中竹俊彦 リンパ球の世界(IV)-リンパ球形態の各部の意味-10.クロマチンの濃縮と核の固さ

リンパ球の世界(IV)

 リンパ球形態の各部の意味

10.クロマチンの濃縮と核の固さ

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 細胞が未分化な状態では、クロマチンが染色体(クロモソーム)への形成と分散クロマチンの間の状態を繰り返して分化しています。核のクロマチンは、核内に分散状態にみえるときが最も柔らかいはずです。細胞自体も非常に柔らかいので、私たちの細胞の取り扱いがいかに慎重であっても、塗末標本上に固定されるまでには、かなり壊れやすいものです。染色体の特定の位置にある遺伝子は、クロマチンが必要に応じて分散クロマチンになってから、2本鎖のDNAが開かれ、活性化(転写)されるはずです。

 成熟リンパ球は核のクロマチンがいったん活性化されて機能後、不活化されて塊状になれば、もはやその遺伝子は活性化されません。クロマチンの濃縮は粗大クロマチンとなり、これを含む核は球状で安定化し、核自体の濃縮も伴います。濃縮したクロマチンをもつ核は、細胞の性状としては核が固くなると思われます。末梢血にも核直径が8μm以下に濃縮したリンパ球があり、細胞質も極めて狭く、機能的には終了して、かすかに生きているとみられますが、末梢血リンパ球をトリパンブルーで染めて生きが悪いかあるいは、生死をみることができると思います。

 リンパ球は成熟リンパ球となって最終段階まで成熟して、血中に出て末梢血リンパ球として循環し、機能が付加された(ある意味の反応性)リンパ球、あるいは再循環しているものです。この段階ではある程度のクロマチンの塊があり、塗抹標本作製という物理的な力にある程度耐えられるだけの弾力性があると思います。

 しかし、循環中か再循環中の刺激によっては、リンパ節などに定着して特定のものは細胞分裂し、次の機能段階へ分化するはずです。細胞分裂周期に入るとおそらく合成期(S期)では最も柔らかくなるので、塗抹で壊れやすい状態が推定できます。

 核小体をもつ白血病細胞は「核影ができややすい」ことにも共通します。リンパ球の核影も核小体がみえやすい点で固さ(あるいは、柔らかさ)が関係している所見です。新生児や乳児の塗末標本には、リンパ球が多数の核影となって出現するのは、反応性リンパ球の柔らかさと壊れやすさのためだと考えられます。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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