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杆状核球の核形態を解析 page2/2

3 分節核の−部の萎縮(図3A,B,C)

 分節核の−部が萎縮し,クロマチンが濃染された像は,好中球(図3A)だけでなく好酸球にも生じる(図3B,C).

 遊走能が十分に発揮できないと分節核でも機能が果たせず変性する.杆状核球が分節核になっても機能的に十分成熟する滞在時間が骨髄で必要な理由がここにある.また,局所で顆粒球に対してサイトカインが抑制的に作用すれば,機能障害や細胞死もおこりうる.

図3 分節核の部分的な壊死

炎症近傍の内皮下への進入では核が大きすぎて、力尽き,部分的な核変性後,血流へ押しもどされたとみられる分節核球(A),と好酸球(B)(C)

4 好中球遊走能と核の形

 好中球が平面上で遊走する状況は,よい条件を与えると観察できる.図4は好中球膜にあるNBT還元能を応用して,好中球遊走の軌跡を染色したものである.平面遊走の観察では細胞間の隙間や小孔を通過する遊走能とはまた条件が違い,観察は一元的には比較できない.

 好中球が血管から内皮細胞の外へ出るときは,逆立ち状態で内皮細抱間にもぐり込み,血管内に残った部分は尻振り運動ともいえる運動をするらしい.分節核の間が長く伸びるほど細胞質が進入しやすく,くぐり抜けは容易に出きると思われる.

図4 好中球の平面遊走像

遊走は断続的に細胞質の前方伸長,後方での収縮を行うらしい.核も分節核の「核橋」の状態からは杆状核に戻る事が十分考えられる.

5 末梢血,骨髄の杆状核球は全く同一形態とみてよいのか?

 図5aは骨髄の少し未熟な杆状核球を示す.骨髄では杆状核球の核幅が明らかに1マイクロメートルほど大きい細胞が認められる.この杆状核球の核幅は5マイクロメートルで赤芽球核と同じ幅の時期である.これらは普通では末梢血には出られない.

 図5bは骨髄の成熟杆状核球で,ここでは杆状核球増加と分節核球の減少が特徴的であるという点をパタン(像)として認識するとよい.分節核球はすでに動員されて減少している.逆に末梢血で好中球域少があるにもかかわらず,萎縮分節核球が多く残っているときは動員できないという点で意味が違う.

 成熟段階の移行像と境界部分を正確に読み分ける観察力がつくと,細菌感染だけてはなく成熟過程の障害や薬剤副作用による骨髄抑制など,顆粒球系の二次的異常としての中毒性顆粒をもつ好中球系増多の意味も読み取れる.

図5 骨髄の杆状核球の核幅

骨髄での杆状核球は,末梢血のものよりも核幅が明らかに1マイクロメートル(a)が認められる.杆状核球の核幅が5マイクロメートルのときは赤芽球と同様に滞在時期.これが多いときは成熟型(b)は少ない.

6 杆状核球が過大に誤判定される危険

 核の両端が大きいまま中央部で2つに折れ曲がった核,片方の端が大きく一方がやや細く変形した核など,核の移行像を核の曲がりだけで杆状核球に判定すると,杆状核球を過大に,後骨髄球は過少に評価されてしまう.

 後骨髄球と判定すべきもの(図6a)を杆状核球にすると後骨髄球段階(b)の分布比率(%)は低く,杆状核球の比率が高くなり,なぜそこに後骨髄球の谷間が生じたのか説明困難なパタンができてしまう.この例は無顆粒球症で,骨髄には成熟好中球が無く,末梢血に動員できない状態を示している.

図6 後骨髄球にも2つの成熟段階

後骨髄球にもa,b2つの成熟段階があり,aを杆状核球と誤認してはいけない.

文献
1)中竹俊彦:骨髄像の解析と表現.第1巻,1993(出阪連絡先:杏林大学保健学部臨床血液学教室)
出典
中竹俊彦,高橋 良,関根名里子:血液細胞の社会をのぞく(8)後骨髄球の核形態を解析.医学検査45巻 1号.

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