中竹 俊彦

 リンパ球を追う(シリーズ100リンパ球の世界(I)-1-4.1個の核小体の意味

リンパ球の世界(I)

  ‐リンパ球の核心に触れる‐

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

1−4. 1個の核小体の意味

 リンパ球は胸腺に由来するTリンパ球、またはリンパ節で生まれたBリンパ球(いずれも、新生リンパ球)が、骨髄・脾臓などで生まれたNK細胞とともに「成熟型リンパ球」として末梢血に登場します。この初期の段階では、核は休止期にあると考えられています。血中へ移動の途中では核小体形成体は存在しても小さく、いわゆる核小体に成熟していないと解釈されます。

 リンパ球に共通して細胞質は、すでに淡青色で、そこには塩基好性のリボソームが準備されており、細胞膜には受容体機能をもつ分化マーカーが発現されているはずです。その状態で血流を経由して、やがて一度は血管からでて組織を通り、リンパ節、脾臓に定着します。

 リンパ節ではT、Bリンパ球の定着位置が決まっていて、NK細胞は脾臓に圧倒的に多いなど「棲み分け(縄張り)」ができています。T、B、NK細胞それぞれの定着場所では、リンパ節へきた樹状細胞からリンパ節へもたらされる抗原情報をT、Bリンパ球が受け取ります。

 そのときどきの抗原情報刺激によって、Tリンパ球はインターロイキン類(interleukin(s):IL)を産生するように活性化されます。特に、Bリンパ球はさらに「抗体の多様性」の必要から、分化するために細胞分裂を何段階か末梢リンパ組織内で経過します。

 Bリンパ球の細胞分裂では、絶対数が増加するので、そこにリンパ濾胞ができます(一次濾胞、二次濾胞の形成)。細胞分裂後、娘細胞の1個は免疫記憶細胞として残ります。

 もう1個は感作(免疫記憶)リンパ球として再度、静脈血液に乗って末梢血に再循環して巡回し、動脈、細動脈、後毛細管細静脈から組織(皮膚、粘膜その他)へ出て、末梢組織で抗原に再び出会う機会を待ちます。Tリンパ球もまた同様に、再循環しています。

 この再循環リンパ球が末梢血に来ているときは、核小体を1個持っていると考えられます。核小体が1個あるということは、セルサイクルでいうと休止期からすでに第1間期(G1期)を経て、合成期(S期)の初期に入ってきていることになり、すでに休止期以降であり、核自体は活動に必要な刺激を1回受けていることが明らかです。

 末梢血リンパ球のうち、核小体が認められるリンパ球が何個(あるいは、何%)くらいあるのか、実態を詳しく調べているデータを私は知りませんが、臨床血液学的な意義を具体的に明らかにできないのです。

 従来から、正常リンパ球と核小体の「発現された意義」そのものが、「具体的な議論および認知」をされていないものと考えます。血液病学成書などにおいても、末梢血には再循環リンパ球がある、という事実の記載、そして核小体は認められるものがある、というだけの表記で終わっています。

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

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