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理学療法学専攻 一場友実 准教授らが、慢性閉塞性肺疾患患者における吸気筋トレーニング後の横隔膜移動距離の変化と6分間の歩行距離の改善効果を実証:臨床試験 ― 呼吸筋トレーニングは末梢の因子の改善、臨床現場での呼吸筋トレーニング促進が期待 ―

2023年10月16日



研究のハイライト

  • 本研究では慢性閉塞性肺疾患患者の呼吸リハビリテーションに2ヶ月間呼吸筋トレーニングを併用すると、呼吸機能や呼吸筋力、横隔膜移動距離の改善、6分間歩行距離の延長などの効果が認められました。
  • しかし呼吸中枢出力の指標であるP0.1に改善は認められず、呼吸筋トレーニングの併用効果は中枢の因子の改善ではなく、末梢の因子の改善に起因するものであることが示唆されました。
  • 本研究は呼吸リハビリテーションプログラムの一つである呼吸筋トレーニングによる改善が末梢の因子に起因することを明らかにしたことに意義があり、この結果は、今後より的確な呼吸リハビリテーション介入方法の設定、効果判定の正確性に貢献するものと考えられます。

概要

保健学部 理学療法学科の一場 友実准教授を代表とする、高知リハビリテーション専門職大学学長 宮川 哲夫教授、霧ヶ丘つだ病院 津田 徹院長、高崎健康福祉大学 解良  武士教授、 鹿屋体育大学 安田 修教授との共同研究チームは、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者のリハビリテーションに2ヶ月間呼吸筋トレーニングを併用すると、呼吸機能や横隔膜移動距離の改善、6分間歩行距離の延長などの効果を認めたが、これは中枢の因子による改善ではなく、末梢の因子の改善に起因することを解明しました。

この研究成果は、より的確な呼吸リハビリテーション介入方法の設定、効果判定の正確性に貢献するものと考えられます。

研究成果はHeliyon誌の電子版に、2023年9月17日に先行公開されました。

掲載URL:https://doi.org/10.1016/j.heliyon.2023.e20079

背景

呼吸リハビリテーションにおける重要な問題の1つに、呼吸困難の軽減が挙げられます。現在、呼吸困難を感知するための最も一般的なメカニズムにmotor command theory があり、これには呼吸中枢出力が関与すると考えられています。この呼吸中枢出力の指標として、吸気開始0.1 秒後の気道閉塞圧 (P0.1) があります。以前我々は P0.1 を使用して、高齢者 COPD 患者においてリラクセーション肢位が P0.1 に影響を与えるか1)、また徒手を用いた呼吸介助法が P0.1 に影響を与えるかを調査しました2)。 これらの研究では P0.1 に有意差は認められず、COPD患者におけるリラクセーション肢位と呼吸介助法は呼吸中枢出力に関与しないことが示唆されました。ただし、呼吸筋トレーニング が P0.1 に影響を与えるかどうかの研究は行われていません。

また呼吸筋トレーニングが横隔膜の筋肥大を引き起こすことも報告されていますが、 COPD患者の横隔膜の動きを詳細に調べた研究は限られており、呼吸リハビリテーションと呼吸筋トレーニングの併用効果についても一貫した報告はありません。

この研究の目的は、呼吸中枢出力の指標であるP0.1及び超音波による横隔膜移動距離を使用して、呼吸リハビリテーションと組み合わせた呼吸筋トレーニングの効果を明らかにし、またその効果が中枢の因子によるものか、末梢の因子に起因するものかを解明することです。

研究概要

本研究はCOPD患者の呼吸リハビリテーションに吸気筋トレーニング機器であるPOWER breathe® Medic Plusを用いた呼吸筋トレーニングを併用し、効果を検討しました。機器の負荷量はトレーニング開始前に最大吸気筋力(PImax)を測定し、得られた PImax の 20% から開始し、その後負荷を 50% に増加しました。 呼吸筋トレーニングは 1日あたり30 回を2セットとして2ヶ月間実施し、チェックリストを使用して毎日記録しました。2ヶ月の呼吸筋トレーニング前後で呼吸機能、呼吸筋力P0.1、横隔膜移動距離、6 分間の歩行距離を測定しました。6 分間の歩行距離テストの前後に、末梢動脈酸素飽和度、心拍数、呼吸数、呼吸困難感および下肢疲労感を測定しました。これらの測定値は、2 分間のリカバリー期間中も記録されました。

結果として呼吸筋力、呼吸機能、横隔膜移動距離が改善し、さらに6分間歩行距離も延長しました。また歩行後のリカバリー1分後の呼吸困難・下肢疲労感、呼吸数も減少することが認められました。

研究の意義

 本研究は、COPD患者の呼吸筋トレーニングの実施により呼吸機能、呼吸筋力、横隔膜移動距離、6分間歩行距離などが有意に改善し、呼吸リハビリテーションに呼吸筋トレーニングを併用することは有益であることが明らかとなりました。しかしP0.1の改善は認められず、呼吸筋トレーニングの併用効果は中枢の因子の改善ではなく、末梢の因子の改善に起因するものであることが示唆されました。呼吸困難の改善が中枢の因子によるものか末梢の因子によるものか未だ明らかになっておらず、本研究は呼吸リハビリテーションプログラムの一つである呼吸筋トレーニングによる改善が、末梢の因子に起因するものであることを明らかにしたことに意義があります。

この研究結果は、今後より的確な呼吸リハビリテーション介入方法の設定、効果判定の正確性に貢献するものと考えられます。

掲載論文

発表雑誌名

Heliyon

論文タイトル

Changes in diaphragm thickness and 6-min walking distance improvement after inspiratory muscle training in patients with chronic obstructive pulmonary disease: Clinical trial

著者

Tomomi Ichiba1*, Tetsuo Miyagawa2, Toru Tsuda3, Takeshi Kera4, Osamu Yasuda5

著者(日本語表記)

一場 友実1*、 宮川 哲夫2 、 津田 徹3 、 解良 武士4 、 安田 修5

*責任著者

所属

1. 杏林大学 保健学部 理学療法学科 2. 高知リハビリテーション専門職大学 3. 霧ヶ丘つだ病院 4. 高崎健康福祉大学 5. 鹿屋体育大学

用語の解説、参考文献

*Motor command theory

運動野からの呼吸中枢出力は呼吸筋のみでなく,その情報のコピーが大脳の運動野にも投影されることにより呼吸困難を知覚するという説である。呼吸中枢出力が増加すれば呼吸困難が増悪するというもので,様々な理学療法場面におけるコンディショニングと関係があると言われており,現在もっとも支持されているメカニズムの一つである.

参考文献

1) T. Ichiba, T. Yamada, T. Miyagawa, et al. Efficacy of relaxation posture in patients with chronic obstructive pulmonary disease Respir. Care, 20 (2010), pp. 146-151

2.) T. Ichiba, T. Miyagawa, T. Kera, T. Tsuda. Effect of manual chest wall compression in participants with chronic obstructive pulmonary disease J. Phys. Ther. Sci., 30 (2018), pp. 1349-1354

研究内容に関する問い合わせ先

杏林大学 保健学部 理学療法学科 

准教授一場 友実(イチバ トモミ)

電話:0422-47-8000(代表)

E-mail:tomo330@ks.kyorin-u.ac.jp

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