び出して巣立ちを完了する。

 カラスなど天敵がいる自然界との戦闘開始の様な、緊迫した状態から3分間続いた。

画像10 頭隠して、腹隠せず?(出窓から)  画像11 空き巣になったマット上に忘れ物 画像12) ドングリとマット面積の大きさ
 巣立ち直後のヒナたちは、それぞれが勝手に飛び回っているように見えるが、じつはそうではなく、「カラス」という天敵に捕まらないように、素早く木の葉の茂みに隠れる必要がある。

 自然界とは言え特攻隊員ともなれば、「決死の覚悟」でカラスなどの天敵を避ける隠れ場所を自力で「確保」する。育ちが少し遅れたヒナが最後に出てきて、飛び回ることをせず、巣箱の前で息を切らせている(画像10)。

 3分後の空き巣は、身軽になるために「糞」が3個だけ残されていた(画像11)。きっと、糞の落し主の3羽は、最後のエサをもらって直後に、巣立ちしたらしい。というのは、巣を清潔に保つために、ヒナの糞はエサをもらった直後に向こう向きで出す。親鳥は糞をくわえて、次のエサ探しの前に巣から捨てる。したがって、巣箱の中に「忘れ物」のように糞があるのは、親鳥が巣立ちの日に見張りが忙しくて巣の中に入らず、掃除できなかったことによる。

 これら最後の行動を親鳥が確認して、しんがりのヒナの最初の止まり木を見届けると、すぐに巣箱を覗きに来て、全員が巣立ったことを確認する。おそらく数を数えられないので、ヒナ鳥の声を聞いて居場所を確認し、親鳥が移動を開始すると、全部のヒナが親鳥の後を追って、ケヤキの大木の茂みへ移動していった。そこはケヤキの小枝が多くて、カラスが追ってこられない茂みで、シジュウカラなどの小鳥の新天地であり、自由な行動範囲になる。

 巣箱をかけた私・「家主」としては、巣箱を掃除し、出した巣のマットの上に大きさの比較としてドングリを置いてみた(画像12)。ドングリの大きさはヒナの頭大。タマゴ、ヒナ、そして糞などの「大きさのメヤス」になるのかな。9羽の巣立ちは「栃の木」の巣箱でも期待できるのか(次号に続く)。

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