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2016/10/20
【学生取材班がゆく】GCPロゴの生みの親に聞くブランディング・デザインの重要性

 グローバルな人材の育成を目指す杏林大学のグローバル・キャリア・プログラム(GCP)。このたびGCPでは、新しい試みとして、「社会の第一線で活躍されているプロフェッショナルな方を学生達が訪問し、突撃インタビューを(不定期に)行う」、という企画を立ち上げました。

 その記念すべき第一回として学生達が訪問した相手。それは数多くのクライアント企業のブランディング・デザインやロゴ・デザインを手がけてきたデザイナーであり、GCPロゴの生みの親でもある小野圭介さんです。
 小野さんは製品や企業のブランディングを手がける世界的な企業、
ランドー・アソシエイツ(Landor Associates)社でシニア・デザイナーとして勤務。誰もが知っている日本郵政(JP)やバンダイナムコのロゴ・デザインなどをご担当された後、2012年に独立。現在はONO BRAND DESIGNの代表をされています。以下ではGCPの学生による小野さんへの取材結果を報告いたします。

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 杉並区の閑静な住宅街を歩いていくと、突然一軒の白いお洒落な建物があらわれた。その壁をみると、「ONO BRAND DESIGN」という、これまたお洒落なロゴが表示されていた。そう、ここは今回取材をお願いしている小野さんのオフィスだ。以下ではGCPのロゴの生みの親であるデザイナー、小野圭介さんへの取材結果の一部始終を報告したい。

― 本日はよろしくお願いします。早速ですが、まず小野さんご自身のことについて少し質問させて下さい。小野さんはいつ頃からデザイナーの道を意識しはじめたのでしょうか?

 グラフィックや写真といった平面のものに興味を持ちはじめたのは中学の終わり頃でしょうか。イラストを書いて友達に見せたら褒められたりして、それが嬉しかった、という思い出があります。職業という意味で意識しはじめたのは高校3年生のころです。大学の付属高校に通っていたのですが、3年生になって大学の学部を選択する際、デザインを学べるという理由で建築学科に進みました。
 ただ、建築学科に入学した当時はデザインと建築、どちらの仕事に進むか、正直まだ迷っていました。最終的には、街中のお店やスーパーなどで一般の消費者が普通に買うようなもの(のデザイン)に関わる仕事をしたいという想いが次第に強くなり、デザイナーという道を選びました。

― 大学の建築学科では何を勉強されたのですか?

 意匠デザインを中心に勉強していました。ただ、2年生ぐらいまでは一般教養も勉強しつつ、発想力を鍛えるためのアートの課題などにも意欲的に取り組みました。覚えているのは「光の箱」という課題。光と箱で何かを表現するという課題だったのですが、光をソーラーパネルで受けて電気で表現する、といった作品を制作した記憶があります。当時は今より忙しかったかもしれないですね(笑)。週に2、3回は徹夜でした。 

― 衝撃的な影響を受けたデザイナーはいますか?

 います。ソール・バス(Saul Bass、1920-1996)というアメリカのグラフィック・デザイナーからは特に大きな影響を受けました。ロゴのデザインもすごいし、映画のタイトルバックなんかのデザインもしていました。彼の作品集を大学の図書館で見つけて、時代的には古いんですけど、「生活を楽しくする心」みたいなものがデザインに込められていたんです。こういうのをやりたいな、と思いました。

― デザイナー以外に興味を持った職業はありましたか?

 もともと小さい頃から本を読むことが大好きで、文章を書くことも好きでした。だから文章を書く仕事は今でも憧れているんです。先日、「ロゴデザインの現場」という本を出版しました。デザインの仕事をしながら文章を書く、ということを初めて両立することができました。いつか小説やエッセイも書いてみたいですね(笑)。

― 「デザインする」という作業と「文章を書く」という作業。この2つの作業になにか共通項はありますか?
 あると思います。「相手に伝える」ために何度も推敲を重ねる、冒頭で驚かすなど色々な仕掛けをほどこす、要素を引いたり足したりしてみる、というプロセスを経るという部分なんかはデザインも執筆も同じですね。

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― ありがとうございました。非常に根本的な質問となってしまいますが、いわゆる「アート」と「デザイン」の本質的な違いとは何なのでしょうか?

 デザインは「実用的」で「消費されるもの」であり、「目的を達成するため」に存在します。究極的には、役割が終われば、捨てられたり忘れさられたり、ということがあっても良いものです。アートとは違い、目的次第では「あえて美しくないデザイン」、「オシャレでないデザイン」というものもありなんです。スマホのように先端技術のものを売るときにはクールさが大切ですが、たとえば安売りスーパーのチラシでクールさを追求しすぎると、逆にお客さんに逃げられてしまいます。目的に応じてどんなデザインが適しているのかを判断する。デザインとは「人と人との距離感の調節装置である」とも言えます。どういう化学反応を起こしたいか、ということを考えてデザインすることが大切なんです。

― 非常に深いお話ですね。つぎに、企業価値を高めるうえで「ブランディング」や「ロゴ・デザイン」が重要な役割を果たしている、と言われています。これはどういうことでしょうか?

 企業のブランドとは、その企業が提供する商品やサービスのみならず、従業員の接客態度、おもてなし、身だしなみなど多様な要素によってイメージが形成され、お客様の記憶のなかに蓄積されていきます。お客様の信頼を裏切るような不祥事などが起き、良いイメージが一度でも崩壊すると、ブランドを立て直すのは非常に困難な時代になっています。ロゴ・デザインは、とくにビジュアル面からのコミュニケーションを担当し、ブランドイメージを蓄積する記憶の器といえるのではないでしょうか。

― すでにイメージが確立された商品のデザインと、新商品のイメージを確立するためのデザイン。どちらが難しいですか?

 難しい質問ですね。たとえばコカ・コーラという商品は、すでにイメージが相当確立されています。このような商品は、新しいデザインを展開するのが非常に難しいわけです。変化が小さいと消費者は気づかないし、変化が大きすぎると「これ違うよね」と納得してもらえない。よく知られたブランドであればあるほど、「変化のさじ加減」をコントロールするのが非常に難しいわけです。一方、まだイメージが確立していない新しい商品のデザインも簡単ではありません。クライアントとやりとりする中で、まず「こういう方向性で」というイメージをキーワードなどで共有し、調整するところから始まります。試行錯誤しながら、イメージを一歩一歩カタチにしていくしかありません。お店に出さないと消費者の反応がわからない部分もあるので、これも難しいですね。商品のテスト期間を設けることも非常に大切です。

― ということは、デザイナーにもマーケティングの知識は要求されるのでしょうか?

 専門的な知識はともかく、基本的な知識に関する理解は必要とされていますね。ブランディング・デザインはそもそもマーケティングの視点を礎にした分野と考えています。

― GCPではCritical Thinkingという授業が用意されています。そのなかで、「良いアイディア」の概念や「良いアイディアを生み出すプロセス」に関する検討も行っています。小野さんにとって、良いアイディアを生み出すうえで大切なこととは何ですか?

 試行錯誤を重ねることが大切です。納得できるデザインが完成しても、疑ってみる、別の案もつくってみるなど、多面的な検証が必要です。ベストかどうか、検証なしに断言することはできません。そういう意味で、一夜漬けは良くありませんね(笑)。学生時代は一夜漬けもしましたが、検証が不足し、翌日に見返したら後悔したり、良い評価がもらえなかったり、ということが多かったです。検証や改善には時間が必要なんです。自分のアイディアに惚れすぎず、違う観点から考えてみることが重要です。このことは、以前勤務していたランドー・アソシエイツ社で身につけました。デザインの案についてクライアントから突っ込まれた際、「別のB案とC案も検証したけれども、結果的にこういう理由でA案にした」と言えるかどうか、これは第三者への説得力を高めるという意味でも非常に重要です。

― なるほど。時間をかけた検証。これはデザイン以外の仕事についても言えそうですね。GCPのCritical Thinkingの授業のなかで学んだのですが、アイディアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」にすぎない、とよく言われています。Steve Jobsなんかも言っています。これは仕事でデザインを考案する際の思考プロセスにもあてはまるのでしょうか?

 そうですね。スマホも、自動車も、洋服も、すべてのものは既存の技術の組み合わせです。ロゴ・デザインに関して言うと、「記号のリミックス(新しい組み合わせ)」とも言えます。カタチのイメージ、色のイメージ、文字のイメージをリミックスして作っていく。既存の要素というと「パクり」という印象を持つかもしれませんが、「全く新しいもの」を一人のデザイナーがゼロから作る、などということはありません。社会で共有されてきた知識は、人類が積み上げてきたものです。アルファベットや漢字や色もそうです。こうした蓄積をベースに、自分でも新しい要素をつなげ、おもしろいアイディアが出せれば良いと思っています。

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― 小野さんにとって、良いデザイナーになるうえで必要な条件とは何でしょうか?

 言葉と造形と感覚をうまく橋渡しすることです。まず、自分がデザインしたものを言葉でもしっかりと説明できること。これが重要です。デザインの意図を言葉で説明できないと、クライアントに理解してもらえず世の中に出る前に「お蔵入り」になります(笑)。次に、言葉で説明できるだけではなく、感覚を大切にすることも重要です。デザインは人の感覚に訴えるための行為と言っても過言ではありません。説明することだけに囚われず、デザインでイメージを広げることが大切です。多くの消費者は、デザイナーが期待するほどデザインに注意を払っていませんが、いざ購入を検討する段階ではとても敏感です。そのような人の感性を刺激する「何か」をデザインに込めたいと思っています。

― デザイナーという職の魅力、デザイナーをしていて苦労する点は何でしょうか?

 魅力は自分の関わったデザインが世の中に出て、使われることですね。苦労ですが、自分は好きでデザインをしているので、嫌な苦労はありません。ただ、アイディアがでないとき、スケジュールの調整が難しいときなどは苦労します。

― ありがとうございます。最後に、GCPについておうかがいします。GCPという新しいプログラムの中身を知ったときの第一印象を教えてください。

 最初は単に英語を教育するだけのプログラムなのかな、と思ったんですけれど、そうではなく、グローバルに活躍する人材を育成する、というところが素晴らしいと思いました。それから、英語を用いて経営やマーケティングなどを教育する、というのも面白い試みだなと思いました。

― GCPのブランディングをされた際のこだわりのポイントを教えてください。

 ここだけの話し、ベースとなる色に関しては「青」というリクエストが大学の担当者側からありました(笑)。形状については、「ステップアップ」や「成長」など、人が伸びていく様子をイメージしました。そういうところが直感的に伝わると良いなあと思ってデザインしたんです。

― デザイナーからご覧になって、これからの時代に求められるグローバルなビジネス・パーソンとはどのような人材だと思いますか?

 自分は必ずしも英語が堪能というわけでも、グローバルに活躍してきたというわけでもありません。ただ、デザインのビジネスに関して言えば、相手の国の文化やマナーをきちんと理解できれば、言語を超えて仕事が成立します。有名なTwitterの青い鳥のロゴマークは万国共通で理解され、受け入れられやすいデザインになっていますよね。それから、グローバルなビジネス・パーソンは、相手の状況や立場を理解しながら、それでいて自分の国に対するプライドを持つべきだと思います。自分の国の風土や環境や文化を卑下せず、相手の国の良いものも受け入れるという姿勢が大切だと思います。

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― 最後に、GCPの学生に向けてメッセージをお願いします。

 GCPが提供するような学びの環境はなかなか他の大学にはありません。このカリキュラムのなかで興味の種をみつけ、将来の職業や仕事に対するイメージを膨らませていって欲しいなと思います。

― 頑張りたいと思います。本日はお忙しいところ取材にご協力いただき、ありがとうございました。

 デザイナーと大学生。立場や経験値は違えど、たくさんの気付き、学び、そして刺激を頂いた。1時間という短い時間であったが、たいへん密度の濃い、実り多き取材であった。小野さん、本日は本当にありがとうございました!
(第一回取材班:総合政策学部1年 碇大毅・長野駿希)

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