中竹俊彦 リンパ球の世界(IV)-リンパ球形態の各部の意味(2007)-16.リンパ球の核膜面積の増加

リンパ球の世界(IV

 リンパ球形態の各部の意味

16.リンパ球の核膜面積の増加

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

 私たちは核の著しい形態異常をリンパ性腫瘍細胞から読み取り、その形態異常だけを指摘して観察を終わっている、と私自身の反省を含めて思っています。ところが、例えば成人T細胞性白血病細胞(ATL)で核の特徴的な形態(花細胞)を示す細胞は、その後も何回でも細胞分裂するのかどうかを「リンパ球の形態学の基本」に立ち帰って推理し、洞察してみる必要があると思います。

 私は「これらの細胞はさらに増殖できると判断しますか?」と聞かれたとき、その返答の重大さに気づかされたという気がします。つまり、「核の切れ込み」のある細胞は、立体的にイメージすると核膜の表面積が細胞にとっては必要以上に広いとみなければならないからです。その核は形が複雑なほど、分裂可能な細胞としては極めて異常な広さ(核の表面積)になっているという所見です。細胞分裂が正常に機能するには、核の構造と分裂に関する機能とが整っていることが必要です。核膜面積の増加があれば、核は細胞分裂へ向かって正常には機能できないと思われます。

 私はこのような「核の切れ込み」のある所見から、自律的に増殖する腫瘍細胞といえども核が不整な細胞は次の細胞分裂ができるのか、という疑問がわいてもおかしくないと思います。逆に、それでも細胞分裂可能なのかという判断を間接的に求められているともいえます。それ以降の細胞分裂はできないだろうと推定、または判断されるとき、私たちは腫瘍細胞の中にも次回の細胞分裂はできない細胞があることを想定し、認めなければなりません。

 私たちの行う「観察」は、腫瘍細胞の細胞分裂と増殖では、前段のセルサイクルのどの段階で核の異常形態をもたらすことになったのか、という観察(文字どおり観て、察する)つまり、経験と考察を通じた「洞察」が必要になってくるのです。

 私たちが塗抹標本でリンパ球を観察するとき、核の辺縁の細部をみると、リンパ球の核の周辺が乱れていて、核膜は核を正常に覆っていないのではないかとみられる所見があります。核の形態異常がさほど強くないリンパ球にも、詳細にみると小型の核にもかかわらず核の辺縁が乱れて、辺縁が滑らかではなくなっていることもあります。これらの部位に核膜が正常に再構成できていないのならば、核の機能不全はもとより、細胞の機能自体に障害が起きてくるのは当然だろうと推定されます。

 核膜がなければ核液(核内には液体成分がある)は維持できません。また、核の濃縮クロマチン分散クロマチンに変化できないと思われます。

 核膜が部分的にしろ形成できない核があると仮定すると、核液は細胞質へ流出し、分散クロマチンが形成されたら細胞質へ拡散してしまうはずで、細胞の崩壊を意味します。

 私たちの観察は細胞の核の辺縁を詳細に見ているとしても、核の辺縁は核膜を見ているのではありません。核膜がない部分をじかに見ているわけではなく、光顕では一見すると核の辺縁に核膜がないように思われるということなのであって、その判断および表現は慎重でなくてはならないでしょう。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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