中竹俊彦 リンパ球の世界(IV)-リンパ球形態の各部の意味(2007)-13.リンパ球の核小体数の増加

リンパ球の世界(IV)

 リンパ球形態の各部の意味

13.リンパ球の核小体数の増加

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 核小体の形成はNOR部分から始まるので、小さな核小体形成体が正常な細胞では5個までになることがあります。これが核小体の数の増加です。異常な細胞は、時には小さな核小体の状態で10個近く形成されるように観察されます。正常な細胞はこれらNOR部分に生じた核小体前駆体が核小体となって、互いに融合して次第に大型になります。

 正常細胞(例えば、赤芽球系)でも5個まで数えられる状態になることもあり、やがてその途中で融合して大きな核小体に成長していく様子が読み取れます。

 正常な細胞では核小体が5個までできるか、又は多くの例ではその途中で核小体の融合が認められます。核小体形成体が染色体の5対に分かれて乗っていると実際は10本の染色体上なので、核小体が10個できそうなのです。ところが、これらの染色体短腕部の付随体(サテライト:satellite)は、核内では引き合っていると思われます。というのは、染色体分析で行われるコルセミドによる紡錘糸切断後も、5種類の染色体は短腕部で引き合って、1対で逆向きになって2本の染色体どうしが縦に隣り合って存在しているという性質が残っているようなのです。

 この1対になる親和性が核小体の形成時にも発揮されると考えると、核内においても10本の染色体から5個の核小体が形成されるのは合理的なできごとだろうと思われます。隣り合っていて融合しやすいということは、それらの場所からできたリボソーム成分がセットになることに意味があるのでしょうか。

 末梢血リンパ球は、電顕像では小さい核小体を1個もつことが明らかで、多数のリンパ球が申し合わせた様に1個の核小体をもつことから推察しても、新しく動員されてきた末梢血リンパ球はセルサイクルの間期(gap:G)のG1に相当します。

 この事実は静脈血液に入ってきた、新しくて若いリンパ球が、すでにリンパ節ではG0を経て、正常な分化をしたことをチェックされてG1に移行し、リンパ節を離れて血中へと出てきたことを推定するのに十分な所見です。すなわち、血中へ新規に供給されてきた新生リンパ球は、血中でじかに、あるいはリンパ管に出て、次の刺激を受ける準備が整ったリンパ球であることが推定できます。

 その準備とは、核小体が1個、すでに形成されていて、リンパ球の細胞膜表面にサイトカインや免疫学的な刺激が伝われば、細胞質の刺激伝達経路で核に伝達され、直ちに核の遺伝子から「産物」を産生できるという「下準備中」の形態なのです。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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