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中高年を健やかに過ごすためには
学長 長澤俊彦

「この世をばわが世とぞ思う望月の欠けたることもなしと思えば」と詠んだ摂政藤原道長(9661027)は、水を沢山飲まずにはいられないことから、当時は飲水病と呼ばれた糖尿病に罹り、晩年は失明、心臓と腎臓の合併症などに悩まされました。また、平安時代にお金を儲けた高利貸しの女性が、著しい肥満となり、両わきを侍女に支えられてやっと歩いている絵が「病草紙」にみごとに描かれています。

最近、日本は世界一の長寿国になりましたが、生命科学の進歩した今日でも、きんさん、ぎんさんは例外で、寿命は百歳が限界です。このような時代に生きている我々だれしも念ずることは、ずっと元気に寿命まで生きることです。言い換えると、年金をもらう、介護保険の世話になるよりは、年金や介護保険の税金をいつまでも払う立場で老後を過ごしたいと思うことです。

昨年亡くなった英国のエリザベス皇太后は、第二次世界大戦の時は激しい空爆下ロンドンにとどまって、市民を激励し、戦後は百歳の寿命を全うされた最後の数日前まで民衆の前に立ち、短い期間で眠ることがごとく往生されました。欧米では、このような生き方が理想とされています。しかし、現実は多くの人は若い頃からいろいろの病気で悩まされます。先進国で最も起こる頻度の高い病気が、ちょうど御父母の皆様の年頃に当たると思いますが、40歳代後半から50歳代前半にかけて起こってくる高血圧、肥満、糖尿病、高コレステロール血症、肺気腫など、若い時からの生活習慣のつけがまわってくる生活習慣病とまとめて呼ばれる病気です。

これらの病気が長く続くと、さらに心筋梗塞や脳梗塞・脳出血、肺癌などの生命を脅かす病気が起こります。また直接生命の危険はありませんが、閉経期以後の女性に多い骨粗覆症(背骨や大腿骨頭などの骨折を起こして、寝たきりになる)など、「生活の質、QOL」を著しく低下させる病気もあります。これらの病気の人数はおよそ、日本全国で高血圧症は2000万人、糖尿病で治療を受けている人は600万人、50歳以上の女性の骨粗鬆症600万人といわれています。これらの病気にならないことは、個人的には長寿につながり、医療経済的にもメリットがあります。ちなみに、一年間の日本の医療費総額は30兆円で、その3分の1は生活習慣病の医療費が占めています。

さて、このような生活習慣病に罹らないように予防するにはどうしたらよいでしょうか。結論から申しますと、(1)成人を対象とした健康診断を毎年きちんと受けること、(2)表に掲げたブレスローというアメリカの医師が30年以上も前に報告した7つの健康習慣を毎日実行することにつきます。(3)そして、検診で何か異常が見つかったならば、掛かり付けの信頼している医師に早く相談することです。アメリカのマイヤーという医学者が皮肉たっぷりに『亭主を早死にさせる十箇条』として(1)夫を太らせる、(2)酒を沢山飲ませる、(3)夫をいつも座らせておく、(4)動物性の油やバターを沢山食べさせる、(5)塩分の多い食事を毎食出す、(6)コーヒーをがぶ飲みさせる、(7)煙草をホイホイ吸わせる、(8)夜更かしをさせる、(9)息抜きの旅行などさせない、(10)いつも文句ばかり言っていじめる、を挙げています。これには「この十箇条と正反対のことをやって亭主も自分も長生きしよう」との意味が込められています。

個々の生活習慣病の予防と治療の各論については述べる余裕がありませんので、「生活習慣病のしおりー2000、目標値、目指して作る自分の健康」(社会保険出版社、1200)、「生活習慣病講座-循環器疾病を防ぐために」(南江堂、2300)、「骨粗鬆症別冊NHKきょうの健康」(日本放送出版協会、1000)などの書物を御参照下さい。

(去る61日社会科学部・総合政策学部の杏会総会の時に行った講演の内容の骨子をまとめたものです。)

生活習慣病を予防する7つの健康習慣

・適正な睡眠時間を確保する  
・喫煙をしない
 
・適正体重を維持する
 
・過度の飲酒をしない
 
・定期的に運動をする
 
・毎日朝食をとる
 
・間食をしない


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