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学部の基本理念
学部長 干葉洋

さまざまな社会現象の本質をみてゆく場合には、それを育んだ風土にまでさかのぼっての総合的・学際的な視野に立った、多面的・多角的な把握・検討が必要である。

勘定の学ともいわれる簿記においては、ほとんどすべての記録や計算が勘定形式を用いて行われる。この勘定形式による計算方法が加算のみをもって終始している所以は、あながちそれを育んだヨーロッパの風土と無縁ではなかろう。またコンピュータではすべての演算が加算のみによって行われている。因に9マイナス7という場合、まず7の補数3加算によって求める。ついでこの補数39を加えて12を求め、その下1桁をとって答え2を算出するといったプロセスを経る。すなわちコンピュータにおいては、加算はむろん減算、乗算、除算すべての計算を加算回路のみで演算処理している。これもコンピユータの原理の構築がバベッジ以来ヨーロッパで培われたことと無関係ではないはずである。

果たして勘定形式による記録・計算方法は、かつて大福帳に馴染んでいた我が国の会計風土に真の意味で定着しているであろうか……。もしコンピュータの原理が、減算思想に則った、たとえばソロバンが定着していた我が国で構築されていたとしたら、因みにどのような演算システムのコンピュータが稼働していたであろうか……。

私は異文化のさまざまな社会現象を真の意味で、吸収・導入するためには、ものごとの本質をそれぞれの生い立ち、強いていえば風土にまでさかのぼっての総合的・学際的な視野に立った、多面的・多角的な把握・検討が必要である、と考えている。重ねていえば、社会科学の各分野における学問を学ぶためには、そこに含蓄されている本質的な意味合いを探るために、それぞれの社会現象が培われた風土にまでさかのぼっての総合的`学際的な視野に立った、多面的・多角的な把握・検討を行う、というアプローチが求められる筈である。

こうしたアプローチの意義および必要性を充分に理解し、かつ積極的に進め得る人材を育むことを学部の基本理念として創設された、われわれ社会科学部はこの4月で19年目を迎えた。これまでの18年間、当学部が目標として掲げてきた社会的使命は充分果たしてきたし、これからも果たし続けうるものと確信している。しかしながに昨今における少子化の問題や大学への社会的要請の急激な変化などに充分対応すべく、より魅力のある学部にいち早く展開・改変することを余儀なくされつつあるのも現実である。  

時代の大きな流れのなかで、守るべきものは断固として守りつつも、社会の要請の変化や二ーズには敏感に対応し、改変すべき事項、タイミングに躊膳があってはならない。それ故、当学部のすでに述べたような創設の基本理念・意味内容を世に的確に表現し、アピールするためには、かかる学問分野を「総合政策」と位置づける傾向がより強まったこのところの動向を鑑み、この4月から学部名称を『総合政策学部』と改称することとした。その際、これまでの総合的、学際的な学部の特性を一段と強化し、政治、経済、経営、法律、行政などの分野に加えて、あらたにITおよび医学部、保健学部を擁する杏林大学がゆえに設置可能である、環境、福祉といった分野をも包含したより器の大きい学部として再編し、カリキュラムの強化をも図ることとした。

とはいえ学生ひとりひとりが、自らの個性に相応した柔軟かつ個性豊かな専門分野や知識を、自らの力で確保できる能力が身につく教育を目指すという、これまでの学部の基本的な教育理念や、また、.冨畠目8を畠目.、といった手作りの教育を目指した理念などには、いささかの変更も存しない。蓋しこれこそがまさにわれわれがこれまで培ってきたという自信と誇りを持っている学部としてのアイデンティティに他ならないからである。

この4月で、19年目の社会科学部を、またこれを発展的に展開した学部である、『総合政策学部』元年を迎えた。激変しつつある社会的要請に応え、さらなる発展をすべく、われわれは一丸となって適進してゆく覚悟である。しかしこうしたわれわれの願いや覚悟も、ご父母の皆様のご支援なしでは、その達成は考えられない。

是非とも皆様の暖かいご支援をお願いする次第である。

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