高橋良副部門長の研究グループの研究成果がJournal of Investigative Dermatologyに掲載

 本学大学院医学研究科共同研究施設フローサイトメトリー部門 副部門長 高橋 良 講師、同部門長・皮膚科学教室主任 大山 学 教授らの研究グループの研究成果が、皮膚科学研究領域のトップジャーナルであるJournal of Investigative Dermatologyに掲載されました。急速進行性広汎性円形脱毛症における治療(点滴静注ステロイドパルス療法:パルス療法)への抵抗性と関連するリンパ球のサブセット(集団)を新しく同定したという内容の研究で、得られた知見はこれからの重症円形脱毛症の診療での活用が期待されます。

高橋講師は

「これまでCD8陽性T細胞が自己免疫性の円形脱毛症の病因とされていたが、本研究成果により治療ターゲットをさらに絞ることが可能になることが示唆されました。今後は、最近重症円形脱毛症の治療薬に適用されている経口JAK阻害薬の治療応答性・予後と相関する因子の探索にも役立てたいです。」

とこれからの研究への抱負を述べています。さらに高橋講師は

「本研究は私が所属する共同研究施設フローサイトメトリー部門のフローサイトメトリーを用いて研究を行いました。フローサイトメトリーはシングルセルレベルで多項目の情報を、瞬時に客観的・統計学的に取得出来ます。多くの先生のご研究に当部門のフローサイトメトリーを活用していただければと思います。」

とコメントしている。


細胞障害性CD8陽性TEMRA細胞は重症円形脱毛症の難治性に関連する

概要

 円形脱毛症は、主に免疫細胞のうちnatural killer group 2 member D(NKG2D)陽性CD8陽性T細胞が過剰に活性化し、成長期毛の毛球部に発現する自己抗原を標的とする自己免疫応答により脱毛が生じる疾患です。急速に脱毛症状が広範囲に生じる重症例ではステロイドを短期間に点滴静注するパルス療法(以下パルス療法)が行われています。しかしながらパルス治療が有効であったかを評価するには数ヶ月と長い期間を要するため、経過観察中の患者さんの不安は大きなものがありました。

掲載論文

Journal of Investigative Dermatology 144: 1654-1657.E7.

論文タイトル:Increase in CD8+ Effector Memory T Cells Re-Expressing CD45RA Correlates with Intractability of Severe Alopecia Areata

筆 者:Ryo Takahashi1, Misaki Kinoshita-Ise2, Yoshimi Yamazaki2, Masahiro Fukuyama2, Manabu Ohyama1,2
(1.
大学院医学研究科共同研究施設フローサイトメトリー部門, 2.医学部皮膚科学教室)

DOI: doi.org/10.1016/j.jid.2024.01.006

 

研究成果

 本研究では、末梢血中のT細胞の量的・質的な変化を、研究代表者が所属し管理運営を行っている「フローサイトメトリー」と呼ばれる最先端の細胞解析装置で詳細に解析した結果、患者末梢血液中に存在するCD8陽性T細胞の特殊なサブセットのTEMRA(Terminally differentiated effector memory T cells re-expressing CD45RA)が、パルス療法に対して抵抗性を示す難治性の円形脱毛症患者さんの末梢血中で増加していることを明らかになりました。

 CD8陽性TEMRA(以後TEMRA)は、最終分化したT細胞で、細胞膜に孔を開けるパーフォリンやセリンプロテアーゼのグランザイムBといった細胞溶解たんぱく質を保持している細胞障害性T細胞集団(CTL: Cytotoxic T-Lymphocyte)のひとつです。パルス療法抵抗群で増加しているTEMRAは、毛球部に発現する自己抗原のトリコヒアリンに特異的に反応することが機能解析でわかりました。さらに、パルス療法抵抗群の病変部の組織標本を用いた解析でもTEMRAが集積していることがわかり、末梢血液中の同じリンパ球の集団の比率と正の相関性がみられました。本研究は、パルス治療前に末梢血液検査でTEMRAの頻度を調べることで、治療反応性の客観的な予測が可能になることを示唆しています。

図1 パルス療法抵抗群患者末梢血および病変組織でTEMRAが増加している(高橋 良副部門長らの研究グループによる研究成果「細胞障害性CD8陽性TEMRA細胞は重症円形脱毛症の難治性に関連する」Journal of Investigative Dermatology 144: 1654-1657.E7. 図は新規作成)

図1 パルス療法抵抗群患者末梢血および病変組織でTEMRAが増加している

A: フローサイトメトリーで測定した患者末梢血CD8陽性T細胞中のTEMRAの頻度

パルス療法開始前から治療経過中にわたってTEMRAが有意に増加していた。

 *P < .005, **P < .05

B:パルス療法抵抗群患者病変組織に集積しているTEMRA

青:CD8陽性細胞 赤:NKG2陽性細胞(TEMRA

図2  マルチカラーフローサイトメトリーを用いたTEMRAのt-SNE解析の一例(高橋 良副部門長らの研究グループによる研究成果「細胞障害性CD8陽性TEMRA細胞は重症円形脱毛症の難治性に関連する」Journal of Investigative Dermatology 144: 1654-1657.E7.図は新規作成)

図2  マルチカラーフローサイトメトリーを用いたTEMRAのt-SNE解析の一例

パルス療法応答群と抵抗群でTEMRAのクラスター分布が大きく異なっている。当部門で運営している日本BD FACSCanto IIフローサイトメトリーで測定し、FlowJo ソフトウェアで解析した。


用語解説

急速進行性広汎性円形脱毛症:

典型的には後天性に類円形の脱毛斑を生じる疾患が円形脱毛症ですが、その重症型のひとつとし急速にほぼ全頭に脱毛が生じることがあり急速進行性広汎性円形脱毛症と呼ばれています。

点滴静注ステロイドパルス療法:

点滴静注ステロイドパルス療法は、発症後 6 カ月以内で、急速進行中の頭部全体の面積に占める脱毛巣面積の割合が25% 以上〜全頭まで至っていない症例には治療の選択肢の一つと考えられています。

CD8陽性TEMRA:

CD8陽性ターミナルエフェクターメモリーCD45RA陽性T 細胞 (Terminally differentiated effector memory T cells re-expressing CD45RA)は、生来のシグナルに対する感受性の増加、T 細胞受容体 (TCR) 依存性活性化の低下、および TCR クローン多様性の低下を特徴とし、特に高齢者で増加しているCD8陽性Tリンパ球の集団です。 CD8陽性TEMRA細胞集団における膜受容体CD28、CD27、CD127の喪失、CD45RAの再発現、および疲弊マーカーPD1の発現は、いくつかの要因によって引き起こされると考えられています。

細胞障害性T細胞:

CD8陽性リンパ球T細胞のうちのひとつで、宿主にとって異物になる移植細胞、ウイルス感染細胞、癌細胞などを認識して破壊します。

皮膚科学教室の詳細はこちら(https://www.kyorin-u.ac.jp/univ/user/medicine/derma/)をご覧下さい。

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