中竹俊彦 リンパ球の世界(IV)-リンパ球形態の各部の意味(2007)-14.リンパ球の核小体大型化の背景

リンパ球の世界(IV)

 リンパ球形態の各部の意味

14.リンパ球の核小体大型化の背景

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 一方、核小体の数が異常に多い例を考えてみましょう。いま、核の倍数性が4倍体の異常細胞のとき、核は通常、細胞の2個分の核成分をもっていることになります。このような白血病が稀にはありえます。このとき核小体は10個までになるのかどうかです。さらには、異常な細胞が異数体(アニュプロイド:aneuploid)で、染色体の13〜15、21、22番のいずれかのリボソーム遺伝子を含む染色体数がトリソミー(trisomy)やテトラソミーになったときは、 核小体の数は6個以上になり、大小の不揃いな状態になりうるのかどうかです。恐らく、腫瘍細胞で認められるように核小体が6個以上のとき、あるいは異常に大きな核小体は、13〜15、21、22番染色体の異数性の高いときか、倍数性への停止機構がうまく利かないような異常な所見といえるものと思われます。その例は、正常な巨核球の核のAgNORを見ると、その数の多さに驚かされます(AgNORの画像;このシリーズ500を参照してください)。

 正常な核小体形成体は5か所で、それぞれに独立して5個以内で形成されつつ、1個の「大きな核小体に融合」して核小体として成熟するのが普通だと考えられます。これが核小体の大型化の背景です。仮に5個の核小体が融合しないままそれぞれ別々に存在した場合、rRNA合成の終わりの停止機構が利かないために存在するようなことが想像できますが、実態はどうでしょう。その「融合できない、あるいは、活動を停止できない」こと自体がすでに異常な形態と考えなければなりません。

 さて、核小体は塩基好性であることはよく知られた事実です。核小体の塩基好性はrRNA合成初期のRNAが「リボ核酸の性質」として「塩基性色素に染まる」という染色所見です。リンパ球系の核小体は、骨髄の赤芽球系ほど塩基好性の強さが著明な核小体としては通常では観察できません。その理由の1つは、血中で活性化されたリンパ球がリンパ組織へ移動するためと思われます。

 しかし、PHA添加によるリンパ球培養では、実験的に最大限に活性化され、リンパ球系にはめずらしいほどの大型の核小体を観察できます。その大きさは1〜3μmまでの楕円形で、大きなものは円形で1個、長径2μmで中程度のときには3個くらいが寄り合って存在し、青く染まっているのが観察されます。これらはPHA添加による刺激で核小体が一斉に形成されたことを意味しています。

 そして、核小体の数は正常な造血細胞系の前赤芽球や骨髄芽球、およびリンパ球のPHA添加培養では核小体が融合してまとまり、その「融合する性質」のために5個を越えて認められることはないものと思われます。末梢血では活性化されたリンパ球が大型(異型リンパ球群の一部)になって、「芽球様細胞」とみてよい細胞に大型の核小体として存在しています。

 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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