重要なポイント(シリーズ630-1-ret.

 

 詳細解説特殊染色の方法とその読み方

                 杏林大学保健学部 臨床血液学(教授) 中竹 俊彦

 この解説の次に,パワーポイントで特殊染色は(シリーズ630)に提示しています。

シリーズ630-1-1

I.網(状)赤血球染色(reticulocyte stain)

 

I-1.原理

 若い赤血球(新生赤血球)内に残るrRNA,ミトコンドリア,紡錘糸など特定の構造物は,ニューメチレン青など特殊な塩基性色素で生の赤血球に染め出されます.

 一方,新生赤血球はメタノール固定後,普通染色では多染性で青く染まります.それはrRNAが多いということであり,こちらは固定された後のことで,メチレン青など塩基好性色素で染まります.

 

I-2.背景

 生きている細胞は,細胞活動に必要な物質であれば受容体を介して細胞内へ取り込む一方,不必要な物質(例えば,色素やイオン化した物質)は,細胞自体の生命活動へ影響するはずなので全く受け付けないか,もしくは,いったん細胞内へ入ろうとしてもトリパンブルーなどの例では排除,または排泄されます.したがって,死細胞だけが染色されます.

 昔は赤血球寿命を測定するためのマーカー(ラベル)として例えば,放射性クロム(51Cr)やリン(32P)などのイオンが赤血球に結合する性質を利用して利用されました.色素類はイオン化すると,その水溶液が酸性の性質のものは「酸性色素」として,同様に塩基性色素,中性色素などに分類されます.

 塩基性色素のうち前記の物質は細胞内へ取り込まれ,色素が細胞活動へ致命的な影響を与えるものですが,化学的に超微細構造へ結合するから毒性なのです.すなわち,このような化学的理由で染色可能なことが知られています.

 血液学では生きている赤血球が塩基性色素のうち代表的な「ニューメチレン青(CI-52030)」および「ブリリアントクレシル青(CI-51010)」で染まるので,生きた細胞の染色に現在も利用されます.この両色素はミトコンドリアや紡錘糸,リボソーム類に結合し,細胞内でそれらの超微細構造物が互いに凝集するという特性があります.

 測定の意義:

 赤血球数は末梢血で寿命を迎える「老化赤血球になる」が,骨髄で新生される「網赤血球数」とほぼ等しいとき,体内では赤血球数が一定に維持できる.網赤血球数が分かれば,骨髄の造血能を知ることができる.溶血性貧血では持続的に高値,再生不良性では低値.

 

I-3.方法

1)従来法:ブレッカー(Brecher)法:

ニューメチレン青(CI-52030),または,パッペンハイム(Pappenheim)法はブリリアントクレシル青(CI-51010)で超生体染色し,網状〜顆粒物質の「構造物」をもつ赤血球のみを全赤血球数との比率で求め,絶対数に換算します.均一に濃く染まる赤血球は除外.

 ガラス毛細管(キャピラリー)の内面に色素を塗布して乾燥した製品(キャピロットR:テルモ製)を用いると簡便で(以下,具体的な方法については「実技編」を参照).

2)自動測定法:

 赤血球内のRNAは,特定の塩基性色素か,または蛍光色素の1つ(オーラミンO)で染色されます.自動計数装置(Sysmex製品など)は蛍光色素で染色後,アルゴンレーザー光学系に閾値を設定し,一定範囲内の染色された網赤血球が計数されます.

 強い鉄欠乏状態では,網状構造物の他に残余分のrRNAが「高い蛍光を示す血球(HFR):幼若網赤血球」として検出されるらしく,妊婦の高度貧血で高値傾向があるほか,重症貧血からの回復初期にも従来法の網赤血球より早い時期から増加するとされています.大型血小板や巨大血小板増加,赤芽球出現,寒冷凝集素価高値(赤血球凝集)で高値:著明な症例では従来法で再確認 する必要がある様です.

自動化された装置はこの他にコールター(ベックマン・コールター社),セルダイン(アボット社)等々の製品があり,それぞれに組み込まれた「方法の原理と染色原理(企業秘密部分もある)」に依存するので,各機種の取扱説明書にゆずります.

 

I-4.読み方とその要点(染色された画像:マルクマスターR:細胞像と病態用語Step13:reticulocyte参照

1)再生不良性貧血では減少:骨髄の赤芽球は低形成

2)悪性貧血では減少骨髄の赤芽球は過形成(無効造血・過少評価:骨髄内滞在時間の遅延のために注意)

3)鉄欠乏性貧血で減少(貧血が高度になると増加する例など,不定

4)溶血性貧血で持続性に増加骨髄の赤芽球は過形成(過大評価:骨髄内滞在時間の短縮のために注意)

5)急性大量出血後,または貧血に適切な治療薬が用いられると応答し,一過性に増加:網赤血球分利(Hb増加率に随伴)

 

(参考資料)

1.中竹俊彦:骨髄像の解析と表現法(1)

2.中竹俊彦:骨髄像の解析と表現法(2)‐リンパ球を追う‐

3.中竹俊彦:マルクマスター,ブラストマスター(ともに,CD-ROM教材)

次のシリーズ620へ移る

 

次々:特殊染色:シリーズ630へ移る

<シリーズ000の目次へ戻る>

次のシリーズ000

<総合目次へ戻る>

<教材の御案内>

 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

入手方法の問い合わせ( nakatake@kdt.biglobe.ne.jp )半角アットマークで可能です。