中竹俊彦 III-B.リンパ球をどうみるか(2007)-12.リンパ球形態所見の数量化と鑑別-1)数量化と表現、細胞の鑑別(differentiation)の難しさ

リンパ球の世界(3‐B)

B.リンパ球をどうみるか

12.形態所見の数量化と鑑別

                          杏林大学 保健学部 臨床血液学 中竹 俊彦

12−1)数量化と表現、細胞の鑑別(differentiation)の難しさ

 リンパ球の形態は、従来の血液形態学において白血球の種類のうちでは形態学的に「特徴が乏しいもの」とみられ続けてきました。しかし、決してそうではなく、血液形態学者の観察眼ではリンパ球の多様性がみえていたと想像できます。しかし、リンパ球形態の所見は、数量化表現方法が困難です。

 臨床検査は精密さ、正確さ、客観性を追究する反面、簡便さ、迅速性、経済性を優先してきた関係で、現在のように白血球の鑑別・分類(differential counts)までも自動分類が実現しました。さらに、標本作製の基準とも言えるような、血液自動塗抹装置「スピナー」と呼ばれるスライドグラスが水平回転する上に血液を一定量乗せる塗抹標本作製装置やウェッジ法の自動化も実現しました。そして自動染色装置、顕微鏡を内蔵した自動血球分類装置も実現しました。しかし、光顕を搭載した自動血球分類装置では、異型リンパ球や幼若細胞の「存在」は指摘できましたが判定基準の設定が難しく、判読が普遍化できず限界の壁に直面しました。また、計測する細胞数も少なく、時間的にみると効率が悪かったのです。

12−2)自動計数装置と実体確認の障壁

 現在はフローシステムの自動血球計数装置が高い精度で白血球の特徴を(数量化し)解析できるまでに発達しました。いわゆる異型リンパ球あるいは幼若細胞集団もある程度まで鑑別できます。それらの細胞群の出現を意味する「警告(サスペクト)」を「フラッグで表示する」機能が発展しました。しかし、同じ細胞を実物(実体)として誰も見ることができないという欠点をもっています。迅速に光顕で見直して報告したいのですべての検体の塗抹標本を前もって作製しておくという、自動化と矛盾する標本作製の必要に迫られています。標本作製の手間と費用および顕微鏡的な細胞鑑別能力などは、自動化しても誰かが負担し、実行しなければなりません。

 今後も自動血球分類装置が発展・普及し一般化すると、一方では分類の基本になる形態学の学習や教育、臨床検査現場での技術継承が難しくなる問題(実体確認の障壁)も発生してきました。とくに、細胞の形態をじかに見て確認するための技術的な判断基準が現場で教育できないという、大きな問題が派生しています。少なくともリンパ球形態人工的変化異型リンパ球白血病細胞を形態学的に、迅速に決める必要性は今後も変わらないのです。

 形態学の基本は、自分の観察能力で細胞の細部までを観察し、多様性のある形態変化を見抜き、異常さを見破るという鑑別能力が重要であり、見抜く方法はまさに「穴のあくほど、対象をよくみる」というような観察の基本をマスターすることに尽きます。

12−3)リンパ球形態の細胞学的意味

 観察の結果、リンパ球形態の微妙な変化の奥にある「細胞学的意味」を見抜き、隠れた異常を見破ってこそ形態学的検査といえます。それに加えて、私たちは自動血球計数装置を便利に使い、その情報を人の判断能力と解析能力とで有効に活用する能力を求められています。

 臨床検査は進歩したこの時代の測定技術による情報を有効活用し、証拠に基づく考え方を構成することが大切です。リンパ球の形態学は、細胞観察能力のある人にしか読み取ることができない、臨床検査技術学(他分野には、技術は学ではないとの批判もありますが、学ぶという点で形態学)の到達目標の一つではないかとさえ思えます。

 具体的に私たちは、リンパ球の1個の細胞質に含まれるアズール顆粒の大きさ、数、成分、機能などの意義について、どれくらいの情報を知識としてもっているのでしょうか。

 リンパ球形態の情報といっても、実態を正確に捉えているのかどうかさえも疑問で、従来の記述のうえでは情報量が少なく、記述の解釈も読者に任せられています。そこから認識の違いが生じていると思われます。

 私たちはリンパ球の多様性を血液形態学の手順に沿って着実に学習し、理解を深め、実体を観察して、目前のリンパ球の情報である「本当の姿、実態」を集積・統合して、病的な状態を判断する能力を高める必要があります。これは簡単にいうと「細胞鑑別の観察眼と考察する能力」を高めることです。その具体的な方法は以下の教材、あるいは解説書2)を参照してください。 考え方の概略は以上のようなことであると思います。                             (この項 終わり)

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 体裁

 B5版(本文 305頁)

 目次(序論・1〜24まで9頁)

 索引(欧文A〜Z 2頁、和文索引19頁 合計21頁)

  (頒布いたします)

入手方法の問い合わせ(nakatake@kdt.biglobe.ne.jp)半角アットマークで可能です。